職場がテレワークに切り替わったのは、4月に緊急事態宣言が発令した後だった。
「いくつかのチームに分かれて交代で自宅待機日が設定されたのですが、最初はPCなどの機材が間に合わずに、実質的に家で出来ることは何もなく、ほぼ休みと一緒でした。その日も出勤扱いでちゃんと給料は出たので良かったのですが」
結局、ノートPCのほか、家庭の回線から社内システムにアクセスするための機器が部署に導入されたのは4月下旬だった。しかし、PCは全員に行き渡らず、交代で出社日と在宅勤務日(自宅待機日)を回していたという。
限られた機器を使い回すために「ノートPCは、在宅勤務をする人が持って帰って、次の日に別の人が使うために会社まで持って行かないといけませんでした」とAさんは振り返る。また、コールセンターの肝とも言える電話についても
「電話はPHSを会社が用意していたのですが、お客様からの入電はこれまで通り会社にかかってくるので、出社している人の負担が増えました」
また、自分の業務以外でも、在宅勤務をしている同僚の案件の巻き取ることが増え、「残業時間はむしろ多くなりました」と明かしている。
さらに、システム上の問題も発生。セキュリティの関係上、在宅のノートPCからリモートでオフィスにあるPCを操作するという手法を取っていたが、社内システムにログインできないなどのトラブルに何度も見舞われたという。
「そもそも社内システムに入れないと仕事になりませんから。上司に相談しても”一時間ごとに再起動して”という指示ばかりで、結局丸一日潰れるということもありました」
時代の潮流に逆流しまいと、とりあえずテレワークに切り替えたものの、準備がまったく追い付かなかったようだ。朝礼などに代表されるように、日本では古くからの”出社主義”を守り抜いてきた企業も多く、同様の課題を抱える企業は、意外と多いのではないだろうか。
“テレワークをしています”という実績のため?
Tさんの職場では、6月に入り緊急事態宣言が解除となった後もテレワークを継続することが決まった。だが、頻度はわずか月1日だという。
「これでは何のためにテレワークにしているのか、ちょっと分からないですね。『テレワークをしています』という実績のためという感じもします」
とした上で「現状では在宅勤務を導入する体制になかったように思いました」と印象を語った。テレワーク拡大のために、意思決定やコミュニケーション、書類の電子化といった課題を挙げる起業は多い。だが、これら以上にインフラが整っていないというケースもありそうだ。
特にコールセンターでは、通話内容を社内サーバーから担当者の電話に転送するシステムが導入されてなかったり、ファクスベースのやり取りが残っている企業も多い。設備投資をするにしても、すぐにテレワークに対応できる会社は少ない、というのが実態なのではないだろうか。
対外的に高いテレワーク導入率を謳う企業も多い。だが、実際のところは実情を伴っているのか、疑問を挟む余地がありそうだ。