大和ハウス工業は1955年、戦後の木材・資材不足を解決するプレハブ住宅「パイプハウス」を創業商品として設立された会社です。2023年3月期の売上高4兆9081億円、営業利益4653億円は2期連続増収増益、いずれも過去最高を更新しています。
事業セグメントは「戸建住宅」「賃貸住宅」「マンション」「商業施設」「事業施設」「環境エネルギー」「その他」の7つ。2023年3月期の売上高構成比は、賃貸住宅が22.8%、事業施設が21.7%、商業施設が21.7%、戸建住宅が18.1%とバランスが取れています。(NEXT DX LEADER編集部)
データ統合基盤を構築し「顧客体験価値」向上サイクル回す
大和ハウス工業は2022年5月、2023年3月期を初年度とする5カ年計画「第7次中期経営計画」を策定しました。持続的な成長モデルの構築に向けて、3つの経営方針「収益モデルの進化」「経営効率の向上」「経営基盤の強化」と、それらを具現化するための重点テーマを定めています。
重点テーマは「海外事業による成長加速」や「事業ポートフォリオ最適化」「人的資本の価値向上」など8つですが、この中で他の7つの推進基盤として「デジタルトランスフォーメーション(DX)」が位置づけられています。
さらに、前述の3つの経営方針をDXで具現化すべく、収益モデルの進化との交点に「顧客体験価値の向上」、経営基盤の強化との交点に「技術基盤の強化」、経営効率の向上との交点に「サプライチェーン進化」という課題を掲げています。
1つ目の「顧客体験価値の向上」の取り組みとしては、業界最大の事業規模で得られた情報を活用する「統合基盤」を整備するとしています。蓄積した膨大なデータを整備し、「従業員のUX向上」によって活用を促進。「データドリブン」な業務や意思決定、「多様なワークスタイル」「コラボレーション」を実現し、ヒトの創造力を最大化するとしています。
このような環境を活用して、顧客に対して高品質でタイムリーな提案を行い、「お客様への提供価値向上」を実現し、さらにそこで発生したデータを統合基盤に蓄積するというサイクルを描いています。
デジタルで「創造的な魅力ある仕事」へ進化
2つ目の「技術基盤の強化」では、「培ってきた技術基盤の強み」を活かしながら「建設DX“待ったなし”の産業課題」を踏まえ、「デジタルによる強みの進化で建設業界をスマート化、業界の持続性向上」を図り、ひいては働く人々にとって魅力ある建設業界にすることを目指しています。
「建設DX“待ったなし”の産業課題」にあげられているのは、業界が直面している以下のような大きな課題です。
- アナログ・属人的な働き方・3Kイメージ
- 働き手不足(高齢化・若者離れ)
- コンプライアンス徹底の難しさ
- 資源高騰(人件費・資材費)
3つ目の「サプライチェーン進化」は、設計‐購買‐生産‐物流‐施工の「建築サプライチェーン」と「建物ライフサイクル」の品質・コスト・スピードを、デジタル技術の活用で全体最適化することを目指しています。ひいては、働く人々の役割を「創造的な魅力ある仕事」へ進化させるとしており、ここでも「働く人」に照準が当たっています。
このような中期経営計画での整理を踏まえ、大和ハウス工業では取り組みの具体的内容を「DXアニュアルレポート2022」で報告しています。この中でDXは、「バリューチェーンのデジタル化」と「バックオフィスのデジタル化」を2本柱に、「オープンイノベーション」を組み合わせて推進していくと整理されています。
さらに、バリューチェーンのデジタル化には「建設プラットフォーム」「お客さまとのつながり強化」「ものづくり改革」「建物管理の高度化」、バックオフィスのデジタル化には「テレワーク推進プロジェクト」「コミュニケーショの変革」「業務システムの刷新」「情報セキュリティの強化」「グループ会計ガバナンスの強化」という課題をぶら下げています。
デジタル基盤「D’s BIM」で部品データベースを統合
「バリューチェーンのデジタル化」の課題について、DXアニュアルレポート2022で特に大きく取り上げられているのは「ものづくり改革」です。具体的には「BIM(ビム)による事業DX」「工場のデジタル化」「施工管理・施工作業のデジタル化」に向けた取り組みが紹介されています。
BIMとはBuilding Information Modelingの略で、モデルを構成する一つひとつの3次元パーツごとに、部材の仕様や性能、設備の品番、価格などの属性データを追加できる特徴があります。
「建設プロセスの改革(建設DX)」の第一歩として、製品開発から営業・設計・施工・維持管理までの情報が一元化されたBIMをプラットフォームとするデジタル基盤「D’s BIM(ディーズビム)」の構築を進めています。
D’s BIM基盤構築の取り組みにあたり、事業ごとにバラバラだったCADシステムをグローバルに対応したシステムに統一し、各事業で別々に管理していた部品データベースを統合します。特に住宅系事業においては、邸別建物データベースで一元化を図り、工程間のデータの齟齬をなくすことなどに取り組んでいます。
すでにD’s BIM構築の成果は上がっており、2019年10月の台風19号の被災地である長野市から応急仮設住宅の建設要請に応えた際には、競技スタートから配置承認まで従来の7日から2日短縮。設計開始から施工まで従来の2ヶ月から半分の35日に短縮しています。
SAPを採用し「グループ会計ガバナンスの強化」図る
「工場のデジタル化に向けた取り組み」については、作業における5K1U(きつい、汚い、危険、臭い、暗い、うるさい)からの脱却と、新しい働き方体験の実現を目指した取り組みが行われています。
2020年2月には、搬送の自動化と安全、省人化を目的に「無人フォークリフト」(AGF)を導入。住宅に必要な建材品番の表示器が点滅する「デジタルピッキングシステム」(DPS)なども導入し、「労働者の負荷削減」「重筋作業の軽減」「高効率な荷さばき」のデジタル化に取り組みました。
今後は、RFIDの導入によるサプライヤーからの受け入れ検品・集積完了時の数量検品、工場出荷時の積み込み漏れや誤り防止、施工現場での受け入れ検査や集積検査を改革し、工場を起点に物流やサプライチェーン全体のDXを目指していくとのことです。
また大和ハウスグループ3社は、2021年4月に自走掃除ロボットの開発プロジェクトを立ち上げ、開発パートナーのKYOSOテクノロジと提携して完成させています。作業員による床の清掃作業にかかる労働時間40時間/月に相当する業務の全てを自動化することが可能で、2023年度より3社の全国の建設現場に順次導入する予定です。
「バックオフィスのデジタル化」の課題について、DXアニュアルレポート2022で特に大きく取り上げられているのは「グループ会計ガバナンスの強化」です。全グループ会社の会計情報を取引明細レベルでリアルタイムに捉え、可視化・分析することで、「経営層での迅速な意思決定」につなげています。
具体的には、2012年度のSAP導入時の目的を踏まえ、さらに発展させた形での目的を設定。BI、プランニング、予測分析ツールとして「SAP Analytics Cloud」、リスクマネジメント、不正検知ツールとして「SAP Business Integrity(SBI)」を採用しています。
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