リモートワーク時代にも「組織内の“仕事外”の人間関係」=インフォーマルネットワークが必要な理由
コロナ禍によってリモートワークが浸透し、働き方が多様になってきたことはよいことと言われています。飲みニケーションや職場、喫煙室での雑談への参加もなくなって、清々している人もいるでしょう。
その一方で、組織内の「仕事外」の人間関係、すなわち“インフォーマルネットワーク”、非公式なつながりが希薄化していると危惧されています。リモートワークが普通になった現在でこそ、そんな関係には必要な効果があるのかもしれません。(人材研究所代表・曽和利光)
「組織の求心力」を高めるインフォーマルネットワーク
インフォーマルネットワークが強くなると、“組織の求心力”が向上します。転職が当たり前になった現在の社会においては、誰もが「会社」という存在に強くコミットしているわけではありません。会社と個人は対等であり、「労働力の対価に報酬をもらっているだけで貸し借りはない」というドライな関係の会社も多いです。
会社は社会に貢献する事業を展開するために存在しているのですから、特段それで問題があるわけではない。でも、事業が立ち行かなくなるほど良い人材がポロポロ抜けるようでは看過できませんので、ドライすぎる会社では問題が起こりそうです。
そこで効いてくるのが、“インフォーマルネットワーク”です。人と良好な関係を築きたいという欲求は、本能に近いものがあります。仲の良い人に囲まれた組織には愛着が湧き、そこに所属することや、その組織を良くしていくこと自体が、徐々に「目的」になっていきます。
「こういう仲間がいるから自分は今ここにいる」「仲間と一緒に何事かを成し遂げたい」となれば、組織や仕事に対するモチベーションも高まり、パフォーマンスも上がります。組織に悪いところがあれば、それを他人事で非難したり、それを理由に離脱したりするのではなく、我が事として改善しようとするはずです。
「人材流出の引き留め」「メンタルヘルス向上」にも効果的
インフォーマルネットワークはリテンション、いわゆる“人材流出の引き留め”にも効きます。お互いに愛着を感じている、仲間と思っている人が、その組織を抜けようとしているとき、その人を慰留するのがふつうだからです。
インフォーマルネットワークがあれば、人事や経営陣が知らないところで、例えば金曜日の晩に居酒屋で「お前、もっとこの会社でやれることがあるはずだ。辞めずに一緒に頑張ろう」と激励し、口説いてくれるというわけです。
インフォーマルネットワークは、“社員のメンタルヘルス向上”にも効果があります。社内にネットワークを持たない人は、直属の上司と軋轢を起こしてしまうと、組織に居づらくなってしまいます(それが世の中での転職の一番の動機となっています)。
でも、フォーマルには利害関係のない知人や先輩が社内にいれば、いろいろ相談することができて、悩みやストレスもある程度解消するかもしれません。
異質なアイデアを結びつける「イノベーション」につながる
また、インフォーマルネットワークは、“組織の創造性の向上”にもつながります。イノベーションとは「新規結合」と言われるように、複数の何かが新しい結びつきをとることで、生まれることが多いと言われます。
アイデアや知識は通常、個々人の頭の中にあります。これをミックスしようと思えば、アイデアを持った人同士が何らかの形でコミュニケーションを取ることが必要になっていきます。インフォーマルネットワークは、その「経路」となるのです。
近年は様々な会社で「社内新規事業プランコンテスト」のようなものが行われていますが、成功しているところとそうでないところの差の要因の一つが、インフォーマルネットワークの存在ではないか、と私は考えています。
成功していない会社は、コンテストのために組まれたチームメンバーが、フォーマルな組織の枠内に収まっていることが多い。しかし、それでは、異質なアイデアが混ざらず、新しい発想は生まれにくいでしょう。
一方、成功している会社では、チームが「この人たち、なぜ知り合いなのだろう?」というような意外なメンバー構成になっていることが多いです。彼らは外から伺い知れない共通点で、インフォーマルにつながっているのでしょう。そういうチームは異質なアイデアが化学反応を起こし、新しいものが生まれやすい土壌になるということです。
採用力を高め、コミュニケーションコストを下げる
“採用力の向上”という効果もあります。インフォーマルネットワークの強い会社は、社員同士の「社外の友人」ともつながる可能性も高くなります。「類は友を呼ぶ」は真理であり、社員の友人には、自社に適した人も多いと思われます。
「先日、同期のあいつと飲んだときに、一緒に来ていた人、すごく良い人だったな。うちのプロジェクトに声をかけてみようかな」というようなことが生じる可能性が高まるのです。
また、このようなインフォーマルなネットワークによる採用がよいのは、元々存在している強い信頼関係を社内にそのまま持ち込んでくれるからです。長年の知人や友人が社内に入ってくれば、昨日知り合ったばかりの人よりも強い信頼関係をいきなり持つことになる、ということです。
また、インフォーマルネットワークの強化は、“コミュニケーションコストの削減”にもつながります。フォーマルなネットワークしか機能していない組織では、会議や社内広報でもたらされた情報しか流通しません。
しかし、そういうものは得てして聞き流されたり、誤解されたり、重要な本質が抜けていて表面的な表現になっていたりと、必要な情報伝達がなされない場合も多くあります。
会社として積極的に取り組む価値がある
ところが、インフォーマルネットワークが強いと、噂話的に「ここだけの話」と様々な情報が広がることがあります。もちろん、これは諸刃の剣であり、言わば「社内バズマーケティング」をきちんとできないと、むしろ誤った情報を拡散することにもなりかねないのは注意すべきです。
ただし、日本の会社特有かもしれませんが、会社としては「こうとしか言えない」建前の裏に潜む本音を、インフォーマルネットワークのルートで知ってもらって納得してもらうことができれば、うまく利用することもできます。かなり難易度の高いやり方ではあり、良し悪し相半ばしますが……。
このように、インフォーマルネットワークを構築することで、組織が受ける恩恵は大きいものがあります。「仕事外」のコミュニケーションは「仕事」に跳ね返ってくるということです。組織内の“仕事外”の人間関係づくりに、会社として積極的に取り組んでみてはいかがでしょうか。
【筆者プロフィール】曽和利光
組織人事コンサルタント。京都大学教育学部教育心理学科卒。リクルート人事部ゼネラルマネジャーを経てライフネット生命、オープンハウスと一貫として人事畑を進み、2011年に株式会社人材研究所を設立。著書に『人材の適切な見極めと獲得を成功させる採用面接100の法則』(日本能率協会マネジメントセンター)、『「ネットワーク採用」とは何か』(労務行政)、『組織論と行動科学から見た人と組織のマネジメントバイアス』(共著、ソシム)など。
■株式会社人材研究所ウェブサイト
http://jinzai-kenkyusho.co.jp/