もともとこの上司は、仕事が遅い上に上層部の顔色ばかりを気にするタイプだった。特に社長からのプレッシャーには弱く、「ハイ!」と威勢よく返事をするだけで、現場の河野さんに相談もなく無謀な目標を勝手に設定してしまったのだ。
「数年更新が止まっていたYouTubeチャンネルで、登録者数を3000人から1万人に増やすと言い出したんです。さらに、専門性が高くファクトチェックに時間のかかる10分程度の動画を『月4本出せ』と。そもそも、新規立ち上げと変わらない労力がかかることをまったく理解していませんでした」
たまりかねた河野さんが、「1本の動画の企画から撮影、編集までに、どれくらいの工程と時間がかかるかご存知ですか?」とわざと尋ねると、上司はこう答えたという。
「よくわからないけど、もう役員会で言ってしまったから(なんとかしろ)」
責任を丸投げする上司に、河野さんは「微塵も尊敬できない」と呆れ果てた。
軌道に乗ると「さも自分の指導が良いかのように」……社長への直訴で反撃
YouTubeチャンネルの運用を始めたものの、体制が整わず、更新は月1回のペースにとどまってしまう。
「仕方ないのでAIソフトなど自分で編集ができる方法を模索しました。残業はしない主義なので……業務量は増えましたが、結果的に製作スピードは却って早くなりましたね」
努力の甲斐あって、動画は月3~4本のペースで定期的にアップできるようになり、再生数も40%増加した。
「以前はアップしても50~100回程度しか再生されなかったのですが、今では1週間で数百回は見られるようになりました。同業者と思しき視聴者からも、定期的にコメントがつくようになったんです」
しかし、運営が軌道に乗り始めた途端、あの無責任な上司がさも自分の指導が良かったかのような態度を取り始めた。
「『最近見てくれる人が増えてきたね』と言いつつ、『でもチャンネル登録者数はまだまだだね』とか『なんか再生数悪くない?』などと、必ず否定的なことを付け加えてくるんです。本当に最悪でした」
今では「上司に圧をかけています」
上司の態度に辟易し、河野さんは退職を考えるようになった。だが、転機が訪れる。社長と直接話をする機会に恵まれたのだ。
「これまでの鬱憤や実態を、社長にすべてぶちまけました」
この直訴が功を奏し、上司の態度は少し変化した。連絡への反応も以前より早くなったという。河野さんは笑いながら現在の状況をこう語る。
「今は、しょうもない内容のメールでも必ずCCに社長を入れるようにして、上司に圧をかけています。相変わらず上司自身は何もしていませんが(笑)」
上司への不満を抱えながらも、試行錯誤を重ねて成果につなげた河野さん。YouTubeチャンネルの運用そのものよりも苦労したのは、むしろ社内調整だったのかもしれない。


