まるでマクロス「板野サーカス」? 地方企業のアニメCMでミサイル乱舞 | キャリコネニュース
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まるでマクロス「板野サーカス」? 地方企業のアニメCMでミサイル乱舞

CMキャプチャ

公式YouTubeチャンネルより

想像を絶するアニメシーンの作り込みようで話題を呼んだとある地方企業のCM。ネット上では「マジでヤバイ」「新番組が始まったと思ったらCMだった」「クオリティ高すぎて笑う」といった賛辞が寄せられている。【CMの動画は関連記事から】

そのクオリティはぜひ実際に見て確かめていただきたいのだが、このCM、新潟県三条市にある株式会社共栄鍛工所のもの。金属を叩いて強度を高める「鍛造」が強みのメーカーで、搬送部品や自動車部品、大型農業機械部品などをメインに手掛けている。

人々を驚愕させる高クオリティのアニメCMは、なぜ生まれたのか? 共栄鍛工所の齊藤栄太郞社長を直撃してみた。【取材・文:箕輪 健伸】

売れっ子アニメーターに監督依頼

齊藤社長によると、CMの主目的は「優秀な人材を採用すること」だという。そのためにこだわったのが、アニメーションのクオリティの高さだ。

長年のアニメファンだという齊藤社長。脚本や構成は自ら考え、演出を「監督とああじゃない、こうじゃないとやり合いました」と話す。この「監督」というのが、菅野芳弘氏。大ヒットアニメ『HUNTER×HUNTER』のアクションシーン作画で注目を集め、近年では『ソードアートオンライン』シリーズでアクション作画監督を務めた売れっ子だ。

社長のマニアックな情熱を一流のプロが実現してしまう、という胸アツすぎる展開なのだが、実現のキーワードとなったのが「板野サーカス」という言葉である。

これは伝説的なアニメ「マクロス」でアニメーター板野一郎氏がおこなった演出手法。今回のCMでも取り入れられているが、迫力の戦闘シーンが描ける半面、途轍もない手間がかかるのが特徴だ。

「監督からは『社長、板野サーカスやらせてくれるなら引き受けるよ』と言われました。聞かされた当初は、『板野サーカスをやっちゃうの?手書きで。できるの?』と思いましたが、見事にやってくれました」(齊藤社長)

CMキャプチャ

敵戦闘機から無数のミサイルが放たれる

アニメCMの制作費は「1本で高級国産車が買えるほど」だというが、それぐらいの手間と時間をかけて完成度したCMは、新潟県民の心もガッチリ掴んだようだ。

「三条市内では知らない人はいないと言えるほど知名度は高まりましたね。名刺を出すと”えっ、もしかしてあのアニメCMの共栄さんですか?”と言われることが増えました。この間、小学2~3年生の子どもたちが、うちのCMの主題歌を歌っている場面にたまたま出くわしたのですが、この時は本当に嬉しかったですね」(齊藤社長)。

採用激化の背景は?

キャプチャ画像3

華麗にミサイルをかわしていく

こうしたCMを作った背景には、特に製造業で深刻化する人手不足がある。人手不足は全国的なものだが、同社の場合、さらに人材獲得を難しくさせる地域要因がある。

同社のある新潟県三条市は、隣の燕市と合わせて「燕三条地域」と呼ばれている。三条市と燕市はいずれも「ものづくりの街」として知られており、全国的な有力企業がいくつもある。

たとえば、アウトドア用品の総合メーカー「スノーピーク」、石油ファンヒーターをはじめとした総合住宅設備メーカーの「コロナ」。いずれも東証一部上場企業で、共栄炭鉱所と同じ三条市に本社を置く。さらに、隣の燕市にも、「北越工業」や「ツインバード工業」といった東証一部上場の製造業がある。人口20万人にも満たない燕三条地域にこれだけの有力企業があり、各社で優秀な人材を取り合っている状況なのだ。

このような環境の中、共栄鍛工所の齊藤栄太郞社長は、「人材獲得、とくに優秀な高校生を獲得するのに非常に苦労しています」と話す。

「うちは技術がウリの会社で、その技術をできるだけ早く習得できるように、高卒人材の獲得に力を入れています。ただ、うちの商品はエンドユーザー向けの製品を作っていないため、業界内での知名度のわりに、一般的な知名度が低いです。優秀な高校生を採用しようと思っても、知名度の問題でなかなか難しいんですね。たとえば、市内の大手有名企業とうちの両方の採用試験を受けている人がいて、どちらも内定が出た場合、知名度の高いほうに行ってしまう。こういうことが過去に何回もありました。親御さんにしても、名前が知られている上場企業の方が安心でしょうしね」

一般的な知名度を上げないと、このままでは立ちいかなくなる。そうした危機感を持った齊藤社長がたどり着いたのが、自身も長年ファンとして親しんできたアニメーションを活用したテレビCMだった。地方企業のCMに多い、いわゆる一般的な企業CMは、最初から頭になかったという。

「工員さんたちが工場で働いているようなCMを作っても誰も見てもらえませんし、興味も持ってもらえませんよね。それが、戦闘機が出現して宇宙人と戦ってというアニメCMだったら、子どもたちは目を向けてくれます。それで最後に会社名を打って出せば、徐々に知名度が上がっていくのではと考えたわけです」

手のこんだアニメCMシリーズを、同社はすでに3本制作している。対外的な評価もすでに受けており、アニメなどを活用した、優れた企業コラボレーションや広告プロモーションを表彰する「アニものづくりアワード」で、シルバー賞を受賞している。CMは地元テレビで流すほか、同社のサイト、公式YouTubeチャンネルで公開されている。

2019年末に公開された「共栄鍛工所CM イメージソング アイアン・シャウト 45秒フルバージョン」は、YouTubeでも45万回以上視聴されている。ものづくりにかける地方企業の情熱は、細部までこだわって作り込まれたアニメCMによって、全国にいる未来の技術者たちにしっかりと伝わっていきそうだ。

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