2016年の大河ドラマ「真田丸」が名作の予感! キャスト、脚本、音楽の魅力を徹底分析
本作「真田丸」では、堺雅人演じる戦国武将真田信繁(幸村)が主人公となっている。過去に信繁が主役となった大河ドラマは1985年の「真田太平記」があるが、この作品で主人公を演じた草刈正雄が、「真田丸」では信繁の父、真田昌幸を演じている時点で、ちょっとニヤリとしてしまう。
また、上杉景勝役が遠藤憲一、織田信長が吉田鋼太郎、徳川家康を内野聖陽、北条氏政に高嶋政伸、本田忠勝役としては藤岡弘、が登板しており、キャストが前年に比べてもかなり豪華になっているように感じた。
今回、脚本を担当するのは2004年の「新撰組!」以来二度目の起用となる三谷幸喜。コメディからシリアスなものまで手掛ける、まさに日本を代表する脚本家だが、「真田丸」でも初回から如何なくその力量が発揮されている。
真田昌幸が主君、武田勝頼(演:平岳大)に対して「浅間の山が火でも噴かぬ限り、武田のお家は安泰でございます!」と見得を切った次のカットで、浅間山が盛大に噴火。
それを呆然と眺める昌幸と、「火山だから……」と慰める信繁、というシーンに至るまでがやたらテンポが良く、思わず笑ってしまった(当時武田家にとって浅間山の噴火は凶兆だったため笑い事ではないんだけど)。
こういうことばかりやっていると、僕のような面倒くさい大河オタクは「せっかくの大河が腐ってしまう!」と憤るものだけど、まあその心配は早速打ち砕かれている。
仲間に次々と裏切られる戦国特有の「無常感」も描く
本作は、最終的に真田信繁が悲劇的な最期を遂げることが、歴史的にも既に規定路線となっている。そのため、初回から凋落間際の武田家はもちろん、これに仕える真田の一族の悲壮感もしっかり描写されている。
これまで武田家のために最前線で尽くしてきた親族衆の小山田信茂(演:温水洋一)や、重臣として名高い穴山梅雪(演:榎木孝明)の寝返り。信頼してきたこれら家臣だけでなく、兵士すらも次々に逃げ出していく状況を、もはやどうすることもできない勝頼。
初回終盤、真田家も真田家で、武田家の居城だった新府城を出て昌幸の待つ岩櫃城へ、僅かな手勢を率いて危険な逃避行に打って出る。この時代、野盗も多く、さらに織田に組する勢力がそこかしこに配備されている。まさに第1話のサブタイトル「船出」に相応しい、波乱の幕開け。否応なく次回に期待してしまうというものだ。
どんな作品も最初が肝心と言うけど、「真田丸」はコミカルなシーンも描きつつ、戦国の世の無常感を初回からしっかりと押し出し、視聴者にそれを伝えることに成功している。
三谷と言えば昨年公開のコメディ映画「ギャラクシー街道」の評価が散々だったようだけど、シリアスとコメディの対比が7:3ぐらいの「真田丸」なら、クドくない。
「独眼竜政宗」に並ぶ勇壮なメインテーマ曲が素晴らしい
近年の大河ドラマって、「花燃ゆ」しかり「軍師官兵衛」しかり、初回はあまり評価が高くなかった。一方で「真田丸」はこの辺、しっかりとここ数年のジレンマを払拭してくれたものだ。
細かな部分で「あ、ここはこういう感じなんだ」と残念に思うこともあったけど、全体を俯瞰してみれば個人的には100点に近い満足度を感じている。
そしてまた、本作はメインテーマ曲が良い!新番組予告の時点で耳にしていたんだけど、バイオリンのソロから始まって徐々に盛り上がっていき、遂には勇壮なメロディとなって視聴者に苛烈な戦国時代の趨勢を体感させてくれる。そして、最後はまた、バイオリンのソロで曲が終わる。この物悲しさがまさに真田家の行く末と見事にリンクしていて、思わず唸った。
作曲は服部隆之氏。これまで「王様のレストラン」や「ラヂオの時間」など、数々の三谷作品で手腕を発揮してきた人物だ。僕はもう一撃でこのメインテーマの虜になった。1987年の「独眼竜政宗」のメインテーマも良かったけど、もしかするとそれ以上に気に入ったかも知れない。
キャスト良し、題材良し、脚本良し、音楽良し。初回からこんなにもべた褒めしてしまうのもちょっと恥ずかしいんだけど、僕はもう今年は「真田丸」を観ると決めた。興味があるけど、まだ未見というそこの貴方! 是非土曜日の再放送でも、ソフト化されてからでも良いので観てもらいたい!
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