第一三共のキャリア採用は「オンコロジー」「DX」「グローバル」が重点領域 ビジネス環境の変化と急成長への対応が急務に
サイエンス。それは、希望。 「研究員の日々」篇 より2024年3月期決算が過去最高を記録し、時価総額が国内製薬業界トップの10兆円超えを果たしている第一三共。海外売上比率が6割を超え、さらなる成長に向けて事業のグローバル化への対応が課題となっています。
そんな中、強化しているのが即戦力の「キャリア(経験者)採用」。いまどのような領域でどんな人材を求めているのか。第一三共の人事部 人材採用グループキャリア採用チームリーダーの山田逸平さんに、キャリア採用の方針と考え方についてうかがいました。(聞き手・文:水野香央里)
キャリア採用数が新卒採用数を初めて超えた
――現在、キャリア採用は年間何人くらい行っていますか。
2023年度を通して約130名の方に入社いただきました。2014年度の新卒採用者が約100名なので、新卒を上回る数のキャリア採用を実施していることになります。今後もキャリア採用の人数規模は拡大していくのではと考えています。
――なぜキャリア採用を急速に増やしているのでしょうか。
当社は2025年ビジョンである「がんに強みを持つ先進的グローバル創薬企業」を現在の中期経営計画期間に実現し、次の成長ステージに移行するため、2021年4月、2030年ビジョンとして「サステナブルな社会の発展に貢献する先進的グローバルヘルスケアカンパニー」を掲げました。
これらビジョンを実現するため、当社はそれまでの循環器領域を中心とした事業から、がんを中心に専門医が処方するスペシャリティ領域で従来のSOC(標準治療)を変革する先進的な製品・パイプラインを持つグローバル企業への転換を目指しています。
この方針のもと、会社は業績を急速に伸ばしていますが、既存社員の再配置やリスキリングなどによる育成だけではビジネス環境の変化と事業の急成長のスピードに追いつかず、即戦力の人材を積極的に採用しているという背景があります。
――業績をけん引しているのはどのような製品ですか。
2020年に発売した抗がん剤「エンハーツ」です。抗体薬物複合体(ADC)と呼ばれる技術を応用した抗がん剤で、薬をがん細胞へ直接届けることで、全身的な副作用を抑えながら、がん細胞への攻撃力を高めることができるのが特徴です。
現在のエンハーツの売上は、大部分が米国や欧州市場によるものです。その影響もあり、会社全体としては、国内売上と海外売上の比率は2023年3月期に逆転し、2024年3月期には海外売上が6割を超えました。これに伴って会社の体制も、グローバル化に対応できるように変わってきています。
コーポレートスタッフやDX領域は「業界未経験」でも可
――現在どのような人材のキャリア採用に注力していますか。
「オンコロジー(腫瘍学=がん)」と「DX」「グローバル」の3領域です。オンコロジー領域では、抗がん剤プロジェクトに携わる臨床開発職や薬理研究者のほか、医薬品の安全性監視に関わるファーマコビジランス(PV)職や、安全対策・メディカルドクター職なども対象となります。
DX領域では、先進デジタル技術を活用して経営や業務の変革をリードしていける方を求めています。活躍の場としては、社内業務のDXだけでなく、患者さんのヘルスケアや、創薬研究領域のデジタルプラットフォーム構築に関わる業務もあります。
グローバル領域では、ポジションに関わらず、海外グループ会社やベンダーなどと折衝できる力を持った人材、海外駐在経験があるなど即戦力としてグローバルで活躍いただける方を求めています。
この3領域以外でも採用を行っており、オープンしているポジションは年間で約120にものぼります。
――キャリア採用はやはり業界経験者が多いのでしょうか。
キャリア入社の約6割が、製薬業界の出身者です。研究職や開発職は同業他社からの転職が多いです。製薬業界は国からの規制なども非常に多いので、業界の経験者はやはり入社後の仕事もスムーズといえます。
ただし、本社のコーポレートスタッフやDX領域については、業界経験を問わず専門性を持った方を採用しているため、製薬以外の業界からの転職者も少なくありません。
グローバル対応の「人事制度」大幅見直しを準備中
――キャリア採用の定着促進にあたり、どのような取り組みを行っていますか。
入社1ヶ月を経過した時点で人事担当者が面談し、現状や困っていることなどのヒアリングをしています。その内容を踏まえて上司とも面談を行っています。幸い、キャリア採用者が早期に退職してしまうことはほとんどなく、採用時の丁寧な説明とともにオンボーディングのフォローがある程度届いているからだと考えています。
また、定着にあたっては、やはり人事制度の納得性も重要な要素になります。当社では既存社員を含めた人事制度の大幅な改定を2025年度に予定しており、評価・等級制度などをグローバル基準に合わせていく予定です。
――人事制度の改定は、どのような内容になるのでしょうか。
現在制度の細部を詰めているところですので、ESG説明会などで公開している範囲の内容となりますが、「評価制度」については成果創出や人材育成に主眼を置いた仕組みに、「等級制度」については職務・職責に応じたグローバル共通の採用や配置、育成につながるジョブの設定を行えるものに改定していく方針です。
特に人材育成は、マネジメント職に対してコーチングを通じて社員の能力やモチベーション、目標達成に向けた主体的な行動を引き出し、パフォーマンスの向上につなげることが期待されています。
会社としても、2024年4月からグローバルリーダーの育成を促進するプラットフォームとして「DS Academy」を設立し、必要なリーダーシップやマネジメントスキルの習得をサポートしています。
「報酬制度」についても、市場競争力を踏まえ、職務や貢献度に応じたメリハリのある処遇を行えるよう検討しています。
「人事制度が変わる」と聞くと不安に思う方もいますが、決してネガティブな状況にはならず、非常に前向きな改定になると考えています。特にこれからを担う世代の方々にとっては挑戦しがいのある環境になるといってよいと思います。
「世界に貢献できる会社」に魅力を感じてもらいたい
――キャリア意識の高い社員も少なくないと思いますが、主体的なキャリア形成を支援する仕組みはありますか。
「キャリアチャレンジ制度」という社内公募の制度があります。例えば特定の研究ポジションの募集をオープンにし、興味のある社員が自分の意思でエントリーして選考を受け、合格するとアサインされるという流れになっています。
自らの意思で自らのキャリア形成を行うことを支援するこの取り組みは、 2 年ほど前から始まったものですが、社内公募されるポジションの数もかなり増えてきており、今後も大事な制度になると思っています。
――御社で働く魅力を、候補者にどのようなことを伝えていますか。
福利厚生や働きやすさについてもお伝えしていますが、それ以上に、当社で働きたいと考えている方は「会社がどれぐらい社会に貢献できているのか」を重視している方が多いように感じます。
当社が事業の中心としている「がん」は、世界的にも罹患率や死亡率が高い疾病のひとつです。日本において、がんは1981年から死因の第一位で、2022年には年間38万人以上の方ががんで亡くなっています。
その一方で、がん領域は医療が進歩する中にあっても満たされない医療ニーズが多く、革新的な医薬品の創薬が望まれています。
当社には「エンハーツ」以降を見据えたパイプラインもたくさん控えており、成長がここで止まることはありません。当社で働くことによって、世界中の人々に貢献することができる部分に魅力を感じていただければと考えています。