「男子は理系科目が得意で、女子は文系科目が得意」というイメージを持っている方も多いと思います。OECDによる学習到達度調査によると、男子は数学や科学の問題で、女子は読解力の問題で正答率が高くなっており、この言説はあながち間違いとは言えません。
一方で、日本の女子の数学・科学の正答率は、諸外国の男子の正答率をはるかに上回っており、男女差よりも環境が重要であることがわかります。
さらにベネッセ教育研究所の「第5回学習基本調査」(2015年)によると、理系科目への興味や関心は小学生では男女差がほとんど見られないこともわかっています。特に小学生女子は国語よりも理科が好きな子の割合が多いです。
ところが、高校生になると男女ともに自身が理系だと認識している割合が小学生より減っていることが、東京大学社会科学研究所・ベネッセ教育総合研究所の「子どもの生活と学びに関する親子調査」から読み取れます。中学校からは理系科目の難易度が上がり、さらに女子の場合は「女の子は文系」という指導上のバイアスが加わるため、「数学は苦手だけど、理科は好き」という女子たちも文系を選んでいる可能性がありそうです。
男の子はミニカーや戦隊もの、女の子はおままごとやお人形遊び
こうしたジェンダーバイアスはなぜ生まれるのでしょうか。以前、子ども向けのロボット教室を開いているとあるNPO代表の女性に話を聞いたところ、
「教室に参加するのは男の子ばかりで、女の子の保護者からは『女の子でも参加できますか?』という問い合わせが来る。男女は関係ないのに……」
と嘆いていました。
男の子はミニカーや戦隊ものが好きで、女の子はおままごとやお人形遊びを好むというように、私たちは子どもの頃からジェンダーバイアスに晒されています。親世代もそのように育てられたため、子どもにも無意識のうちに男らしさや女らしさを刷り込んでしまうのでしょう。
しかしこうした小さな積み重ねによって、女の子が理系分野に興味を持つ機会も、男の子が女性が得意とされてきた分野に親しむ機会も失われてしまいます。“男だから、女だから”ではなく、子どもたちが興味のあるものに触れさせて、知的好奇心を伸ばしていくことが大切です。
性別にとらわれない文理選択は、働き方の問題を解決する糸口になる
このようにジェンダーバイアスは日本社会において根深くはびこっています。例えば大学の医学部で行われていた不正入試問題。「女性は出産や育児で離職が多く、長時間労働にも耐えられない。医師の数を確保するためには、男性を多く入学させるべき」などの理由で、一部の大学が女性や多浪生に対して一律の減点措置を行っていたことが明らかになりました。
これは医学部生や医師だけの問題ではありません。女性が出産や育児の全てを担い、男性は家庭を犠牲にして長時間労働を行うという働き方は日本全体に当てはまります。その結果、女性が能力を発揮できず、男性が働きすぎで疲弊し、日本の労働生産性は非常に低いものとなっています。
もし誰もが、男女を問わず適材適所で能力を発揮することができたら、個人の働きやすさだけでなく、労働生産性の向上にもつながるはずです。性別にとらわれない文理選択は、日本が抱える働き方の問題を解決する糸口となるのではないでしょうか。もし学校の進路指導で「女子なんだから…」と言われることがあれば、保護者さまからもしっかり反論していただきたいと願っています。