ファーストリテイリングのDX:SPAから“情報製造小売業”へ大転換 「有明プロジェクト」で目指す新しい産業創り
イチローPOST 柳井社長×イチローさん対談 15秒Ver. よりファーストリテイリングは、山口県宇部市で1949年に開業した紳士服小売店を1963年に法人化、1984年に広島市でカジュアルウェアの販売店「ユニクロ袋町店」として出店したのが源流です。1991年に商号変更、1992年に全店を「ユニクロ」に統一しました。
1997年に東証二部上場、1999年に東証一部に市場変更。現在は日本国内のほか、27の国と地域に海外店舗を置き、「国内ユニクロ」「海外ユニクロ」「ジーユー」、Theoryなどの「グローバルブランド」の4つのセグメントで事業を展開しています。(NEXT DX LEADER編集部)
サプライチェーンのすべてを改革
2022年8月期の売上収益は2兆3,011億円、営業利益2,973億円。セグメント別の売上構成比は、海外ユニクロ事業が48.7%で半数近くを占め、国内ユニクロ事業が35.3%、ジーユー事業が10.7%、グローバルブランド事業が5.3%と続きます。
デジタル変革について、代表取締役社長兼会長の柳井正氏は「アニュアルレポート2017」(2018年1月)の中で、次のような考え方を示しています。
我々は産業や企業のボーダーが消滅する構造の変化のなかで、お客様のために仕事をし、情報を商品化する新しい業態「情報製造小売業」に変わらなければならないという決意を固めました。
これを達成するために、2017年から「有明プロジェクト」を開始。すべての業務プロセスを変革し、お客様が求める商品を速やかに商品化するために「サプライチェーンのすべてを改革」。未来のテクノロジーを積極的に取り入れ「世界最高の服と情報を提供できる、新しい産業を創ります」と宣言しています。
ファーストリテイリングは、パートナー企業に物流業務をほぼ丸投げする中で、2015年に物流の大混乱が発生。これを受けて東京・有明に巨大な物流倉庫を建設、2016年4月に稼働を開始したものの、店頭欠品やECの納期長期化、コスト増などの問題が相次ぎました。
そこで2016年9月に、あらためて「物流改革への挑戦」を開始。同年12月からマテリアルハンドリング業界で世界トップシェアのダイフクと「超省人化アパレル倉庫の実現」に向けたプロジェクトに取り組み、2018年10月には同社と戦略的グローバルパートナーシップを締結。「全世界全拠点での倉庫自動化」を目指すとしています。
情報製造小売業の5つのコンセプトを整理
その間、ファーストリテイリング本部は、2017年2月に機能の大半を六本木から有明に移転。4年あまりの取り組みを踏まえ、2021年10月にグループ執行役員の田中大氏が「有明プロジェクトについて “情報製造小売業”の実現に向けて」と題した説明会を開催します。
この中で、ファーストリテイリングの目指す情報製造小売業とは「LifeWearのコンセプトを基に、お客様満足・より良い社会を実現するための、“ファーストリテイリングの新しい事業の在り方”」であると定義され、そのコンセプトを5つにまとめています。
1つめの「お客様一人ひとりとダイレクトにつながり、双方向の情報発信を可能にする顧客基盤」では、「お客様とダイレクトにつながるEC・アプリ会員基盤の構築」「お客様・店舗からの声・情報を収集・蓄積」「一人ひとりのお客様へダイレクトな情報発信」といった取り組みを実施。2021年8月末までに、グローバルアプリ会員が1.4億人にまで増えたとしています。
2つめの「お客様の声を基に、お客様が求めるものを商品化し、商品を情報化」では、「お客様が求めているものを創る “情報の商品化”」と「商品の価値を伝える “商品を情報化”」といった取り組みを実施。前者では、「過去1年で50品番以上の商品をお客様の声を起点に開発」といった実績をあげました。後者については、2021年4月に有明本部に日本最大級の撮影スタジオを新設するなどしています。
3つめの「お客様が求めているものを、必要なタイミングで、必要な分だけ、作り・運び・販売するSCM(サプライチェーンマネジメント)」は「必要なものを必要な分だけAIを活用した生販物連動」「商売の変動に対応する SCM全体リードタイム短縮」「適時・適品・適量の店舗投入 SKUオペレーションの実行」といった取り組みを実施。AIについてはGoogleとともにビッグデータに基づく需要予測モデルを開発、リードタイム短縮ではRFIDを導入しています。
「サステナブルな情報製造小売業」に向けた深化と拡大へ
4つめの「一人ひとりのお客様に寄り添い、いつでもどこでも、便利で楽しい購買体験」では、「世界最高レベルのEC事業の実現」「ECと店舗連動による購買体験の進化」「“新しい店舗”でのグローバル出店加速」の取り組みを実施。EC本業化を掲げ、2021年8月末までにグループ全体のEC売上が約3,800億円まで伸び、EC比率は約18%にまで拡大しています。
5つめの「一元化された情報をもとに、お客様のために全社員が連動する働き方」については、“有明型“の働き方として、12万人の全社員が常に同じ情報を見て、全社視点でリアルタイムに連動しながら、お客様のために仕事をする事を追求しているとのことです。
このような実績をあげてきた「有明プロジェクト」ですが、今後は更なる加速を目指して、以下のような課題に取り組むとしています。
- グローバルのお客様の会員化の更なる加速
- 声の収集拡大/商品化の精度・スピード向上
- 更なる計画連動の向上に向けたAI・アルゴリズム進化
- 生産リードタイムの更なる短縮/フレキシビリティ拡大
- 海外輸送の抜本的スピード化/空輸活用・店舗直送
- ECの更なる加速/O2Oサービス拡大/出店拡大
- お客様一人ひとりに寄り添った情報発信の拡大
また、“サステナブルな情報製造小売業”にむけて、有明プロジェクトとサステナビリティを一体化し、プロジェクトの“深化”と“拡大”によって、自社の事業成長が地球環境・社会に持続的に貢献できる事業を実現する、としています。
“深化”については、CO2削減・廃棄物0を徹底的に目指した事業の実現と、安心・安全に配慮した事業の実現。“拡大”については、お客様の求める商品を作って売るだけでなく、少しでも長く着てもらい、着終わった服を回収する「循環経済の実現」を目指すとしています。