東急不動産ホールディングスのDX:目指すは「資産効率性」と「生産性」の向上 資産と人財の価値をDXで最大化する
WE ARE GREEN ~価値を創造し続ける企業グループへ~ より1953年に東京急行電鉄から分離独立した東急不動産を中心に、不動産関連事業を幅広く展開する東急不動産ホールディングスグループ。近年は、竹芝のスマートシティプロジェクト(ソフトバンクとの共同展開)や広域渋谷圏開発プロジェクト等を手掛けています。2021年4月には総合デベロッパーで初めて経済産業省「DX 認定事業者」を取得するなど、DXへの意識の高さがうかがえます。
2021年5月には「WE ARE GREEN」をスローガンに、2030年までにありたい姿を示す「GROUP VISION 2030」を策定。長期経営方針を「強固で独自性のある事業ポートフォリオの構築」とし、実現に向けて環境経営とともに「DX」を全社方針として位置づけています。(NEXT DX LEADER編集部)
「生産性向上」と「新ビジネス創出」が喫緊の課題に
2013年の純粋持株体制化で誕生した東急不動産ホールディングスは、傘下の東急不動産、東急コミュニティー、東急リバブル、東急住宅リース、学生情報センターを主要5社と位置付け、「都市開発事業」「戦略投資事業」「管理運営事業」「不動産流通事業」の4つのセグメントで事業を展開しています。
2022年3月期の連結売上高は9890億円と1兆円目前で、営業利益は838億円。営業収益のセグメント構成比は、管理運営事業が最も大きく38.0%、次いで都市開発が32.2%、不動産流通が23.2%、戦略投資が6.6%でした。
同営業利益では、都市開発が519億円と全体の過半数を占め、不動産流通が261億円、戦略投資が147億円。一方、管理運営事業は1億円の赤字(前期は88億円の赤字)となっており、最も大きな売上高の管理運営事業で利益を生み出せてない、という問題に直面しています。
2022年3月にはグループ傘下の東急ハンズをカインズに譲渡するなど事業構造改革を進めてきましたが、コワーキングスペース運営のWeWorkや入居手続きデジタル化のOYO(いずれも本社米国)といった新たな競合が業界参入する中で、DXによる生産性向上と新ビジネス創出が喫緊の課題となっています。
DXの専門部署の設置は2021年4月と比較的早く、蓄積されたデータやデジタル技術をグループ内企業に横断展開してビジネスモデルの革新を図ることを目的として、東急不動産ホールディングス内に「DX推進部」を新設しました。
さらに2022年4月には、デジタル領域の高度専門人財を擁する機能会社「TFHD digital」を設立。DX機能の内製化やデジタル人材の獲得育成を強化し、グループ内におけるDX推進・支援をより一層加速させる環境を整えています。
DXで「資金の効率的投資」と「労働集約型からの脱却」図る
GROUP VISION 2030の実現に向けた第一歩として、2022年5月に「中期経営計画2025」を策定。セグメントをさらに「資産活用型ビジネス(都市開発事業/戦略投資事業)」と「人財活用型ビジネス(管理運営事業/不動産流通事業)」に大きく2つに分けて整理しています。
2つのビジネスの「めざす姿」は方向性が異なり、資産活用型ビジネスでは「資金の効率的投資や共創型開発などを通じて資産効率性の向上」、人財活用型ビジネスでは「労働集約型からの脱却と知的資産の有効活用による生産性の向上」となっています。
2022年3月期に赤字だった管理運営事業は「人財活用型ビジネス」に位置づけられ、労働集約型からの脱却が課題に。利益の大半を生み出す中核事業の都市開発事業は「資産活用型ビジネス」としてさらなる資産効率性の向上が求められています。
中期経営計画2025において、DXは《当社グループが保有する「資産」と「人財」の価値をDXで最大化し、新たな収益モデルの確立をめざす》取り組みと位置づけられました。主要課題には「都市のスマート化による街の求心力向上」と「人とデジタルの最適な融合による先進的なサービスモデル創造」の2つがあげられています。
前者については「快適な都市生活を通じたCX先行型のスマートシティを実現」、後者は「付加価値の高いサービスを展開し、新たなビジネスモデルの創造と収益源の拡大を図る」というビジョンが示されており、いずれも「資産」と「人財」に対応しています。
また「DXを加速させる仕組み」として、以下の6つをあげています。
<デジタルと不動産の融合に向けた基盤構築>
・人財育成・獲得:DX機能会社設立/DX・IT人財育成研修の実施
・戦略的なIT基盤構築:価値創造のためのデジタルワークプレイス構築
<グループ内外の連携によるイノベーション創出>
・社内ベンチャー制度:新規事業提案制度「STEP」(2019年〜)
・テック企業との連携:先進的なテクノロジーを活用した業務効率化やCX向上
・組織風土・働き方改革:風土醸成イベントの実施(ベンチャー経営者講演・ピッチなど)
・CVCを通じた共創:CVC、大学・海外ベンチャーなどとのシナジー創出(※CVC:コーポレート・ベンチャー・キャピタル。事業会社が社外のベンチャーに対して行う投資活動)
「マンション価格査定AI」で年1.5万時間の削減効果
中期経営計画2025にあわせ、2022年5月には「DXレポート2022」を公表。GROUP VISION 2030の実現に向けた、DXの具体的な取り組みについてまとめています。
DXレポート2022には、東急不動産ホールディングスグループのDXビジョンとして「Digital Fusion デジタルの力で、あらゆる境界を取り除く」という言葉が掲げられています。
そして、3つの融合(Fusion)として「あらゆる生活シーンの融合(ライフスタイル創造3.0)」「オンラインとオフラインの融合(OMO:Online Merges with Offline)」「事業・組織の枠を超えた融合(グループ連携/パートナー共創)」があげられています。
また、3つの取組方針として「ビジネスプロセス」「CX(カスタマーエクスペリエンス)」「イノベーション」を掲げ、省力化や顧客接点の高度化にとどまらない、新しい価値創造を目指すとしています。
DXレポート2022には、グループ内でのDXの成功事例が掲載されています。東急リバブルの「マンション価格査定AI」や、東急スポーツオアシスのトレーニングアプリ「WEBGYM」、東急リゾーツ&ステイの「従業員シフト作成の自動化」、東急コミュニティーの「ビル点検業務のIT化(管理ロイド)」、東急リバブルの「マイナンバーカード認証による電子署名実用化」などはその一例です。
すでに生まれている成果としては、「マンション価格査定AI」によって全社で年間約15,000時間の作業削減効果が見込まれるとのこと。また「WEBGYM」は現在約70万人のユーザーが利用しているようです。
2030年までに投資額2倍以上、ITパスポート取得率100%へ
DXレポート2022は、DXを長期・継続的に実践するための「次世代IT基盤」について、「情報セキュリティ基盤の拡充(ゼロトラストネットワーク)」「レガシーシステムの解消(クラウドネイティブ)」「幅広い事業領域を活かしたデータの活用(データガバナンス)」という3つの条件を整備し、価値創造のためのデジタルワークプレイスを実現するとしています。
DXにおける人財活用については、DX推進主体である各事業会社に「ビジネスとデジタルをつなぐ“ブリッジパーソン”」を置くとともに、前述のDX機能会社TFHD digitalを設立し、ビジネス系デジタル人財とIT系デジタル人財を置いて、事業会社のDXを支援する体制を整えています。
2030年度までのロードマップとしては、2025年までを「再構築フェーズ」として、DXの焦点を「ビジネスプロセス」と「CX」の2つに当て、利益率改善や収益増加を図るとしています。そのうえで、2026年から2030年までの「強靭化フェーズ」でDXによる「イノベーション」に取り組み、新たなビジネスモデル創造による収益源の多様化に挑戦します。
DXレポート2020には、2030年度までの目標指標として「DX投資額」「デジタル活用のプロジェクト件数」「ゼロトラストネットワーク」「ITサービスの集約」「ITパスポート取得」「DXプログラム参加者」がKPIとして設定されています。
2030年度までの目標として、DX投資額は2021年度比で2倍以上、デジタル活用のプロジェクト件数が累計100件以上、ITパスポート取得率は東急不動産社員の100%としています。
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