「残業100時間超えると記憶が飛ぶ。好きな仕事なのに気がついたら泣いてる」 Webディレクター(28歳女性)の場合 | キャリコネニュース
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「残業100時間超えると記憶が飛ぶ。好きな仕事なのに気がついたら泣いてる」 Webディレクター(28歳女性)の場合

残業100時間を超えると、どのような世界が見えるのだろう。今回は都内のWeb制作会社でディレクターを務める佐賀愛子さん(28歳・仮名)に話を聞いた。

渋谷の喫茶店で待ち合わせると、佐賀さんはド派手な柄のトップスを身に着け、ピアスとネックレスをきらめかせて現れた。金曜日の夜にクラブでガンガン躍って夏はBBQして冬はスノボに行くタイプのように見える。このパーティーピーポー然とした人が本当に100時間以上残業しているのだろうか。しかし「今日はよろしくお願いします」と穏やかに微笑んだ顔色は、少し悪いようにも見えた。

離職率が高すぎる職場「月1、2回は歓送会してます」

働いている実感が欲しかった

働いている実感が欲しかった

佐賀さんはWebサイトの企画・制作を行う都内の会社に勤めている。しかし「1年半前に未経験で転職してきて、まだよく分かってないんですよね」とあっけらかんと話す。

「Webディレクターの仕事は納品がきちっと行えるよう進行管理を行うこと。あとはエンジニアやデザイナーなどの制作陣とクライアントを結ぶことです。でもクライアントに説明するときに、仕様やデザインについて不勉強だからうまく伝えられないときもあって、この間もぽかんとさせちゃいました。こんな感じだからエンジニアに舐められるんです。絶対にできる仕事も『無理です』って断られたり、お願いした仕事を後回しにされたり……まあ私が勉強しろって話なんですけどね!」

現在10案件以上の仕事を抱えている。1人で回すのはつらいと言うが、人手が足りないので他に仕事を任せられる人もいないそうだ。佐賀さんは「ミスがあれば納品した後も対応します。一生忙しくしてる気がする」と虚ろな目で語った。

最近納品を終えた案件も修羅場だったようだ。自身で「スケジューリングが悪かったかもしれない」と反省するものの、会社に未経験者が多いことが問題だという。

「制作陣も未経験者を取ることがあります。というか出来る人はすぐ辞めていくんですよね。月に1、2回は歓送迎会をしてます。この間もメインで入っていたエンジニアが未経験者で、作業が遅くて進行に遅れが出ました。それでさらに焦ってミスが多くなったみたいで、仕上がったサイトはクライアントに見せられないほどひどかった。もう徹夜で修正してもらいました。私も休日返上。彼氏が泊りに来てたのに放置してしまいました。今度会うのがちょっとこわいです! でも仮にスケジュールを緩く引いていたとしても、この状態になってたんだろうなあ」

佐賀さんは毎日終電まで働き、納品が近くなると休日出社することも珍しくない。制作陣が仕上げたWebサイトを公開できる状態かチェックするのだが、その確認に手間がかかる。サイトの全ページを開きPC、スマホ、タブレット各端末、各ブラウザでレイアウト崩れがないか確認していく。

さらにサイト上のボタンを全て押して挙動を確かめるなど、一つ一つを手動で検証する必要がある。修正点があれば制作陣に修正してもらい、「ミスはない」と言いきれるまで繰り返す。

集中力が途切れそうになると、「もう大丈夫なんじゃない?」という思いが頭をよぎる。しかしミスをすれば信用を失い、「できて当然」と言われる仕事。ストレスは重くのしかかる。

泣きながら仕事をしても「残業代が欲しいだけでしょ」

残業が100時間以上になったときの心境を聞くと、少し悩んだあと「覚えてないです」と答えた。

「しんどかったんだろうなとは思うんですけど、記憶がないんですよね。超ハイスピードで仕事は回っていているのに自分だけ別世界にいるような感覚。喫煙所に行くたびに『何やってるんだろう……』ってボロボロっと涙が出てきたのは覚えてます」

先輩から「もっとテキトーにやればいい」と言われるが、経験の少なさから力の配分が分からず、結果残業が増えてしまう。残業代は出るため「佐賀さんは残業代が欲しいだけ」と嫌味を言われることもある。だが給料はさして高くはないという。そこまでしてどうして仕事を辞めないのだろう。

「基本給で言うと前職より年間100万円は下がりました。それでも前職が嫌すぎて転職したから大丈夫です! 元々大学生のときは広告とかWebメディアがやりたくて就活してたんですが全滅して、金融関係の会社に入社しました。でも定時で帰れて給料が高くても、会社に愛着が持てなかった。ここで働いていることが恥ずかしかったんです。最初は外回りの営業をしていました。通帳のことを『お通帳』って言わなきゃいけないんですよ? なんですかお通帳って。何様ですか。理解できなかったです」

佐賀さんは「好きな業界で、もっと働きたい」と考えていたようだ。金融業界は細かいところに気を配る業務が多く、性格的には合っていたというが、どうしても仕事に興味が持てなかった。入社当初から「辞める」「転職する」と言ってはいたが何もしないまま3年が経った。そんなある日、未経験可能なWeb制作会社の企画制作ディレクターの募集を見つけたという。

「それが今の会社。やっぱり広告とか企画から携わる仕事に就きたくて、その足掛かりにしようとすぐ応募しました。当時は『コーディング』という言葉も知らなかったし、まず『サーバーって何?』って感じでした。どうにかこぎつけた面接では『うちは残業多いけど大丈夫?』って聞かれました。だいたい平均21時半くらいまでは働いてるって……びっくりしました」

それでも「大丈夫です」と答え、3年半働いた職場を退社。自ら長時間労働の世界に足を踏み入れた。

「好きなことがしたくて転職したけど、何がしたいかわからない」

しかしホワイト企業から、長時間労働企業に転職すると体と心が付いて行かないのではないだろうか。

「忘れるんです。平均21時半退社も嘘だったけど、やることが多すぎて気がついたら終電の時間。労働時間の長さは気にならないです。あと土日休めたら長時間労働のつらさはリセットできるし昔のことも本気で忘れてしまうので『そういえば前職金融系だったな』ってハッとします」

ちなみに週末は友達と飲みに行くことが多いという。この取材は日曜日の昼間に行ったが「昨日もイベントで飲み過ぎてちょっと二日酔い」と笑う。顔色の悪さは残業などではないようだ。佐賀さんは

「会社にも遊びにいくパーティーにも楽しい人が多いんです。昨日も終電で帰ろうと思ったのに盛り上がってしまって結局朝まで。でもこういう楽しい日があるから仕事のつらさが相殺されてる気がします」

とニッコリ。ほぼ毎週オールで飲み明かし、夏はBBQをしたり湘南に遊びに行ったりする。長時間労働とプライベートを両立させているかのように見えるが、現状に満足はしていないという。

「ブランディングや企画がしたくて転職したのに、今やってることは制作のディレクション。企画書読んだり修正指示書を作ったり間違いを探したり左脳ばっかり使ってます。私がしたかったのはこれじゃなくて……でも最近何がしたいのか分からなくなりました」

本当は休日に勉強をしたり美術館に行ったりしたいというが、すべてを振り切るかのようにお酒を飲んでしまう。

「飲んだあとは、今日も何も出来なかった……ってへこみます。ちゃんと考えなきゃ、何かしなきゃって。でも平日が始まると忙しさにかまけて何もしない。でも前の会社にいるときよりかは楽しいですよ。残業が多いのも仕事が遅いせいだし、休日に勉強しないのも私が流されすぎてるだけ。もっとしっかりしなきゃと思います!」

あくまでも明るく話すが、なぜ長時間働かされて「自分が悪い」と言うのだろうか。抱えている仕事量は未経験の人間がこなせる分量ではない。少し仕事が減れば平日に勉強をすることもできるだろう。そもそもの考え方がすでにブラック企業に洗脳されているのではないだろうか。残業100時間という数字は、普通の思考力をも奪っていく。

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