ディップは1997年、コンビニの端末を使った「無料カタログ送付サービス」を運営する会社として設立。翌1998年に同端末を利用した人材派遣求人情報提供サービス「はたらこねっと」を開始しました。2000年には同サービスをインターネット展開、2002年にアルバイト情報サイト「バイトル」を立ち上げています。
2004年に東証マザーズに上場、2013年に東証一部に市場変更し、M&Aを重ねて事業を拡大。新しいテクノロジーの採用に積極的で、2016年に人工知能専門メディア「AINOW」を立ち上げ、2019年にはRPAを含むDXサービス「コボット」の提供を開始し、AI・DXの領域に事業を拡大しています。(NEXT DX LEADER編集部)
新規事業で中小企業向け「DXサービス」を展開
ディップの売上高は創業以来右肩上がりに伸びていましたが、コロナ禍で急減。しかし2023年2月期には大きく回復して前期比24.9%増の493億円と過去最高を更新。営業利益も同106.0%増の115億円と改善しつつあります。
事業セグメントは2つ。2023年2月期のセグメント売上高は、主軸の「人材サービス事業」が445.8億円と9割を占め、「DX事業」が47.8億円。同営業利益は、人材サービス事業が148.5億円、DX事業が21.3億円でした。
人材サービス事業は、「バイトル」「はたらこねっと」などの求人情報サイトを運営するメディアサービスと、「ナースではたらこ」など医療介護領域の人材紹介を行うエージェントサービスで構成されています。連結従業員数は1,538人です。
DX事業は2019年9月より開始した新規事業で、採用・人事業務効率化などを支援する月額課金のSaaS型モデルのDXサービス「コボット」を提供しています。連結従業員数は198人で、中堅・中小企業向けに機能を絞り込んだ主なサービスは以下の通りです。
・採用ページコボット:採用サイト作成サービス(職場紹介動画などバイトル独自機能を搭載)
・面接コボット:応募者との採用面接スケジュールの自動調整(チャットボットでの自動応答)
・人事労務コボット:アルバイト・パートの入社・労務管理をペーパーレスで完結
・HRコボット:派遣会社向け営業支援(営業先リストの自動作成、コール代行等)
・常連コボット fo LINE:飲食・小売事業者向け販促支援サービス(お店のポイントカードをLINEミニアプリで作成)
・集客コボット for MEO:Google マップの検索エンジン最適化をサポート
・集客コボット for SNS Booster:SNSでの集客や予約管理をサポート
「Labor force solution company」をビジョンに掲げる
ディップは早くからAIやRPA領域での取り組みを行っています。2016年にはAI専門組織「dip AI.Lab」を設立。日本初のAI専門メディア「AINOW」を立ち上げました。
2017年には日本初のAIスタートアップ支援制度「AI.Accelerator」を開始し、関連企業に出資。スタートアップの高い技術力とディップの営業力や顧客基盤を掛け合わせ、早期にスケールするとしています。
2018年には社内業務の自動化組織「dip Robotics」を設立。2019年時点でロボット55体が稼働し、「AINOW」の記事の下書きをRPAで自動生成するシステムを実現するなどして、6万時間分の業務削減に成功しています。
ディップは2019年、新たなビジョン「Labor force solution company」を発表しました。「人材サービスとDXサービスの提供を通して、労働市場における諸課題を解決し、誰もが働く喜びと幸せを感じられる社会の実現を目指します」という説明の中に「DX」の言葉があることからも、DXで会社の未来を切り拓いていこうとする姿勢が見えます。
あわせて中期経営戦略「dip2025」を策定し、「事業ドメインを拡大し、求人広告メディアから『労働力の総合商社』へ」というスローガンを掲げました。しかし翌年にコロナ禍が発生し、目標達成が困難になりました。
2023年12月、コロナ禍の収束が見通せるようになったことから、あらためて新中期経営計画「dip30th」を策定。創立30周年を迎える2027年2月期を最終年度とし、売上高1000億円、営業利益300億円の目標を掲げています。
「ディップ技術研究所」で東大松尾研と共同研究
新中期経営計画「dip30th」の成長の柱は3本で、いずれもAI(人工知能)の急速な進化を事業成長のチャンスと捉えています。
1本目は「AIエージェントによる事業構造の転換」で、既存事業の拡充等による成長加速や、新たな領域への事業拡大を図るとしています。
「AIエージェント」について、ディップでは2023年4月に生成系AI技術を活用した「AIエージェント事業」の開発を開始。あわせて早期実用化のための「ディップ技術研究所」を設立し、慶大・安宅和人教授をアドバイザーに迎え、東大・松尾豊教授の研究所との共同研究を実施するとしています。
リリースによると、本来人材紹介サービスを提供すべき方々を、従来の高年収帯ユーザーだけでなく「すべての仕事選びに課題を持つ方」と考え、その解決策として「AIが人材紹介業務を代替するサービス開発の検討」を進めてきたとしています。
そして、仕事探しは従来の「大量の求人情報から検索する・選ぶ」方法から「対話しながら最適な仕事に出会える」方法へと進化し、採用率を大幅に高めることが期待されるとしており、「独自の最新・正確・高品質な求人情報」のインプットにより求職者の顕在・潜在ニーズとのマッチング精度を高め、最適な仕事に出会える機会創出に貢献するとしています。
2本目は「営業生産性の向上」。AIテクノロジーやデータを駆使した新たな営業体制・基盤等の構築や、求人広告とDX商品のクロスセルの促進に取り組むとしています。3本目の「新規サービスによる事業拡大」については2024年度に発表予定と記載されています。
また、経営戦略として「人材サービス」「DX事業」のそれぞれで事業戦略を策定。DX事業は「いつでもだれでもDX ‐採用・人事、販促サービスで得られるデータを活用した高品質なソリューションで労働生産性向上を支援‐」を打ち出しています。
機能別戦略は5つ。「営業力」「サービス開発力」「プロモーション力」については、それぞれAI活用や自動化による「営業生産性向上」「開発プロセスの大幅短縮」「プロモーション効果向上」を図るなどの取り組みをあげています。
DX関連では「データ・テクノロジーの力」において「戦略実行の全てを支えるデータ基盤の整備」を掲げており、全事業共通のデータ基盤“Labor force solution platform”を構築し、リードタイムの短縮とコストダウン、サービス品質向上を図ることなどをあげています。