そのバイト先コンビニは、埼玉県の私鉄沿線の、いわゆる住宅街にあった。
「もとは地元で古くから営んでいる酒屋だったそうで、非常にアットホームな店でした。周囲は古い住宅地なので店長の顔なじみの客も多く、よくあるコンビニみたいな殺伐とした雰囲気はなかったですね」
一言でいうと「個人商店のノリ」が色濃く残っている店。アルバイトを雇うのも深夜帯のみで、いわゆる普通の商店が開いているような時間帯は店長の家族で店を切り盛りしていたという。
「特に店長の奥さんは、客がいないときはレジの内側に椅子をおいて腰掛けていて、客が来ると、よっこらしょと立ち上がる感じ。3度もくれば常連扱いで雑談をはじめようとするんです。今思えばユルすぎる店でしたね」
そんな雰囲気ゆえか、買い物ついでに店員と話し込もうとする常連客が多かったのだが、中でも特に際立っていたのが「宇宙人」と「魔法使い」だったという。
「まず宇宙人のほうは、70歳くらいの男性です。週に2回、明け方近くの午前4時過ぎに週刊誌と缶コーヒーを買いにくるんです。最初は早起きなおじいさんかな……くらいに思っていたんです」
いつもレジでは「歳を取ると寝られないなあ」といって天気のこととかを話していく程度だった。ところが、男性がバイトをはじめて数ヶ月目のこと、男性は突然自分の秘密を話し始めた。
「いつものように早く目が覚めることを話始めたので『身体のつくりが変わるんですかね』と答えたんです。そうしたら、ふっと真面目な顔をして耳元で、こう囁いたんです。『そうなんだ、実は俺は宇宙人なんだ』」
驚いて返答に困った男性に”宇宙人”は、こう告げて去っていったという。
「こんなに早く気づくとは、あんた見込みあるよ!」
そんな告白を受けた翌朝、やってきた店長にそんな出来事を告げると、彼はにこやかに「ついに教えて貰えたんだね」と言い出した。
「店長によれば、既に10年以上の常連客だというのです。これまでわかっていることは、アンドロメダ星雲から来たということと、本当の年齢は5万6000歳くらいということです」
店長がこれまで聞いたところによれば、70年ほど前に地球に来た際に宇宙船が故障してしまったために、人間の子供に変身して迎えが来るのを待っているということであった。ちなみにアンドロメダ星雲が遠いため、いまだにやってくる気配がないが寿命が長いので気長に待っているというのだ。
「その後も変わらず買い物をしていったんですが、数回に一度は『宇宙船が来たら、一緒にアンドロメダ星雲にいかないか』とか誘われました。なんでも自分みたいな男性はアンドロメダ星雲ではとても女性にモテるそうです」
なんとも奇妙な常連客。しかし、そのコンビニの常連客には、同じレベルの人物がいた。「魔法使い」がそれだ。
「いつも午前中に来るので、話だけ聞いていたのですが、こちらも70歳くらいの男性。なんでもこれまで魔法を使って世界平和のために頑張ってきたそうで、世界で起こっている災害や戦争をみんな『悪い魔法使いの仕業だ』と憤っているんだとか」
この奇妙な二人の常連客は店にやってくる時間帯が違うため、まったく遭遇しなかった。だが、ついに「出会いのとき」がやってきた。それは……。
「バイトをはじめて3年目の大みそかのことです。店長と二人で入っていたところ、午前0時を迎えた頃に魔法使いがやってきたんです」
その日は「今年は自分も最後の魔力を使って、世界を平和にするから」などと店長に語り始めたという魔法使い。そこへ、これまたいつもとは違う時間帯にやってきたのが宇宙人だった。
魔法使いと宇宙人との遭遇。いったい何が起きてしまうのか……。
「店長に魔法だとか世界平和を語っていた魔法使いを、宇宙人はジッとみていたんです。なにかヤバいのかな……と思ったら、魔法使いのほうも宇宙人の視線に気づいて話しかけたんです」
魔法使いの口から出たのは、こんな言葉だった。
「お、○○じゃないか!久しぶりだな」
「店長も自分も驚いたんですが、聞けば小中学校の同級生だというんです。そこからは、よくある久しぶりに出会った友人同士の会話でした」
いったい二人はいつから宇宙人と魔法使いになってしまったのか。それを聞きそびれたのが男性は心残りだという。