女性が勤務していたのは100人ほどの規模の介護業者。現場ではなく、本部で経理などの事務を担当していたところ、問題だらけの実態が浮かび上がってきたという。
たとえば、本部に現場から上がってくる意見・要望。これは軒並みスルーされる。しかも、現場にもとっくに「スルーされること」は知れ渡っている。ようは現場には「何を言っても無駄」という雰囲気が蔓延しているわけだ。そんな状況なのに、のんきな管理職たちは「どうして現場の人たちは意見を言ってくれないのかしら、と首をかしげていた」という。
この1点だけでも、だいぶヤバい職場だというのが伝わってくるのだが、他のエピソードも聞いていくと、案の定という感じだ。
「残業代は1円もでませんでした。私のいた本部では9時始業ですが、8時20分にきて掃除や着替え、朝礼などがありました。しかし、早出手当は絶対に出しません。有給も使うことはできましたけど、いちいち理由をきいてきて出し渋りをされました」
残業代は払わず、有給は渋る。典型的なダメ職場という感じしかしない。
さらに救えないのが、「他人のミスや知識不足を馬鹿にするカルチャー」だ。
「私は経理の仕事は初めてで、わからないことだらけでした。ところが、少し的外れな質問をするとそれをずーーーっとからかわれつづけました。おまけに間違いをずっとからかってきたり、ミスが多いといわれたり……上司も同じくらいミスしていたにもかかわらず、です」
それでも2年は耐えていた女性だが、ある日突然上司(女性)に別室によばれて詰問された。
「あなたにはいろいろ不足しているところがあります。そこがなにかは言いません。自分で考えてください。…そして足りないところを直すためにどうしていきますか?」というのである。
いきなり呼ばれて「考えろ」と言われても、ヒントも具体性もまったくない。困惑しつつも「知識が不足しているので簿記をとろうと思っています」と答えたところ……。
それについて意見を述べるわけでもなく、ただただ「嘲笑された」のだという。
その時、女性の中でなにかが弾けた。
「こんな会社にはいたくないと思って、すぐに辞めますといいました」
こんな無茶ぶりをしておいて、それでいて会社から追い出そうとしていたのではないらしい。辞めると聞いて上司は驚いたようで、「鳩が豆鉄砲をくらった」という言葉そのままの顔をしていたという。
「当時は一人暮らしだったので、簡単にはやめないと思っていたんでしょう。それで足元をみているのもわかっていたので、余計に長くいたくないと思いましたね」
しかし、退職が決まったあとも、上司からの嫌がらせは止まらなかった。
「保険証は早く返せと要求するくせに、離職票を出そうとしないのです。何度も請求したのですが『社労士にお願いしているがまだできていない』と繰り返すばかり。じゃあ自分で取りにいくといえば、迷惑だといいます。どっちが迷惑なんでしょうね」
その後の再就職は楽ではなく、職業訓練校に通って次の職場を見つけるまで半年あまりかかった。しかし、辞めたことに後悔はないそうだ。
ひとの足もとを見て、法令違反やいじめをしてくるような職場に居続ける価値はない、ということだろう。世の中そんな職場ばかりではないのだから。