三菱倉庫のDX:物流プラットフォームの構築に加え、先進的な外部パートナーとの「協働DX」を推進 | NEXT DX LEADER

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三菱倉庫のDX:物流プラットフォームの構築に加え、先進的な外部パートナーとの「協働DX」を推進

三菱倉庫グループ 経営計画[2022-2024]のご紹介 より

倉庫業界最大手の三菱倉庫は、倉庫事業を中核に、陸上運送、国際輸送、港湾運送、不動産の事業を展開する会社です。顧客のパートナーとして、調達から流通、販売までのサプライチェーンを一貫で担う「ロジスティクス・サービス・プロバイダー」を目指しています。

国内の自社保有倉庫116棟、グローバルで21か国114か所の拠点を有し、食品・飲料業界や医薬品業界、自動車業界などにおいて、配送センターなどのロジスティクス、海上・航空輸送などのフォワーディング(国際輸送)、物流情報システムといったソリューションを提供しています。(NEXT DX LEADER編集部)

物流事業が9割弱。運賃単価の上昇で大幅増益

三菱倉庫は、大きく「物流事業」「不動産事業」の2つを展開しています。2023年3月期の営業収益構成比(セグメント間取引消去前)は、物流事業が87.3%と大半を占めており、不動産事業は12.6%にとどまります。

物流事業は、さらに5つの事業で構成されており、2023年3月期の構成比は「国際運送取扱事業」が44.0%、「倉庫事業」が24.2%、「陸上運送事業」が19.6%、「港湾運送事業」が8.8%、「その他」が3.2%となっています。

「三菱倉庫グループ 会社概要・事業概要」より

「三菱倉庫グループ 会社概要・事業概要」より

三菱倉庫の業績はここ10年ほど、大きな伸びのない時期が続いていました。緩やかな右肩上がりが続いていたものの、2021年3月期には営業収益が前期比6.7%減となるなどコロナ禍の影響を受けています。

ところが、2022年3月期になると「収益認識会計基準の適用」という営業収益のマイナス要因にもかかわらず、業績が大きく伸びています。

2022年3月期の営業収益は、前期比20.4%増の2572億円、営業利益は同54.6%増の181億円に。翌2023年3月期も、営業収益が同16.9%増の3005億円、営業利益が同26.9%増の230億円、営業利益率7.7%と続伸しています。

特に国際運送取扱事業は、2022年3月期に前期比58.2%増、2023年3月期にも同57.9%と大きく伸び、2期連続の大幅増収に貢献しています。この要因は、主に運賃単価の大幅上昇と為替円安によるもので、2024年3月期には剥落する見込みとのことです。

「経営計画」でDX推進を位置づけ

業績急伸には、会社の取り組みも影響しています。2019年3月に公表した「MLC2030ビジョン」では、「医療・ヘルスケア」「食品・飲料」「機械・電機」「新素材」を重点4分野と選定し事業領域とシェアの拡大を図り、コールドチェーン需要を狙った「海外事業の拡大」を進めるとしています。

「三菱倉庫グループ 経営計画[2022-2024]」(2022年3月25日)より

「三菱倉庫グループ 経営計画[2022-2024]」(2022年3月25日)より

2022年3月発表の「三菱倉庫グループ 経営計画 [2022-2024]」では、「物流事業の収益力強化」「海外事業の成長基盤拡大」「先端技術の活用による高付加価値サービスの開発」など5つの基本方針を打ち出しています。

直近の増収は、医薬品・自動車関連等の配送センター業務の拡大や、国際輸送貨物の取扱拡大も貢献しており、経営計画の基本方針に沿った結果といえるでしょう。

「三菱倉庫グループ 経営計画[2022-2024]」(2022年3月25日)より

「三菱倉庫グループ 経営計画[2022-2024]」(2022年3月25日)より

デジタル技術の活用やDXにも取り組んでいます。MLC2030ビジョンでは、成長戦略のひとつに「業務プロセスの改善と新技術の活用促進」を掲げ、全事業の業務プロセスを見直すとともに、「IoT、AI、ロボット等の新技術を活用した効率的なオペレーション」により、サービス品質と生産性向上を実現するとしています。

経営計画では、基本方針のひとつ「先端技術の活用による高付加価値サービスの開発」の中で、「物流業務・施設運営の効率化・高度化」「物流プラットフォームサービスの開発」を掲げています。

「三菱倉庫グループ 経営計画[2022-2024]」(2022年3月25日)より

「三菱倉庫グループ 経営計画[2022-2024]」(2022年3月25日)より

また、基本方針「グループ経営基盤の強化」でも、業務効率化策として「デジタル技術活用環境の整備」、人材育成策として「デジタル人材の育成」、風土改革策として「新たな挑戦やイノベーションをサポートする企業風土の醸成」を掲げており、いずれもデジタル技術を活用した変革としてのDXに関わる取り組みといえます。

「三菱倉庫グループ 経営計画[2022-2024]」(2022年3月25日)より

「三菱倉庫グループ 経営計画[2022-2024]」(2022年3月25日)より

 

ブロックチェーン活用やCO2排出量の可視化実験も

DXに関する具体的な取り組みは、2019年より情報システム部に「デジタル化推進チーム」を設置。先端技術・イノベーション分科会や、連結子会社のダイヤ情報システムが中心となって、外部パートナーとの連携により先端技術活用を進めています。

また、先進的な技術を有するスタートアップ企業との協業を強化するために、事業会社である三菱倉庫が自己資金でファンドを生成するCVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)を設置するとしています。

「三菱倉庫グループ 経営計画[2022-2024]」(2022年3月25日)より

「三菱倉庫グループ 経営計画[2022-2024]」(2022年3月25日)より

事業概要によると、三菱倉庫では顧客企業のサプライチェーン管理部門から「配送センター」業務を請け負い、自社開発の統合型WMS(倉庫管理システム)やG-MIW(医療機関等情報支援システム)と情報統合プラットフォームを構築して業務を可視化、物流システムの統合化と共同化によりコスト削減と効率化を図っているとのことです。

「三菱倉庫グループ 会社概要・事業概要」より

「三菱倉庫グループ 会社概要・事業概要」より

配送センターでは、AIを活用した倉庫内在庫の配置最適化によるピッキングや補充作業の最小化にとどまらず、さまざまな先進的な「協働DX」の取り組みを行っています。

「三菱倉庫グループ 会社概要・事業概要」より

「三菱倉庫グループ 会社概要・事業概要」より

大手製薬会社と協働で行っているのは、ブロックチェーンを用いた医薬品輸送・流通上の温度・位置情報を可視化するデータプラットフォームの構築運営です。物流ベンチャーHacobuとは、オープンプラットフォームを活用したスコープ3 CO2排出量の可視化実証実験を行っています。また、CVCとして協働型ロボットを開発するラピュタロボティクス社への出資も行っています。

このほか、顧客企業の基幹システムやERPと連携して貨物トレース情報の共有を可能にする物流情報システム「ロジスティクス・プラットフォーム」の提供も行っています。DXという言葉は掲げていませんが、デジタル技術を用いた業務革新という意味では、デジタル・トランスフォーメーションの取り組みといえるでしょう。

「三菱倉庫グループ 会社概要・事業概要」より

「三菱倉庫グループ 会社概要・事業概要」より

なお、三菱倉庫は経産省「DX認定」の申請書(2022年6月6日付け)の「最新の情報処理技術を活用するための環境整備の具体的方策の提示」の中で、基幹システムのモダナイゼーションについて以下のような「移行例」を示しています。

  • 2017年・・・ホストマシン利用終了、倉庫事業基幹システムのオープン化
  • 2020年・・・港運事業基幹システムのオープン化、グループウェアをSaaSへ移行。併せて、港運事業基幹システム、国際輸送事業基幹システムのDR環境をクラウド環境に構築
  • 2021年・・・全社でのデータ利活用環境をクラウド環境に構築
  • 2022年・・・「経営計画[2022-2024]」P13記載(※上記掲載)の「物流プラットフォーム」を構築

また三菱倉庫は2023年4月に、米欧で医薬品・ヘルスケア物流や米国政府機関向けのロジスティクスソリューションに特化した高度なサプライチェーンを構築しているCavalier Logisticsグループを同年8月を目途に連結子会社化すると発表しており、「医療・ヘルスケア分野の事業拡大」「海外事業の成長基盤拡大」をさらに進めています。

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考察記事執筆:NDX編集部

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