日立製作所のDX:Lumadaを中心とした「顧客協創フレームワーク」をグローバル展開 “One Hitachi”での高収益化を実現 | NEXT DX LEADER

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日立製作所のDX:Lumadaを中心とした「顧客協創フレームワーク」をグローバル展開  “One Hitachi”での高収益化を実現

日立製作所は、1910年に日立鉱山付属の機械修理工場として発足、1920年に独立した会社です。戦後は幅広く事業を展開し、2000年代には連結子会社1000社超、上場子会社20社超まで増加。しかし、2007年3月期から4期連続で最終赤字を記録するなど業績が悪化します。

そこで「社会イノベーション事業」へのシフトに向けた企業買収等を行うとともに、関係の薄いアセットを譲渡し、連結子会社を600社台、上場子会社をゼロとする(2023年5月末現在)経営改革を断行。その後は収益性が改善し、2023年3月期の売上収益は10兆円を突破、当期利益は6,491億円に達しています。(NEXT DX LEADER編集部)

デジタルを活用したサービスで会社の成長を牽引

日立製作所の2023年3月期の主要セグメント(セクター)は、以下の4つです。

  •  IT/デジタルシステムなどの「デジタルシステム&サービス」
  •  パワーグリッドや鉄道システムなどの「グリーンエナジー&モビリティ」
  •  ビルシステムやヘルスケア、産業・流通ソリューションなどの「コネクティブインダストリーズ」
  •  自動車の駆動装置などの「オートモティブシステム」

「2024中期経営計画」(2022年4月28日)より

「2024中期経営計画」(2022年4月28日)より

なお、「オートモティブシステム」を担う日立Astemoは2023年9月をめどに、日立製作所の持分法適用会社となり非連結化する予定で、「デジタルシステム&サービス」を中心とする3セクター体制がさらに強まります。

2023年3月期の売上収益構成比/Adjusted EBITDA比は、デジタルシステム&サービスが21%/33%、グリーンエナジー&モビリティが21%/11%、コネクティブインダストリーズが26%/30%、オートモティブシステムが17%/7%、その他が18%/19%でした。

地域別売上収益は、日本国内が38%、次いで北米が17%、欧州が14%、中国が12%、ASEAN・インド他が同じく12%、その他地域が7%。海外売上収益比率は62%でした。

日立製作所がDXを経営計画の中で大きく取り上げたのは「2018中期経営計画(2016-2018年度)」からで、デジタル技術を活用した社会イノベーション事業(サービス事業)によって会社の成長を牽引していくとしています。

「統合報告書 2022」(2022年3月期)より

「統合報告書 2022」(2022年3月期)より

期中の成果として「デジタルソリューション事業の拡大」に向けて、米テキサス州に日立ヴァンタラ(米テキサス州)を設立。Lumada(ルマーダ。後述)関連売上が1兆円規模に成長しています。

「2021中期経営計画(2019-2021年度)」でも、デジタル事業の基盤立ち上げと成長の方向性は変わらず、DXを実現するための新たな協創空間「Lumada Innovation Hub」などの立ち上げを行い、Lumada事業売上を1.1兆円から1.6兆円に拡大しています。

DXを加速する「Lumada」を構成する3つの要素

Lumadaは、“IoTが次の大きな社会潮流になる”と予測した日立製作所が、「社会イノベーション事業」を支える仕組みとして2016年にリリース。現在では「先進的な技術を活用してDXを加速するソリューションやサービス、テクノロジー体系」の総称を指しています。

社会イノベーション事業を「日立のIT、OT(Operational Technology)、プロダクトを活用して、顧客とともに社会課題を解決する事業」と定義。Lumadaの名称の由来は “illuminate(照らす、解明する、輝かせる)+data(データ)” を組み合わせた造語。データからデジタル技術で価値を生み出し、顧客や社会の課題解決や事業成長に貢献していく、という思いが込められています。

「統合報告書 2022」(2022年3月期)より

「統合報告書 2022」(2022年3月期)より

「統合報告書 2022」によると、Lumadaには3つの要素があり、1つめの「デジタルイノベーションプラットフォーム」は、現実世界から収集したデータを、クラウド上のAIツールなどによって可視化・分析し、課題の解決策を現実世界にリアルタイムにフィードバックするサイクルを創出、加速します。

2つめの「業種・業務ノウハウ(ソリューション・ユースケース)」は、電力や鉄道、産業、金融などの多岐にわたる業種・業務のノウハウや知見と、デジタルソリューションを、汎用的にモデル化したユースケースとして蓄積し、迅速な提案、価値提供につなげます。

3つめの「お客さま・パートナーとの協創(メソドロジー)」は、お客さまやパートナーとの協創を活性化、加速するための施策で、以下のような取り組みがあります。

  • Lumada Alliance Program社会イノベーション事業の趣旨に賛同したパートナーとともにエコシステムを構築し、オープンイノベーションを加速
  • Lumada Innovation Hub Tokyoお客さまやパートナーと知恵やアイデアをかけあわせ、イノベーションを加速するためのフラッグシップ拠点として、2021年4月に東京に開設
  • Lumada Solution Hubお客さまとの協創により培った技術やノウハウを結集したソリューションやアプリケーションの再利用を促進する仕掛けを提供

さらに2021年3月には米ITのGlobalLogicを買収。これにより社会インフラのDXに関する事業のグローバル展開を加速し、Lumadaを進化させるとしています。

新中計で「顧客との価値協創サイクル」を整理

2022年4月28日には「2024中期経営計画(2022-2024年度)」を発表。中期経営計画目標として「データとテクノロジーでサステナブルな社会を実現して人々の幸せを支える」を掲げ、「グリーン」「デジタル」「イノベーション」でグローバルに成長する企業を目指すとしています。

「2024中期経営計画」(2022年4月28日)より

「2024中期経営計画」(2022年4月28日)より

成長戦略は「Lumadaによる社会イノベーション事業の高収益化」。顧客との価値協創のサイクルをデータ駆動で回し、サイクル全体で収益を拡大する成長モデルによって、Lumada関連の売上収益を1.4兆円から2.7兆円に(2021-2024年度)、CAGRを24%、Adjusted EBITAを16%(2024年度)にする目標を立てており、Lumada事業はDX市場の拡大を追い風に、2024年度には日立全体の売上の3分の1、利益の4割強を占める見込みです。

「2024中期経営計画」(2022年4月28日)より

「2024中期経営計画」(2022年4月28日)より

「顧客との価値協創サイクル」について、中期経営計画ではLumadaのAIツールやメソドロジー、ユースケース、ソリューションを中心に置き、「顧客の経営課題を理解」「IT・OT・プロダクトで解決方法創出」「解決方法を実装」「運用・保守して次の課題へ」というサイクルを回しながら、各プロセスで収益を上げていくとしています。

  • PLAN:デジタルエンジニアリング(デザイン思考)で売上3000億円(2024年度)
  • BUILD:システムインテグレーション(デジタルツイン化)で売上6000億円(同)
  • OPERATION:コネクテッドプロダクト(遠隔化・自動化)で売上9000億円(同)
  • MAINTAIN:マネージドサービス(予兆診断)で売上9000億円(同)

また、このような方針に基づき、「デジタルシステム&サービス」を中心とする3セクターの事業戦略へも展開し、

「2024中期経営計画」(2022年4月28日)より

「2024中期経営計画」(2022年4月28日)より

さらに「製造プロセス革新」「アセットマネジメント革新」の事業事例も紹介しています。

「2024中期経営計画」(2022年4月28日)より

「2024中期経営計画」(2022年4月28日)より

デジタル経営基盤によるオペレーション集約で販管費抑制

このほか、2024中期経営計画は「デジタル経営基盤による成長」として、業務の標準化とオペレーションの集約によるコスト最適化を図りつつ、意思決定のスピードや柔軟性、透明性を向上させることで、会社を成長させるとしています。

「2024中期経営計画」(2022年4月28日)より

「2024中期経営計画」(2022年4月28日)より

重点施策は「共通ERP PRJ」「DX」「One Hitachi CRM基盤」「GBS」で、DXでは業務自動化と予測型経営の実現を図り、GBS(Global Business Service)ではオペレーション集約でSG&A(販管費)を抑制するとしています。

このような戦略、施策を推進する原動力として、グローバル人財マネジメントの中で、特に「デジタル人財」の獲得と育成を強化。DE&Iを向上することで、事業の成長とサステナブルな社会の実現に貢献するとしています。

「2024中期経営計画」(2022年4月28日)より

「2024中期経営計画」(2022年4月28日)より

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考察記事執筆:NDX編集部

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