富士通のDX:従来型のSI事業から「DX企業」へ サステナブルな世界実現に向けて「事業ポートフォリオの変革」目指す
【Fujitsu Uvance】持続可能な世界に向けたサステナビリティ・トランスフォーメーション より富士通は1935年、現・富士電機から電話交換装置や電話機等の製造および販売権を承継し、富士通信機製造として設立されました。1950年代に電子計算機や無線通信機器、電子デバイスの製造を始め、1967年に現在の社名に商号変更しました。
高度成長期に事業を多角化しましたが、2000年代にはプラズマディスプレイモジュールや液晶デバイス、ハードディスクドライブなど、2010年代にはカーエレクトロニクスや携帯端末、個人向けパソコンなどを事業譲渡し、総合電機メーカーからITサービス企業へと事業変革に取り組んでいます。(NEXT DX LEADER編集部)
2023年3月期は利益率改善、過去最高益に
富士通グループの売上収益は、国際会計基準に移行した2015年3月期の4兆7,532億円をピークに右肩下がりとなっており、2022年3月期には3兆5,868億円まで落ち込みました。2023年3月期は3兆7,137億円まで回復したものの、コロナ前の水準には届いていません。
一方、営業利益率は2019年3月期の3.3%から2021年3月期には7.4%まで上昇。翌期は事業再編に伴う一過性の損益やM&Aコストにより6.1%と落ち込んだものの、2023年3月期は9.0%まで改善し、営業利益3356億円は過去最高益となりました。
富士通では2019年9月、同年6月から代表取締役に就任した時田隆仁社長のもと、「富士通の成長に向けて」を発表。富士通の目指す姿として「IT企業からDX企業へ」というスローガンを掲げました。
法人IT市場において、従来型のITシステムの収益拡大を図りつつ、成長の大きい基幹システムを中心とする「モダナイゼーション/効率化」と「データ駆動型ビジネス/DX」などのデジタル領域においてビジネスを伸長させるとしています。
このため、富士通グループの枠を超えてDXビジネスを展開する新会社を設立(Ridgelinez〔リッジラインズ〕を2020年4月より事業開始)。DXコンサルを500名から2,000名まで増やして、DXの提案から企画・構築・運用までワンストップで提供するとしています。
富士通の成長に向けて(2019年9月26日)より
また、重点7技術領域として「Computing」「AI」「5G」「Cyber Security」「Cloud」「Data」「IoT」にリソースを集中。ビジネス機会創出と新事業の推進のために5年間で5,000億円の投資を実行するとしています。
特にモダナイゼーションなどの「サービスビジネス」の収益力を強化し、国内のビジネス基盤を堅持するとともに、2022年度までに700億円の利益改善を目指す目標を掲げ、2023年3月期の大幅増益でこの数字を達成しています。
全社DXプロジェクト「フジトラ」を推進中
富士通は2020年7月、全社DXプロジェクト「フジトラ(Fujitsu Transformation)」のキックオフを実施しました。プロジェクトオーナーにはCDXO(Chief Digital Transformation Officer)を兼任する(2023年3月まで)時田社長が、プロジェクトリーダーには2020年4月にSAPジャパンから入社した執行役員常務CIO兼CDXO補佐(現CDXO)の福田譲氏が就任し、現在も取り組みが続いています。
国内15部門、海外5リージョンから「DX Officer」(DX責任者)を選出し、CEO/CDXO直下のCEO室にDX推進組織である「CDXO Division」を設置。主要な業務プロセス毎に「データ&プロセスオーナー(DPO)」を決め、CEO直下に配置するなどの体制を整備しています。
「ともかくやってみよう」などカルチャーの変革にフォーカスした9つの「DXプロジェクト・ステートメント」を定め、プロジェクトの進め方としては“「経営」と「現場」が一体となり、デジタルを最大限に活用したトランスフォーメーションを目指す”とし、「経営のリーダーシップ」「現場の叡智を集結」「カルチャー変革にフォーカス」を掲げています。
全社DXモデルとして、「マネジメント改革」「データ基盤」「カルチャー」を中心に置き、「CX:Customer Experience(顧客体験)」「Growth(成長)」「EX:Employee Experience(従業員体験)」「Stability(安定性)」の向上を実現するために、「戦略事業」「事業創出」「既存事業」「プロセスのリ・デザイン」「人を活かしあう制度・環境」に取り組むとしています。
また、富士通のグローバル/グループ全体の経営・業務プロセス・データ・ITを標準化して1つのシステムにする「データドリブン経営(One Fujitsuプログラム)」に取り組み、基幹業務(ERP)での「One ERPプロジェクト」を開始するとしています。One Fujitsuプログラムについて、時田社長は「富士通統合レポート2022」の中で、次のように説明しています。
One Fujitsuプログラムという名称の下で進めているデータドリブン経営は、当社グループのグローバル事業を支えるマネジメントの仕組みを劇的に変えようとしています。まずは、お客様リレーションに関する情報を統合するOneCRMが、2022年4月に全リージョンで始動しました。世界各地で進行中のあらゆる商談活動の進捗状況がリアルタイムで可視化され、四半期どころかさらに先の受注・売上が予測できるようになり、私たちが目指す未来予測型の経営に向けて大きく前進したという手応えを得ています。また、人材、資金を含む企業経営にとって不可欠なあらゆる「資産」に関する情報を統合するOneERP+についても、英国およびアイルランドで2022年4月に先行稼働しており、今後順次全リージョンに展開する計画です。
2023年から「Fujitsu Uvance」を本格化
富士通は2023年5月に、2023~2025年度の「中期経営計画」を策定しています。前中期経営計画(2020~2022年度)の振り返りとして、DX会社のRidgelinezの設立とコンサル提案250社以上、31カ国・2万人を対象としたOneCRMの稼働によるデータドリブン経営強化などの成果があり、確実に収益性を向上させたとしています。
2030年に向けた価値創造の考え方として「デジタルサービスによってネットポジティブを実現するテクノロジーカンパニーになる」を掲げ、「事業モデルと事業ポートフォリオの変革」「お客様のモダナイゼーションの確実なサポート」「海外ビジネスの収益性向上」を取り組みの柱とするとしています。
中期経営計画における重点戦略としては、4つの戦略を策定。DXに関わりの強い取り組みとしては、「事業モデル・ポートフォリオ戦略」において、事業セグメントの変更でハードウェアビジネスを切り離して「サービスソリューション」を独立させ、成長領域への投資を高めるとしています。
また、サステナブルな世界の実現に向けて2023年に本格展開するサービス群「Fujitsu Uvance(ユーバンス)」について、時田社長は「富士通統合レポート2022」の中で「従来型のSI事業にとって代わり、中期的には当社グループのビジネスの主軸になる」という将来像を描いていると明かしており、システムインテグレーターの人月仕事からの脱却がテーマになっているようです。
「カスタマサクセス戦略」においては、クライアントの最適なモダナイゼーションを実現し、顧客資産の最適化とDX・GXを支える取り組みを行います。「テクノロジー戦略」においては、AIを核としてコアテクノロジーを強化し、サービスビジネスの付加価値を創出するとしています。
自社のDXについても、「リソース戦略」の中で事業と連動した人材ポートフォリオの実現に取り組み、リスキリングやアップスキリングを中心とした施策で、成長領域のリソースを拡充するとしています。また、経営基盤の強化による顧客提供価値の向上を図り、「人的資本経営」および“One Fujitsu”による「データドリブン経営」を目指すとしています。