はま寿司は2002年、牛丼の「すき家」などを運営する現ゼンショーホールディングスによって設立されました。グループ連結売上高に占める割合は「すき家」に次いで大きく、2023年3月期の売上高は1,300億円、経常利益は69.8億円でした。
企業サイトに掲げられた「事業ビジョン」には、「科学的生産管理体制の構築」こそがお客様満足度の向上に大きく寄与するという信念とともに、回転寿司は「システム産業」であるとし、最新のテクノロジー導入のためのシステム投資、設備投資を日々積極的に行っているとしています。(NEXT DX LEADER編集部)
親会社のゼンショーホールディングスがDXを積極推進
ゼンショーグループは、経営理念に「世界中の人々に安全でおいしい食を手軽な価格で提供する」を掲げ、「原材料の仕入から食品加工・物流・店舗での販売まで」一貫して自社で管理する「MMD(マス・マーチャンダイジング・システム)」という事業モデルを追求しています。
はま寿司の役割・ミッションは、このMMDの仕組みを事業の核として、日本食を代表する「寿司」を国内外に広げることである、と定義しています。
はま寿司の親会社のゼンショーホールディングスは2023年3月期の有価証券報告書で、9項目からなる「優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題」の1つに「DXへの積極的な取り組み」をあげています。
現状の技術動向は「第4次産業革命とも呼ばれるデジタル化の急速な進展の中で、人工知能(AI)・IoT・RPA・クラウドの活用が加速」しているとし、これを受けて店舗において「セルフオーダー/セルフキャッシング等の技術革新やITによるデータ活用等により、定型労働に加えて非定型労働においても省人化」を進めているとしています。
これを受けてゼンショーグループでは「店舗、工場、物流、本部などの各工程において、積極的にDXヘ取り組むことで業務の効率化・自動化を推進」するとしています。
「顧客の利便性追求」「生産性の向上」「環境変化への対応」が三本柱
はま寿司は事業ビジョンのひとつに「最新テクノロジーの導入で、安全でおいしいお寿司を手軽な価格で提供」を掲げ、企業サイトに「DX (デジタルトランスフォーメーション)」に関する方針や戦略をまとめています。
代表取締役による「はま寿司のDXへの積極的な取り組みについて」によると、貴重な水産資源を無駄にすることがないよう、創業以来の回転レーン式陳列販売方法から脱却し、注文された商品を「高速ストレートレーン」でスピーディーに届けるよう「トランスフォーメーション」してきたとのことです。
そして今後はこのシステム資産とIoT・AI技術を融合させ、従業員の働きやすさや省人化、顧客満足に向けて「さらにスピーディーに、さらに高品質で安全で手軽な価格の商品」を持続的にご提供できるよう、DXを推進していくとしています。
はま寿司のDX戦略では、「DXへ向けた展開」として3つの柱をあげています。
1つ目は、セミセルフ/フルセルフ化やキャッシュレスPOS、タブレットセルフオーダーやモバイルオーダーといった注文・支払方法の多様化に対応し、「お客様の利便性の追求」に取り組むとのことです。
2つ目は、テイクアウトやデリバリードライブスルーやモバイルオーダーといったマルチチャネル対応によって「環境変化への柔軟かつ迅速な対応」に取り組むとしています。
3つ目は、システム構築やAI、IoT、RPA、チャットボットといったデジタルツールの活用により「店舗・本部生産性の向上」を図るとしています。
キャッシュレスで「店舗の現金の最適化」が進む
DXの推進体制は、親会社のゼンショーホールディングスの中に「グループIT本部」を設け、その中に「IT統括部」「AI推進室」「DX推進室」という3つの部署を置いています。
このほか、はま寿司にも「DX推進室」があり、「はま寿司」ブランドの店舗、サービスについてゼンショーホールディングスのDX推進部門と協業し、競合他社に対する優位性の確立や顧客に向けた新たな価値創造に取り組んでいます。
はま寿司の親会社のゼンショーホールディングスの新卒採用サイトには、ゼンショーグループIT本部のDX推進室長のインタビュー記事が掲載されています。
記事によると、コロナ禍によってキャッシュレス派が主流になり、店舗内に必要以上の現金を置いておく必要がなくなったことで、回収頻度が半減。使われずに眠っていた現金を新規出店や新システム開発などの投資にまわす「店舗の現金の最適化」が進んだとのことです。
また、キャッシュレス決済に特化したミニ券売機は、100%自社開発を行ってコストを通常の5分の1に抑えたうえで、より顧客ニーズに寄り添ったサービス提供を可能にしています。この開発がITの内製化の促進にもつながっているそうです。
さらに本部から遠隔マネジメントができる「スマート店舗構想」も進行しており、世界規模のシステム統一によって海外進出をさらに加速できるようITエンジニアリングやデータ分析などに磨きをかけ、DX関連のさまざまなシステムをパッケージ化して外販することも目指しているとのことです。
このほか、グループIT本部では積極的に現場へと足を運び、自分の目や耳で体感したリアルをシステムへと落とし込んでいるとのこと。開発拠点を国内は長野と沖縄、海外は上海とハノイに置き、グループ各社のシステム開発の内製化を進めています。