女性が「アメリカが母体で、各国に支社を持つ外資系企業」で働くことになったきっかけは、とあるビジネス向けSNSで声をかけられたことだった。留学経験があり、海外企業や外資系企業でその語学力を活かして働いてきた経歴が会社側の目に止まったようだ。
ただ、最初の依頼はシンプルに「社外協力者として業務委託契約で働いて欲しい」というもの。ちょうど正社員を辞めてフリーランスとして活動を始めたタイミングだった女性は、これ幸いと仕事を請けることにしたという。
「私がスカウトされたのは日本支社ができたばかりで、新しい部署を立ち上げるタイミングでした。ちょうどフリーになったばかりで仕事を探していたので、ほかの企業からの仕事も請けながら、月に1~2回、成果物を納品するようになりました」
このときは会社の雇われ部門長に依頼され、自由な時間帯に自由に作業をして納品するだけの関係性だった。変化が起きたのは数年後。それまで担当してくれていた日本人の担当者が退職することになり、「後任としてその部署に入って業務を統括してくれないか」という打診をされたのだという。
「確かに長い間、仕事の関係は築いていましたが、そこまで濃厚な付き合いというわけではなかったので『ほかの方にお願いした方がいいのでは』と思いました。でも結局は『社員にならず、フリーランスのまま働いてもらうのでもかまわない』と説得されたこともあり、悩んだ末に承諾したんです。でも、仕事を引き継いでから3ヶ月が経った頃、各国の部門を取りまとめる外国人のリーダーから『やっぱり正社員になってほしい』と懇願されました」
当時、日本のその部署には正社員がおらず、女性のほかはフリーランスの契約社員が1人在籍しているのみ。部門の運営方針や予算などは、海外本部と英語で打ち合わせる必要があるため、「自分が正社員になったほうが、確かに仕事はスムーズだろう」と考えた女性は、この申し出を受けることにしたという。
その後も、仕事自体にはやりがいがあり、楽しく取り組めていた。しかし、正社員になってからわずか10ヶ月後、女性は唐突に「クビ」を宣告された。しかも、女性に正社員になることを懇願してきた上司からだった。
「いつも通り仕事をこなしていたある日、突然直属の上司から『15分後にミーティングできる?』と連絡がありました。『人事も同席する』とのことだったので、良くない話をされるという予感はあったのですが、開口一番『来月にはもうあなたの仕事はないの』と告げられ、本当に驚きました。日本支社の業績不振が理由で私の部門をクローズするということでしたが、あまりにも唐突で……。会社側が勝手に設定した私の退職日は、そのミーティングからわずか3週間後だったんです」
会社都合でやむを得ず従業員のクビを切るときには、再就職先を探す余裕を与えるため、2~3か月の猶予をもたせることもよくある。しかし女性に与えられたのは、わずか1か月未満という時間だった。
実は、さまざまな外資系企業で働いてきた女性が、このような企業に出会うのは初めてではなかった。自分の身に降りかかったことはなかったものの、日本の労働基準法では到底許されないような解雇をされ、職場を去ることになった同僚を見たことは何度もあるそうだ。
「アメリカの金融関連会社に勤めているときは、『業績が悪いから、明日からもう来なくていい』と上司に言われ、その場で荷物をまとめさせられる人もいました。もちろん訴訟になるケースもありましたが、たいていはみんなそのまま黙って辞めていくんです。裁判で争うとなるとお金も時間もかかりますし、新しい仕事を探さなくてはならないから」
今回、女性を驚かせたのが、「部門を閉鎖することは、社外協力者にも告げないように」と指示されたことだった。
「日本でのビジネス自体は縮小しながらも継続していくので、ある一部門を閉めることが公になると、イメージダウンにつながりかねないと危惧したのでしょう。『社外協力者や顧客にはどう説明するんですか』と質問しても、『一時的にサービスが止まるだけだと言えばいい。でも停止の理由や期間については説明しないで』というむちゃくちゃな回答。私があ然としている間にたった30分の短いミーティングは終わり、翌日には、退職と口外禁止に同意する書類が送られてきて、それにサインするよう求められました」
もう一刻の猶予も与えたくないのだろうか。とんでもないスピード感である。
こんな一方的な書類に同意サインをする義理はないのだが、女性も「会社と争うよりも、前を向いて早く次の仕事を探したい」と考えて同意を受け入れたそうだ。確かに、恩を仇で返すような身勝手企業に付き合ってあげる義理もない。さっさと気分を切り替えて「次」というのが、個人としては正解だろう。
ただ、女性は「もっと抵抗するべきだったのかもしれない」と後悔することもあるという。彼女同様、不当に解雇された他部署の日本人社員や、残された社員の力になれたかもしれないと思うからだ。
女性は「本来なら、こんな唐突なリストラは許されないはず。会社がこのようなことを繰り返さないよう、もう少し抵抗するべきだったと反省しています。もし今、当時の私のような状況にいる人にアドバイスができるのなら、『会社に都合の良すぎる書類には簡単にサインしないで』『然るべきところに相談して』と言いたいです」と話していた。