長年インターネットサービスを提供し、ゲームやライブストリーミング、野球を代表するスポーツなどのエンターテイメントな事業展開で広く知られる株式会社ディー・エヌ・エー(以下、DeNA)は「インターネットやAIを活用し永久ベンチャーとして世の中にデライトを届ける」のビジョンを掲げ、サービスやビジネスモデルの変革に尽力する。
創業以来デジタルネイティブのDeNAが培ったナレッジがふんだんに詰め込まれ開発された、企業の業務効率化を実現するクラウド型RPAツール「Coopel(クーペル)」。社会全体のDX推進の一助となるそのサービスについて、事業戦略統括部ロボットワークス事業推進室 室長の村上淳さんに話を聞いた。(文:千葉郁美)
DeNAの高度な技術は事業間を超えて発揮
――御社は長年インターネットサービスの開発・運営に取り組まれ、一般的にエンターテイメント性の高い事業のイメージがありますが、一方で社会課題解決型の事業にも大変尽力されているかと思います。
様々な取り組みの中で、クラウド型のRPA「Coopel(クーペル)」が2020年4月にサービスを開始し、現在では200社以上のユーザーに利用されているサービスとして成長されました。サービス開発に至ったのはどのような背景があったのでしょうか。
DeNAは創業以来インターネットサービスを中心にデジタル技術を活用してまいりまして、ネットワークやセキュリティ、AI技術などデジタルを自由自在に使えるというところが強みだと思っています。昨今、社会全体でデジタルの活用の重要性が叫ばれている中で、何か世の中の社会解決ができないか、新しいデライトを届けられないかと模索していました。
その中の一つとして生まれたのがクラウド型RPAサービスの「Coopel」です。プログラミング経験がなくても業務の自動化を実現する「ローコードツール」で誰にでも使いやすく、クラウド形であることや比較的安価な月額制のため企業に限らず個人事業主の方にも利用しやすいサービスを作りました。
――長年にわたりデジタル領域で活躍されてきた御社のノウハウやナレッジは、サービスの中でどのようなシナジーを生んでいるのでしょうか。
弊社の個々の事業自体はそれぞれで動いていますが、人材などを通じて 事業間に大きなシナジーがあります。「デライトを届ける」という意識を全社共通で持っており 、開発においてはインターネットサービスやAIの高度な技術を持つ人材が一つの事業部にとどまらずに幅広い領域に関わっています。
Coopelの開発にはおおよそ1年くらいを要しました。 創業以来培ってきたサービスの開発ノウハウ、アジャイルのノウハウを使っているため、初期開発期間を長くは取りません。一番価値のある部分をクイックに作って提供し、社会のニーズとのズレを修正していくといったアプローチをとっています。
また、会社の情報や業務などを扱うということでセキュリティの面も当然重要となりますが、弊社は長年インターネットサービスに関わってまいりましたので、セキュリティ体制や対策 も国内トップの信頼性を自負しています。最先端技術が活用されているサービスだという点においても安心していただける要素かと思っています。
こだわったのは「誰にでもかんたんに使える、楽しいRPA」
――御社のナレッジがたくさん詰まっている「Coopel」ですが、サービスの特徴を教えてください。
Coopelはより広く世の中に届けたい、あまり高度なスキルや専門性がなくてもロボットを使えるようにしたいという思いを持って開発されています。操作が簡単 であること、使って楽しいということが非常に大事だと考えて開発しました。
そうしたUI/UXなどにはやはり、モバイルゲームなどのエンターテイメントのノウハウが生かされています。
また、サービスが定額制なのも特徴です。クラウドサービスは使った分だけインフラコストがかかるため従量課金制が基本ですが、たくさん使えばそれだけ費用がかさむわけで、現場で思い切って使ってもらえないですよね。
ロボットをたくさん使って、どんどん自動化してほしい。そういう世界を作りたいという思いから、定額制にこだわって提供しています。
――企業のDXが進まない要因の一つとして、デジタル技術を導入しようにも社内に使える人がいないという問題を抱えている企業も多くあります。Coopelのように、ITリテラシーの低い人にも簡単に使えるツールは、企業のDX推進にありがたい存在ですね。
ユーザー様の声には、もちろんわからないところのご質問等もあるんですが、うまくロボットが動いた時に「動きました、楽しいです!」という声もカスタマーサポートセンターに届きます。ビジネス向けサービスで「楽しいです」「できました、やった!」という声が届くことって、なかなかないことですよね。
単純作業で面白みが少なく、でも省くわけにもいかない負荷の大きい業務をロボットがやってくれたときっていうのは、エンターテイメントに負けない感動があるんですね。
「できました」「ありがとうございます」といったユーザー様の生の声をいただけるのは、開発に携わるものとして大変励みになっています。
サービスは改修しながらより良いものへと日々進化をして、現在は200社以上に有料利用していただいています。ロボットの稼働数は月間18万回という、とてつもない数のロボットが働いています。これだけのパフォーマンスを維持できるのも、弊社のインフラ構築のノウハウや世界最大規模のトランザクションを処理できるサービスを運用できる技術力があってこそという自負もあります。
Coopelはおかげさまで本当に多くのユーザー様に利用していただけるようになりました。今後もユーザー様のご意見やご相談をヒントに、より使いやすいサービスを目指して機能改善を続けていきたいと考えています。
企業の抱える課題は共通している。RPAの普及で社会全体の改善を目指したい
――Coopelがさらにより良いサービスへと進化していく、その期待感が高まります。今後はどのように展開していこうとお考えでしょうか。
昨今、クラウドツールが世の中に浸透してきつつあります。一昔前であれば「会社の大事な情報を外に置いておくなんて、大丈夫だろうか」と考える人も多かったと思いますが、この10年ほどで大きく変わってきたと感じています。
そもそもクラウドツールの特徴は、インターネット上にあるということよりも「どの会社も同じツールをそのまま使っている」というところがポイントにあると私は思っています。
要するに、企業が効率化を図りたい繰り返しの作業や単純作業というのは、一つの企業だけではなく多くの企業で似たようなことをやっているんですね。
本来、こうした作業は、いち企業の中だけの改善ではなく、社会全体で改善を目指すことができる。ロボットを使う企業が限定されることなく広がっていく、そうした時代が来るのではないかと考えています。
ビジネス向けにおいても、そうしたコミュニティやシェアリングといった形で、助け合って効率化を進めていく。そんな世界観を作っていくことができるのではないかと考えています。