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クルマは貸すけど「勝手に村から出てはいけない」 地方での有償ボランティアで地獄を見た男性

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時間の流れの緩やかな山奥の田舎で、人の役に立ち感謝されながら毎日を送りたい。そんな夢を持って暮らし始めた村は、ブラック企業も青ざめる地獄だった――。関西在住の40代男性は、過疎地での有償ボランティアで訪れた東北地方での悲惨な半年間を語った。(取材・文:昼間たかし)

外国人技能実習生と同じアパートに住むことに

男性が、まったく縁のない村に住むことになったのは15年ほど前のこと。男性は就職氷河期世代で正社員になることができず、当時は派遣社員として都市部で働いていた。なにか人生を変える転機が欲しいと考えたという。

「偏差値の高い国立大学を卒業したというのにワーキングプア。当時は、このままじゃいけないという思いが強かったんです。どこか新天地で人生をリスタートしたい、と。しかし、英語は苦手なので青年海外協力隊は難しそうだなと思っていたところ、見つけたのが過疎地での有償ボランティアだったんです」

そのボランティアは、高齢化の進む過疎地の村で地場産品のPRや、農林水産業への従事、そのほか地域協力活動に従事するというもの。現在も続いている、その事業のサイトでは地元の特産品の販路を開発した、独自商品をPRなど、やたらとキラキラした言葉が並んでいる。

決して能力の高くない自分でも、過疎地の村ならば、なにか役に立てるかも知れない。そう考えた男性の受け入れ先となったのは東北地方北部の山間部の小自治体。内陸部と沿岸部を結ぶ道路は通っているが鉄道駅はなく、1日に数本のバスが通る以外は外界とは隔絶された村だった。

「最寄りの駅まで迎えに来てくれた役場の人の車で、これから住むことになるアパートに向かいました。アパートは、そこそこ綺麗な1K。土地は広いのにユニットバスでしたけど。驚いたのは、両隣の部屋に挨拶をした時でした」

両隣とも住んでいるのは東南アジア系の外国人。あとでわかったがそのアパートは、農作業に従事している外国人技能実習生のためのものだった。しかし驚くのは、まだ早かった。公共交通機関の少ない村では移動のために、役所がクルマを貸してくれることになっていたのだが、受け取りにいったところ、こういわれた。

「勝手に村から出てはいけない」

聞けば、クルマの保険は村内で運転する限りという条件で保険料を安く抑えているからだという。

「とはいえ、村にあるのは昔ながらの個人商店と、道の駅とコンビニが一軒あるだけ。住民はみんな隣町にある大きめのスーパーで日用品や食材を買っているんです。村から出るなといわれたら、そういったところにすら出かけることができません。てっきり、一声かければよい程度の規則だと思っていたんですが、車で村を出るにはいちいち書類を書いて提出しなければならないんです。スーパーに出かけるだけでですよ?」

結局、住んでいる間ずっとコンビニで割高な日用品を買うことを強いられることになった。

「命令すれば雑用をなんでもする便利なロボットみたいな扱いです」

そして労働も想定外に辛かった。

「有償ボランティアの報酬は月額15万円程度と悪くはありませんでした。ただ家賃や光熱費、ガソリン代などは自前です。そして、とにかく労働が辛い」

まずメインの労働は道の駅での雑用。朝7時過ぎには出勤して野菜の袋詰め、陳列に始まり、品だしやレジ打ちなどの作業が続く。18時過ぎに帰ることができればよいほう。おまけに、地元民の店員やパート従業員はずっと土地の方言で話していて、何を言っているかわからない。こちらには仕事を命じてくるほかは、話しかけてすらこない。

「とにかく、命令すれば雑用をなんでもする便利なロボットみたいな扱いです。交流なんてものはまったくありませんでした」

そんな労働がほぼ週6日。さらに休みの日にも地域の活動や農作業の手伝いで外国人実習生に交じって働くこともあった。

「役場の人も、コイツはたくさん貰ってるんだから、少しでも使わないと損だ……という態度でした」

塀のない牢獄のような生活の中で、唯一の楽しみは深夜のコンビニで実話誌を立ち読みすることだったという。

「ネット環境も整っていなかったので『実話ナックルズ』だけが、心の支えになっていました」

結局半年後、男性は東京の事務局に「もう無理です」と電話をして村を逃げ出したという。

「それでも田舎への憧れはあります。きっとあんな酷い村は、あそこだけなのだと信じたいです」

いまも生活は楽ではないが、あの経験があればこそ多少の苦労も気にはならないと男性はいう。

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