
(左から)株式会社ギークプラスの熊林優さん、嶋田由香里さん、鄒潮生さん
ECの急成長で、社会インフラとしての重要性が増す物流業界。しかし、深刻な人手不足とデジタル化の遅れという大きな課題に直面しています。そんな中、「次世代に残せる、デジタル物流インフラを作る」というミッションのもと、物流課題の総合的な解決を目指しているのが、ギークプラス(Geek+)株式会社(東京・恵比寿)です。
自律走行搬送ロボットの販売と物流受託、SaaS開発という3つの事業を展開し、テクノロジーを活用した物流の効率化と自動化を推進している同社では、さらなる成長に向けてどんな人材を求めているのか。人材採用と組織づくりを推進する3人に話を聞きました。(聞き手:グローバルウェイ・エージェント 川原一輝)
ロボット販売、物流受託、ソフトウェア開発の3事業を展開

株式会社ギークプラス 執行役員 事業本部長 嶋田由香里:新卒で健康通販メーカーに入社し、D2C事業に従事。アッカ・インターナショナルでの3PL業務などを経て、2017年のギークプラス設立に参画。執行役員として事業全体を統括する。
――御社は現在どのような事業を行っているのですか。
嶋田 大きく分けて3つの事業を行っています。1つ目は「自動化ロボット販売事業」で、北京に本社を置くギークプラステクノロジーが開発・製造する自律走行搬送ロボット(AMR = Autonomous Mobile Robot)の販売、導入、保守を行っています。
日本のユーザー様に対し、ギークプラステクノロジーのAMRの販売を全面的に担っており、AMRをどのように使うか、どのように配置するかなどの要件定義を行い、AMRを発注してセットアップやアフターサポートを行っています。
国内で100拠点以上、4000台以上の導入実績があり、国内AMR市場の7割超のシェアを誇ります。お客様はアスクル様、ナイキ様、大和ハウス様、トヨタ自動車様といった大手企業から、中堅・中小企業まで幅広く使っていただいております。
特に大手企業様には採用拠点の追加などのリピート発注を毎年いただいており、当社の業績安定化につながっています。また、大手での導入実績による信用や導入効果の評判が業界内に広がることで、新規開拓も進みやすくなっています。
2つ目は「フルフィルメント事業」です。AMRを販売する当社自身が倉庫を借り上げ、物流の受託事業を行うことで収益を上げながら、AMRの使いこなし方を研究しお客様にお伝えして販売事業にもつなげています。
3つ目は「ソフトウェア事業」です。庫内の自動化を超えて、商品の需要予測や在庫配置などより上流のサプライチェーンマネジメントから課題解決を行いつつ、そこで生じるデータを活用したさまざまな取り組みを可能にするSCMソリューション「skylaa(スカイラー)」を開発・販売しています。これは日本独自の事業ですが、フルフィルメントサービスやAMRと組み合わせて活用することもできます。

プロダクトと運用実績、システム開発に実績を持つ強み
――ロボットを販売するだけの会社、ではないのですね。
嶋田 ときどき「中国企業の物流ロボットを販売する子会社ですか?」と聞かれることがありますが(笑)、違います。当社は、グローバルシェアNo.1のAMRを開発・製造するギークプラステクノロジーと、当社代表の加藤大和が出資し合って設立した合弁会社です。
マジョリティ(過半数)株主は加藤ですので、経営の自由度は高いです。テクノロジーの力で「物流」という日本の大きな社会課題を解決するために、AMRの導入も行っている会社と理解してもらえれば幸いです。
なお、ギークプラステクノロジーの製品は、グローバルではUPS、アディダス、ウォルマートなど1,000社以上、世界20か国以上で展開し、5万台超のAMRを運用しています。しかし、日本市場においては、日本企業向けのローカライズが欠かせません。
例えば、中国市場ではスピード納品が最優先で、品質は運用しながら徐々に上げていけばいいと考えますが、日本企業はテストで100%近いクオリティを出し、運用で完璧を目指せなければ受注できない、という文化の違いがあります。
当社は中国メーカーと日本のお客様との間をつなぎ、精度や品質を上げる役割を担っており、メーカー側にフィードバックを行いながら、日本向けに製品をアップデートしてもらうといったやりとりもしています。
SCMソリューション「skylaa」開発エンジニアの採用を強化

株式会社ギークプラス VP of HR & GA 鄒潮生(つぉう ちゃおしょん):新卒で大手IT企業に入社しSEを経て採用チームに異動。採用責任者を経て転職エージェントとして独立。その後複数のIT企業で人事職に従事し、2025年にVPoHRとしてギークプラスに入社。
――現在キャリア採用を注力されている分野はどこになりますか。
鄒 ソフトウェア事業において「skylaa」の開発に携わるエンジニアの募集に特に力を入れています。現在稼働している製品は、“複数拠点の在庫を行う”という基本機能を備えています。これはskylaaのほんの一機能に過ぎませんが、それでも月額で利用できるSaaSはほぼありません。
日本の物流業界はテクノロジーやシステム化が非常に遅れており、改善の余地が大きく残っています。手作業だったり手書きのファクシミリだったり、データ化といってもExcelくらいしか使っていなかったりするところも多いです。
人口の多い東京中心の一極集中で在庫管理を行っているのも問題です。BCP(事業継続)の観点からリスクがありますし、出荷の際も長距離を運ばないといけなくなります。例えば、関西にもう一拠点あれば、西日本への配送のリードタイムを短く、コスト(送料)を安くできる場合があります。
では、なぜ一極集中が解消できなかったのかというと、倉庫の複数拠点管理をうまくハンドリングできるシステムがなかったためです。特に3PLなど他社に物流を委託している場合には、システムが統合されていないので、複数拠点の管理はより複雑になります。
そこで当社のskylaaを管理システムの真ん中に置き、関係する拠点のデータを流すことで、お客様がskylaaとの対話で中央管理ができる仕組みを実現しています。
それを実現するために優秀なエンジニア、PdM、デザイナーがまだまだ足りない、ということで特に採用に注力しています。

開発体制の内製化に向けた採用を強化中
――skylaa単体で契約することもできるのでしょうか。
鄒 可能です。また、skylaaを導入して在庫管理の効率化を実現したお客様から、庫内の省力化にも着手したいからとAMRを購入したり、AMRのお客様が在庫の可視化や物流の可視化をさらに進めたいとskylaaを導入したりというケースもあります。
そういう意味では、当社が3つの事業を持っていることは重要で、それらをうまくつなぎ合わせながらお客様の物流課題の解決ができればいいと考えています。
データ活用への展開と自発的思考を持つ人材を求む
――skylaaの今後の展開構想はありますか。
嶋田 skylaaの開発は2年目に入り、お客様との取引を通じて機能充実のフェーズにあります。在庫の可視化や在庫管理の効率化をする「在庫管理SaaS」から発展を遂げ、サプライチェーンにまつわる様々な生のデータを活用し計画から実行までをトータルで支援する「SCMソリューション」として、さまざまなビジネスに展開できると考えています。
例えば、どの商品が本当に売れている在庫なのか、どの商品がいくらでどのくらい売れているのか、といったデータをサプライチェーン全体で見て需要予測を行ったり、ファイナンス領域で活用したりすることが考えられます。
プロダクトに生成AIを組み込むことも検討しており、ベータ版を作ったり機械学習で大量データを扱ったり、と研究開発にも投資しているフェーズです。
このような機能開発・研究開発を行ううえで、世界トップシェアのギークプラステクノロジーと提携していることは大きな強みとなります。一定の制約下でグローバル物流やサプライチェーンの流れのデータが取れる唯一無二の環境がありますので、それを使ってどういう仕組みを作るのかを考えるのもskylaaチームの仕事になります。
現時点ではAMRの販売事業が売り上げの大半を占めている状況ですが、売り切りビジネスは業績に大きな波ができますし、製品の仕入れに依存する面もあります。当社独自のストック型ビジネスの割合を高めつつ、売上全体が伸びていく状況を作るのが目標です。
なお、ロボット販売事業でもフルフィルメント事業でもSaaS事業でも、それぞれの分野で競合サービスはありますが、すべてをカバーしている会社は見当たりません。物流課題をトータルで解決する3つの事業を持っていてシナジーを生んでいる強みは、当社ならではと思います。

株式会社ギークプラス 管理事業部 兼 マテリアルハンドリング事業部 人事・採用担当 熊林優(くまばやし・ゆう):新卒で大手メーカーに入社し、家電の卸売や代理店販売などに従事。SaaS企業のインサイドセールス、中途採用担当などを経て、2024年より現職。
――具体的にどんなスキルや経験を持った人材を求めているのでしょうか。
熊林 もちろん物流やサプライチェーンに詳しい方が理想ですが、必須条件ではありません。社会課題の解決にチャレンジしたい意欲のある方の応募を歓迎しています。欲を言えば、いろんなことできつつ、例えばSRE(Site Reliability Engineering)でパフォーマンスチューニングをやってきたとか、尖っているポイントがひとつでもある方がいいですね。
現在、ソフトウェア事業には20人ほどの社員がおりますが、活躍している人のタイプは、割り当てられた仕事をこなすというよりも、自分の役割に対して、いまいる時間をどう活用したら、会社として事業として価値があるのだろうか、と考えられる人が多いです。
課題解決に関われることを面白がって自発的に考えて行動するタイプの方や、もっとビジネス寄りの開発に携わりたいと考えている方には、当社はフィットするのかなと思います。
仕事のやり方としては、組織を細かくセクションカットせず、開発優先度の高いものからプロジェクト化して進めているので、要件定義から設計、実装、テスト、デプロイ、運用・保守まで、フルサイクルでの開発が得意な方は歓迎です。フルサイクルにチャレンジしたい方、そちらの方向に伸びていきたいエンジニアはフィットすると思います。
物流のプロが率いるチームと「らしさ議論」で築く企業文化
――現在のソフトウェア事業のトップはどういう方なのでしょうか。
嶋田 実はITエンジニア出身ではなく、サプライチェーン・物流領域の経験を軸とした「物流のプロフェッショナル」です。荷主側からサービスプロバイダーに転身した異色の経歴を持ち、プロダクトマネジメントなどを学びながらエンジニアチームを率いています。
物流のオペレーションについても非常に詳しい方なので、「こういう機能があったらいいんじゃないか?」といった提案に対して、「実際の業務はこうだから、こっちの方がいいんじゃないかな」といった的確なフィードバックがすぐに得られる環境です。
ほかにも当社には、物流オペレーションに非常に詳しい人が業界でもトップクラスに多いところが特長です。CLO(チーフロジスティクスオフィサー)レベルの物流専門家が複数在籍しており、そこが他社には作れないシステムを開発できる強みになっているのかなと思います。
また、当社は縦割りの組織ではないので、組成されるプロジェクトには、ロボット事業やフルフィルメント事業のメンバーが加わることもあります。3つの事業をどうミックスして強みを生み出していこうかと考えながら、各事業の深みを磨いています。

ギークプラス創業者でCEOの加藤大和氏
――ほぼ全社員が中途入社とのことですが、活躍支援の工夫はされていますか。
鄒 直近でアップデートしたことが、2つあります。1つ目はオンボーディングの取り組みです。これまでは現場で仕事を覚えるOJTに任せていたところがあるのですが、なかなか力を発揮できないケースもありました。そこで、上長と一緒に週次の細かい目標を設定し、進捗状況を確認しながら、困っていることをフォローしたり、軌道修正をしたりという取り組みを始めたところです。
もう1つはカルチャー定義です。この1年間で社員数が倍に増えているのですが、「前の職場ではこうやってきた」という新たに入ってきたメンバーと、「今まではこうやってきた」という以前からいるメンバーとの間に、価値観の相違が目立つようになりました。
そこで、当社が成長する中で、何を変えるのか、何を変えないのか言語化し、全社員ですり合わせをするために「らしさ議論」を実施しました。「ギークプラス“らしさ”とは何だろう」ということを17チームに分かれて、3カ月間ほど議論したのです。

卓越した成果やチームワークを讃える「Geek+ AWARD」の授賞式。MVTはソフトウェア事業部が受賞
その結果をチームごとに発表してもらって、最後は著名なライターの方と言語化して作ったのが「Z思考」です。今後は社内でZ思考に沿った行動を称賛し、Z思考に沿って意思決定して、文化が噛み合わないことによる問題を減らしていこうとしています。
なお、現状の評価制度は「ミッションの達成度」と「行動評価」を組み合わせるものになっています。ミッションについては、業務上の目標を難易度と達成度合いで評価しますが、行動評価は新たに作ったギークプラスらしさを軸としたものにしていきます。
現場経験が育んだ次世代物流インフラへの使命感
――嶋田さんの経歴を教えていただけますか。
嶋田 大学卒業後、健康通販メーカーでD2C事業に携わり、ネット通販業務に従事していました。その後、サービス提供側でキャリアを広げたい思いから、アパレルブランドやECサイト向けにフルフィルメントサービスなどを提供しているアッカ・インターナショナルに入社しました。このときの社長が、現在当社の代表を務める加藤大和でした。
そこで営業やディレクション、コールセンター、物流業務など幅広い業務を経験し、業務量が増える中で自動化による効率化の必要性を感じていたときに出会ったのが、ギークプラステクノロジーのAMRでした。
当時の会社は3PLも行っていたのですが、AMRの導入により、大手企業の売上高が4年連続50%増の成長を遂げるのを目の当たりにしました。その後、加藤が新たに設立したギークプラスの代表に移るタイミングで、より広く自動化を普及させたい思いを持って転職しました。

恵比寿ガーデンプレイスタワー26Fの本社オフィスにて
――いま、どのような思いを持って働いていますか。
嶋田 当社は「次世代に残せる、デジタル物流インフラを作る」をミッションに掲げています。物流は日本の重要な社会インフラですが、流通するモノの増加と急速な人手不足により、近年その基盤が非常に弱くなっていることを感じます。
私たちの世代は逃げ切れるかもしれませんが、将来世代が、物流が立ち行かなくなることでモノを受け取れない状況になることは、何としても避けたい。そのために、テクノロジーを活用して効率化と自動化を進め、強い物流インフラを作っていくことが大切と考えています。
テクノロジーを使えば効率化できる部分が多く、人間が本来やるべきことに集中することができるようになります。自動化・システム化できる部分をロボットやITに任せることで、「次世代の物流インフラ」づくりを目指したいという思いです。