富士フイルムグループのDX:2021年から「トップダウン型の推進」に転換 AIプラットフォームを軸に「モノ+コト」売りへ
テクノロジーで、患者も医師も支えたい (30s) /富士フイルム より富士フイルムホールディングスは、写真フィルムの国産化を目指して1934年に設立された会社が源流です。2006年に富士フイルムと富士ゼロックス(2021年に富士フイルムビジネスイノベーションに社名変更)を傘下に束ねる持株会社体制に移行しています。
2021年4月からは、事業セグメントを4つに再編。2023年3月期のセグメント別売上高構成比は、ヘルスケアが32.4%、ビジネスイノベーションが29.6%、マテリアルズが23.4%、イメージングが14.5%。同営業利益率は、イメージングが最も高く17.8%、ビジネスイノベーションが最も低く8.3%でした。(NEXT DX LEADER編集部)
CEOが議長を務める「DX戦略会議」が旗振り役に
富士フイルムグループの売上高は、ここ10年ほど2.4兆円前後で推移していましたが、コロナ禍の影響などで2021年3月期に2.2兆円まで減少。しかし当期純利益は1600億円と過去最高を更新し、コロナ禍や為替の影響を除く業績は中期経営計画を達成しています。
2022年3月期には売上高2.5兆円台・当期純利益2112億円、2023年3月期は同2.8兆円台・当期純利益2194億円に回復し、2024年3月期は2.9兆円台・当期純利益2250億円となる見込みです。
富士フイルムグループの祖業は写真用フィルムの製造販売ですが、1988年にメモリーカードへデジタル記録を行う世界初のデジタルカメラを発表するなど、早くからデジタル化に取り組んできました。
2014年にICT戦略推進プロジェクトを発足し、2016年にインフォマティクス研究所とICT戦略推進室を設置。2017年にCDO(最高デジタル責任者)とDO(部門デジタルオフィサー)を置き、2018年には深層学習用スーパーコンピューターを導入しています。
2021年からは「All-Fujifilm DX推進プログラム」を開始し、従来のボトムアップの取り組みから、グループ全体で最適化された「トップダウン型のDXの推進」へとスケールアップしています。
代表取締役社長CEOをDX推進プログラムディレクターとし、CEOを議長、CDOを副議長とする「DX戦略会議」を設置。全事業がビジョンや戦略マップを策定し、各事業のDX統括者が事業毎に設置するDX推進チームを主導し、戦略実行しています。
このほか、ICT戦略部に「DX推進プログラムオフィス」と「ITインフラチーム」を置き、ICT・経営企画・人事等コーポレート部門からの事業横断での支援や、社外専門家を交えた支援を導入して、事業のDXの加速を図っています。
「生産性の向上」と「社会課題の解決」を両立
富士フイルムグループでは、2017年8月に2030年度をゴールとするCSR計画「Sustainable Value Plan 2030(SVP2030)」を発表。売上高3兆5000億円以上、CO2排出削減45%(2013年度比)という高い目標を掲げています。
この実現に向けて、2021年4月に中期経営計画「VISION2023」を発表。基本的な考え方として「ヘルスケア・高機能材料の成長加速と、持続的な成長を可能とする更に強靭な事業基盤の構築」を掲げています。
これらを踏まえ、2021年7月に「All-Fujifilm DX推進プログラム」を始動。以下のような「DXビジョン」を掲げています。
わたしたちは、デジタルを活用することで、一人一人が飛躍的に生産性を高め、そこから生み出される優れた製品・サービスを通じて、イノベーティブなお客さま体験の創出と社会課題の解決に貢献し続けます。
DXビジョンを実現するため、製品・サービスDXとして「AI技術等を用いた高付加価値サービス提供」「ビジネス/収益モデル変革」を進め、業務DXとして「飛躍的な生産性向上によるクリエイティブ業務へのシフト」「働き方の抜本的な変革」を目指します。
また、人材DXとして、「多様なDX人材育成・獲得」や「データに基づいた人材配置の最適化」を図り、さらにこれらを支える基盤として「セキュアかつ柔軟・強靭なインフラ」を構築するとしています。
インフラ整備のロードマップによると、2023年度までにステージ3の「場所やデバイスに依らず柔軟でセキュアな基盤」、最終的には「グローバル標準であらゆる成約から解放された基盤」のステージ4のITインフラを構築していくとのことです。
医療機器事業とAIを結びつけ新しい顧客価値を創出
富士フイルムグループのDXは、2030年度までにより多くの製品・サービスが「持続可能な社会を支える基盤」として定着することを目標とし、以下のようなロードマップを想定しています。
- ステージⅠ「モノ(製品+消耗品)の継続販売」:自社が得意としてきた消耗品販売や保守サービスなどのリカーリング(従量課金)ビジネスモデルを、デジタル技術の活用によって強化。
- ステージⅡ「モノの利用を通じて顧客が得る価値を継続更新」:DXを通じた価値の継続的な最適化(as a Service)。デジタル技術の活用を通じて、機能価値にとどまらない「利用価値」を提供し、継続的に最適化。(例:複合機の故障を予知し遠隔で故障発生を未然に防ぐ/X線画像診断装置で撮影した画像を医療従事者が判断しやすいように自動的に加工など)
- ステージⅢ:「新たなエコシステム・経済システムの形成を通じた、持続可能な社会、社会課題解決の実現」:お客さまやパートナー企業と一体となって、製品・サービスやビジネスそのものを、持続可能な社会を支える基盤(環境、健康、生活、働き方)として定着。
ロードマップ実現に向けたDXの価値創出フレームワークには、経営の視点による「社員のエンパワーメント」「非効率を取り除く環境整備」「持続的イノベーション」に加え、戦略の視点から、以下のような課題が整理されています。
- お客さまの利用価値を継続的に最適化する「モノ+コト」売り
- デジタルツインによる飛躍的な生産性向上
- DX人材像の明確化・教育
- これらを支える「X-Informatic」の活用
「モノ+コト」売りについては、AIを活用した医療製品・サービス事例があげられています。これは、従来の医療機器事業の「モノ」と、国立がん研究センターと共同開発したAIプラットフォーム「REiLI(れいり)」を結びつけることで、新しい顧客価値を生み出すケースです。
「REiLI」とは、富士フイルムが培ってきた画像処理技術とAIを組み合わせることで、画像診断における医師の診断支援やワークフローの効率化を実現する技術です。富士フイルムは、1983年に世界初のデジタルX線画像システムを発表。2018年から技術ブランドを「REiLI」(怜悧に由来)としています。
モノ+コトで「従来の延長線上にない製品」の創出へ
ヘルスケア領域の医療機器事業では、従来はCTや超音波、MRI、XRなどの医療機器製品を販売してきました。これらと「REiLI」のAIやIoTの機能を連携させることで、既存事業に対しては「従来の延長線上にない製品の創出」や「ネットワークサービス」を提供することが可能になります。
この連携をさらに既存事業チャネルにつなげることで、「疾患別の新事業創出」の足がかりになったり、機器、AIおよびサービス事業のノウハウを総動員した「予防‐診断‐治療のパッケージサービス」を開発し、誰もが高品質な医療を低コストで受けられる未来の実現に貢献したりすることができるとのことです。
なお、疾患別の新事業については、すでに「医療クラウドサービス:SYNAPSE SAI Viewer画像解析クラウド」「クラウド型AI開発支援サービス:SYNAPSE Creative Space」、パッケージサービスは、インドに建設したAI技術を活用した検診センター「NURA(ニューラ)」として実現しています。