三井倉庫グループは、三井銀行倉庫部から1909年に分離独立した会社が源流です。M&Aで事業領域を拡大。2014年に持株会社制に移行し、三井倉庫ホールディングスが持株会社と不動産事業を担い、子会社77社および関連会社9社で物流事業を行っています。
物流事業の内訳は、三井倉庫による「倉庫保管・港湾運送・海外物流」のほか、「航空貨物フォワーディング」「サードパーティーロジスティックス(3PL)」「サプライチェーンマネジメント(SCM)支援」「陸上貨物輸送」の計6つで、フルスペックの物流機能をグローバルに展開しています。(NEXT DX LEADER編集部)
中期経営計画の「3つの成長戦略」をDXで推進
三井倉庫グループの業績は、2016年3月期の営業利益率1.5%から右肩上がりに改善し、2023年3月期は営業収益3,008億円、営業利益260億円、営業利益率8.6%。2024年3月期は、特殊要因の反動減や先行費用の発生等から減収減益を見込んでいます。
三井倉庫ホールディングスは2022年5月、新しい「グループ理念」と「中期経営計画2022」を発表しています。
グループ理念は、Purpose(存在意義)に「社会を止めない。進化をつなぐ。」、Vision(中長期的に目指す姿)に「いつもも、いざも、これからも。共創する物流ソリューションパートナー」、Values(価値観・行動指針)に「PRIDE」「CHALLENGE」「GEMBA」「RESPECT」を定めています。
「中期経営計画2022」は「Be the First-Call Company ~深化による攻勢~」をスローガンに、2023年度から2027年度の5カ年計画を立てています。
成長戦略は3つ。1つ目の「グループ総合力結集によるトップライン成長」におけるDXの取り組みとしては、独自のビジネスモデルである「統合ソリューションサービス」の深化に向けて、自社基幹システムと他社システムを組み合わせた「SCMデジタルプラットフォーム」を構築するとしています。
統合ソリューションサービスとは、調達から生産、保管、輸送、販売の各プロセスの個別最適ではなく、全体を俯瞰したサプライチェーンにより全体最適を実現するもので、「モビリティ」「ヘルスケア」「B2B2C」などの領域での活用が期待されています。
2つ目の「オペレーションの競争力強化」におけるDXの取り組みは、合弁パートナーのトヨタ自動車の改善手法を取り入れた「標準化」を全社浸透させ、「DXによる業務品質の向上」を図り、「オペレーションのローコスト化」につなげるとしています。
3つ目の「深化を支える経営基盤の構築」については、「DX」「共創」「事業アセット」「ESG」の4つの側面から強化し、それらを支える「人材」については制度改革や人材交流を行い、エンゲージメント向上を図るとしています。
DX戦略で「攻め」と「守り」の両面打ち出す
三井倉庫グループでは、2021年11月にグループの「DX戦略」を発表し、「SCMデジタル情報を見える化するために、SCM情報をデジタル化し、社会価値創出に活用するデジタル物流企業を目指す」という方針を示しています。
「攻めのDX」の1つ目は、SCM デジタル情報の見える化を通じたビジネスモデルの変革を目指し、「SCM デジタルプラットフォームの構築」に取り組むとしています。SCM情報をスケールフリーネットワークで収集し、データ連携キーを設定して蓄積、SCMの変化に対応できるデータ範囲・項目拡張が可能なプラットフォームを構築します。
グループ会社の三井倉庫サプライチェーンソリューションは、1962年にソニーグループの物流専門会社として設立され、2015年に三井倉庫ホールディングスとソニーの合弁会社となっています。デジタルプラットフォーム基盤の構築には、メーカー視点による同社の物流設計ノウハウを取り入れるとしています。
2つ目は、顧客向け新サービス「マイクロサービス(便利アプリ群)の構築」にも取り組むとしており、「複数拠点の在庫の可視化」や「シナリオプランの比較」「貿易書類の自動発行・一元管理」といった新サービスを、アジャイル開発手法で提供するとしています。
「守りのDX」の1つ目は、SCM情報のデジタル化を通じた組織・企業文化風土の変革と事業の最適化を目指し、「スマートロジスティクスへの対応」を行うとしています。
スマートロジスティックスとは、「デジタルウェアハウス対応」や「デジタルフォワーディング対応」などの機能を備え、AIによる「判断の自動化」や、RPAによる「業務プロセスの自動化・省人化」、IoTによる「物の動きのデジタル化」、AI-OCRによる「紙の動きのデジタル化」を実現するものです。
2つ目は「ナレッジ基盤(ポータル・情報共有)の構築」として、グループのポータルサイトを再構築して情報取り出し口を一本化。さらにナレッジ基盤の構築を通じて暗黙知を形式知に変え、人とデジタルの融合を目指すとしています。
3つ目は「基幹システムのDX対応」で、業務・システム特性を評価・分析したうえでクラウド環境へ移行。SCMデジタルプラットフォームとの親和性を確保するとしています。
「デジタル戦略部」の設置にあわせ人材育成も推進
なお、「中期経営計画2022」によると、2022年4月付けで持株会社にデジタル戦略部を新設し、一層のDX推進、スピードアップのための体制整備を完了しているとのことです。
デジタル戦略部には、営業部門と共同したITソリューションの提案およびITシステムを活用したオペレーション設計を行う「ビジネスソリューション機能」と、デジタル戦略の推進とDXシステムの構築およびスマートロジスティックスの推進を行う「DX推進機能」を備えています。
さらに、IT専門職制度を導入し、DX推進において重要な役割を担うDXスペシャリストの中途/新卒採用を強化するとしています。全社員を「DXゼネラリスト」に育成し、IT技術/業務システムを駆使し、生産性向上を実現。加えてDX推進部門の社員を「DXスペシャリスト」に育成し、顧客課題やニーズの汲み取り、サービスの具体化・システム設計・プロジェクトマネジメントを担うとしています。