すかいらーくHDのDX:中期事業計画でDX推進を位置づけ 新しい外食体験による「顧客満足度追求」と「働き方の改革」進める
すかいらーくグループ DXを活用した店舗体験 よりすかいらーくは1962年、総合食品小売業チェーンのことぶき食品として設立され、1970年からファミリーレストランを展開している会社です。1984年に東証一部に上場し、「ジョナサン」「ガスト」など100を超える業態を開発してきました。
しかし、外食産業の競争激化などにより業績が悪化し、2006年に上場廃止、2009年にファミリーレストラン「すかいらーく」を完全閉店。リストラ後、2014年に東証一部に再上場し、2016年に持株会社制に移行しています。(NEXT DX LEADER編集部)
全ブランドをカバーする「垂直統合プラットフォーム」が強み
すかいらーくグループはコロナ禍の打撃を受け、2020年12月期に172億円の最終赤字に転落。2021年12月期にはデリバリーやテイクアウトの売上拡大や時短協力金の受領で黒字回復したものの、2022年12月期にはふたたび最終赤字となっています。
2023年12月期は、コロナ禍の落ち着きと前年実施した値上げ効果の影響もあり、売上高3548億円、事業利益164億円、当期利益48億円で黒字回復しています。
報告セグメントはレストラン事業のみですが、有価証券報告書には11のブランドが並び、事業ポートフォリオは、バリュープライスの「ファミリーダイニング事業」が「ガスト」「ジョナサン」「バーミアン」「夢庵」など6ブランド、モデレートプライスの「カジュアルダイニング事業」が「しゃぶ葉」「藍屋」など7ブランドを展開しています。
2023年12月期のブランド別売上内訳は、「ガスト」が40.6%と最も大きく、「しゃぶ葉」が11.8%、「バーミアン」が11.6%、「ジョナサン」が6.8%など。総店舗数は2023年12月末時点で2,976店。このうち98%超が直営店。74店舗が海外店舗で、内訳は台湾69店、マレーシア4店、米国1店です。
すかいらーくグループの強みである「垂直統合プラットフォーム」は、展開する全ブランドで原材料を一括調達し、3,000を超える店舗を10か所の生産拠点(セントラルキッチン)でカバーする仕組み。全業態のレストランで配送ネットワークを共有しています。
オペレーションシステムやマニュアル、人事制度も全店舗で統一し、高品質で手頃な価格の料理を快適な空間で提供。外食業界最大規模となる約4,000台の配達用車両を保有し、広範囲なデリバリー網を有しています。
2022年1月に「全社DX推進プロジェクト」発足
すかいらーくはコロナ禍の2022年1月に「全社DX推進プロジェクト」を発足。全部署にDX専任担当を配置し、営業や購買、財務などの各分野で抜本的な業務改革を推進し、2023年は7,340時間の業務改善と1億3300万円のコスト削減を実現するとともに、将来的なDX人材の育成を行っています。
各店舗に関する取り組みとしては、「新POSレジ」を全店に導入し、1日あたり労働時間を0.5時間削減。約800店舗で「キャッシュレス・セルフレジ」の設置を行い、セルフレジの利用率は2023年1月時点で25%超にのぼっています。
また、「デジタルメニューブック」を改善し、メニュー番号からの入力専用機を開発して、新業態の「八郎そば」「桃菜」に導入。全タブレットのリアルタイムでの可視化と、配膳ロボとの連動を図っています。
「ネコ型配膳ロボット」については2021年末から導入を開始し、2022年内に3000台の導入が完了。インストラクターが全国を周って運用を改善し、9割のお客様が満足と回答しています。また、「ガスト」においては、ランチピーク時の回転率が2%上昇、片付け時間が35%削減、歩行数が42%削減したという効果があがっています。
「すかいらーくアプリ」は、2023年3月末時点で会員数1,100万人を突破。天候や気温に連動したクーポンの精度向上、来店利用履歴や行動履歴の活用による売上拡大施策のほか、グループ内での相互送客に大きく寄与しています。
AIやロボットを活用し「バリューチェーン革新」
すかいらーくグループは2024年5月、2027年12月期を最終年度とする中期事業計画を発表しました。3つの基軸として「人的資本の充実」「DXの推進」「ESGの推進」をベースに、4つの成長戦略「新規出店」「既存店の成長」「海外展開」「M&A」を推進することで、グループのサステナブル経営を実現するとしています。
DXの推進について「すかいらーくグループ統合報告書2023」には、「新しい外食体験による顧客満足度追求と働き方の改革」を進めるDX戦略ロードマップとして4つのステップが示されています。
step1の「顧客向け・従業員DX化促進」としては、2025年までに「セルフレジ」や「テーブル決済」の展開、「呼び出し掲示板」の展開・高度化のほか、「入店案内システム・予約連動」「自社ポイントプログラム開始・CRM強化」「宅配代行連携強化」などに取り組むとしています。
step2の「バリューチェーンを通した革新的生産性向上」としては、2024年から2026年までに、「店舗バックオフィス業務の高度化・効率化」や「MDCシステムの高度化(AI・ロボット活用加速化)」「従業員コミュニケーションのユニバーサル化・従業員支援強化」などに取り組むとしています。
なお、MDCとは「マーチャンダイジングセンター」のことで、グループの食材の一次加工を担い、新鮮な食材を店舗へ配送する役割を担っています。
step3の「グローバルIT基盤の再構築」としては、2027年までに「グローバル・ローカルで活用可能な基幹システム再構築」「現地IT企業との連携(M&Aや海外展開のスピードアップ)」に取り組むとしています。
step4の「革新的なサービスの創造」としては、2028年以降に、パートナー企業との協業や産業を超えた連携による「データを活用した新たな価値の創出」を行い、自社の枠を超えた社会課題の解決に取り組むとしています。