平山さんが入社して6年ほど経った頃、事件が起きた。数十年の付き合いがあり、会社の売上の1割ほどを占める顧客から、ある製品の値段を尋ねられた時のこと。先輩は、とんでもないことを口走ったのだ。
「あろうことか先輩は『製造原価』を伝えてしまい、売値も先輩の妄想ベースのいい加減な数字を言ってしまったのです」
その製品は1セット10〜15万円ほどする装置だった。平山さんと先輩は修理を担当する部署に所属しており、お金のことは担当外。売値を知らないなら、営業担当者に聞くか、直接返事をしてもらえばよかった。しかし先輩は
「お客から『これいくら?』と聞かれた際に『原価が◯万円だから、売値は3掛けくらいかな……』」
と適当に言ってしまった。原価が30%だとすると、売値は原価の3.3倍ほどになる。社外秘である原価を客に漏らす行為は、ビジネスマンにとってご法度であることは言うまでもない。しかも実際の売値は、原価の4倍前後に設定されていたというから大失態だ。
上司の前で説教するも、「別に影響ないだろ」と開き直る先輩
先輩のありえない発言に、平山さんはすぐさまフォローに入り、なんとかその場を取り繕った。
「慌てて『何年前の原価の話をしてるんだ。今その程度のワケがないだろ』とごまかした上で、正確な値段を調べて客に伝えました。平気で原価を公言され、さすがに肝を冷やしました」
幸いにも、顧客は平山さんの言葉を信じてくれたようだ。平山さんによると「先輩と私を比較すると、私の方が見た目が真面目そうですし、技術的な話をしていても私の方が正確にわかりやすい説明ができた」ため、信頼を得られていたのだろう。
一方、問題発言をした張本人の先輩は「そうだっけ?」などと、とぼけるだけだった。後日、この件について上司の前で説教したが、暖簾に腕押し。当の先輩は、ミスをしたという自覚すらなかった。
「原価と売値の乖離を客に突かれて、値引きを要求されたらどうするんだ、と指摘しましたが、先輩は『別に影響ないだろ』と。ミスとは思っていない様子でした」
上層部にも衝撃走る
なぜ先輩は、社外秘の原価情報を漏らしてしまったのか。平山さんはこう推測する。
「単に頭が悪いから、何も考えてなかっただけだと思います。また、自分を大きく見せかけたくて『こんなことも知ってるんだぞ』のアピールのつもりもあったのかもしれませんね」
この一件は、顧客との関係にこそ大きな変化はなかったものの、会社にとっては看過できない大問題だ。後日、この先輩の処遇について上層部の偉い人と話す機会があった際に報告すると、かなり驚いていたという。
「『ありえない……』と絶句していました」
度重なる勤務態度の悪さに加え、社外秘情報の漏洩という重大なコンプライアンス違反。この出来事も、先輩が最終的に解雇される一因となったことは間違いないだろう。
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