第一三共は2005年、三共(創業1899年)と第一製薬(同1915年)の2つの医薬品メーカーの共同持株会社として設立された会社です。2007年に両社を吸収合併して、現在の体制に。2023年3月期の売上高1兆2784億円は過去最高で、2024年3月期もこれを更新する見込みです。
国内医薬品業界での順位は売上高が4位、営業利益が同5位ですが、国内医療用医薬品に限ると1位で、時価総額でも1位。国内に連結子会社11社と関連会社2社、海外に連結子会社39社を擁し、海外売上比率は58.2%を占めています。(NEXT DX LEADER編集部)
データとデジタル技術を駆使し「ヘルスケア変革」目指す
第一三共は2021年4月に「2030年ビジョン」を発表。「外部環境と当社の提供価値」の中で、個人のLife Journeyで発生した個人の医療データを測定・分析・診断する「DX Platform」を構築し、これを基に第一三共のモダリティ(治療手段)を提供するサイクルを描き、DXの取り組みを位置づけています。
2022年4月にスタートした「第5期中期経営計画(2021-2025年度)」では、「がんに強みを持つ先進的グローバル創薬企業」を目標に掲げ、売上収益1兆6,000億円(うち、がん領域6,000億円以上)、R&D費控除前営業利益率40%などをKPIに設定。2023年4月には業績好調を背景に「中計アップデート」を発表し、「売上収益2兆円(うち、がん領域9,000億円以上)」へと上方修正しています。
第5期中計は戦略の4つの柱として「3ADC最大化の実現」「既存事業・製品の利益成長」「更なる成長の柱の見極めと構築」「ステークホルダーとの価値共創」をあげています。
「3ADC」とは、乳がん治療薬「エンハーツ」、肺がん治療薬「Dato-DXd」、臨床試験中の抗がん剤「HER3-DXd」という3つの抗体薬物複合体(Antibody Drug Conjugate)のこと。抗体医薬を含む分子標的薬は、がん細胞の遺伝子やタンパク質を標的とするため、従来型の化学療法剤で見られる副作用が比較的少ないのが特長です。
統合データ分析基盤「IDAP」を構築
第5期中計では、戦略の柱を支える要素として「DX推進によるデータ駆動型経営の実現と先進デジタル技術による全社の変革」という項目を立てています。統合データ分析基盤を中心とした「データ駆動型経営」を追求するとともに、デジタル技術による「バリューチェーン変革」を推進。そのための「IT基盤」を整備するとしています。
第5期中計に先立って、第一三共では2020年4月に、各部門に分散していた機能を集約する形で「DX推進本部」を新設。傘下に「DX企画部」「データインテリジェンス部」「ITソリューション部」を置き、データ駆動型経営に向けて各部署・研究所で保有するデータを統合し、IT基盤の整備に取り組んでいます。
その後、バリューチェーンの各機能にAIやロボットなどのデジタル技術の導入に着手。24時間データを取り続け解析などを行うスマートラボや、生産を全自動で行うスマートファクトリーなどを稼働させ、業務効率化を図りグループの競争力を高めていくとのことです。
2020年7月には「第一三共グループDX推進ポリシー」を策定。「経営陣の役割」「CDXOの設置」「積極的なDXの推進」「人材の育成と確保」「企業風土の醸成」「外部連携の促進」の全6条からなる方向性を示しています。
企業サイトの「DX – データと先進デジタル技術の活用」では、2025 DXビジョンに「データとデジタル技術を駆使したグローバルファーマイノベーターの実現」、2030 DXビジョンに「先進的グローバルヘルスカンパニーとして、データとデジタル技術を駆使してヘルスケア変革に貢献する」を掲げ、創薬企業からヘルスケアカンパニーへの発展を目指しています。
DXビジョンの具体像について「第一三共グループバリューレポート2021」では、DXを通じてデジタル治療などの「多様なモダリティ」と、デジタル技術により患者への新しい医療体験価値の提供などの「新たな医療サービス」を組み合わせ、新しい価値として「一人ひとりに寄り添い、これまで医薬品では解決できなかった困りごとを解決し、想いに応えるサービス」を創造するとしています。
企業サイトでは、DX戦略として「データの利活用による価値創出」「Healthcare as a Serviceの実現」「先進デジタル技術活用による全社変革」「DXによる全社変革推進のためのIT基盤整備」「情報セキュリティへの取り組み」などをあげ、あわせて具体的な取り組みを紹介しています。
「データの利活用による価値創出」については、データ基盤として第一三共統合データ分析基盤「IDAP(Integrated Data Analytics Platform)」を構築し、社内外の異なる目的や領域で収集されたデータを一元化。用途に応じてデータを加工し、解析システムを用いてアウトプットを創出することで、顧客価値最大化を図るとしています。
「Healthcare as a Serviceの実現」については、健康促進から予防、治療、予後ケアにわたる「トータルケアエコシステム」の構築を目指し、患者や医療機関、リアルワールドデータを提供するデータプロバイダーや最新デジタル技術を提供するIT企業など、さまざまなステークホルダーと連携、協業するとしています。
また、分散した健康・医療領域のデータを個人に紐づくようにまとめ、データ流通・活用を可能とする「トータルケアプラットフォーム」の構築も進めているとのこと。特に、がん患者に対し、病態に伴う周辺症状や治療薬に伴う副作用を十分管理しながら、医薬品等のポテンシャル(潜在的能力)を最大限引き出せるよう、デジタル技術を最大限に活用したトータルケアを探求していきます。
これに関連し、患者に直接的に医療介入(治療、管理、予防)を行う治療用アプリ「DTx」を、医療機器としての許可(製造販売承認)を見据えて開発。患者の治療空白期間を埋めてWell-Beingにつなげることを目指し、2020年11月には治療用アプリの豊富な開発経験を有するCureApp社と共同開発契約を締結しています。
「社内向け生成AIシステム」など先端デジタル技術を活用
「先進デジタル技術活用による全社変革」については、事業環境の変化に対応し社内のシステムや業務プロセスの変革を目指し、次のような幅広い取り組みを行うとしています。
- 社内向け生成AIシステム「DS-GAI(Daiichi Sankyo – Generative AI)」の全社的活用(2023年9月より全社運用を開始)
- 画像AIの活用による医薬品創出プロセスの自動化・高度化(2022年7月にエルピクセル社と包括提携に関する基本契約を締結)
- 翻訳AI(ロゼッタ社との包括的な協業により2021年3月までに10モデルの社内リリースを完了)
- AIを利用したコールセンター支援システムと医療従事者向けチャットボットサービス(2021年には医師・薬剤師向けのDrug Informationチャットボット「いつでもDI 24」を公開)
先進デジタル技術活用についてはこのほか、「ブロックチェーン技術による医療データ統合活用」「量子コンピューティング活用に向けた取り組み」「業務プロセスの見える化・自動化(Process Discovery and Automation as a Service)」「データ駆動型創薬 D4(Data Driven Drug Discovery)」「Personal Health Record(PHR)、eConsent、ePROを活用した臨床研究」といった取り組みも行っているようです。
「DXによる全社変革推進のためのIT基盤整備」については、全社的にはコミュニケーション&コラボレーション基盤のグローバルレベルでの統合と企業文化「One DS Culture」の醸成、研究開発面ではストレージ環境やコンピューティング環境の整備、サプライチェーン面ではグローバルなIT基盤の導入や自社生産拠点での製造品質データ管理システムの導入などを推進しています。
これらのDXを推進するうえで、第一三共は、Chief Digital Transformation Officer(CDXO)を実務執行責任者とし、グローバルにデジタル戦略、ITおよびデータ利活用のグローバル体制を強化しているとしています。