そんなガチ中華だが、いわゆる日本の「町中華」のつもりで訪れてしまうと、明らかに「違う雰囲気」に圧倒される。
そもそも店に入った途端、聞こえてくるのは中国語。メニューも中国語で、パット見わからないものばかり。「カイコの串焼き」やザリガニ料理など、知らない人ならギョッとする料理も当たり前。一部の店では犬肉の料理もメニューにあった。
メインの「お客さま」は中国人であって、日本人ではないのだから当然だ。逆に料理の味付けが現地そのままで、日本にいながら中国旅行気分を楽しめるのはよい。日本語もだいたい通じることが多い。
そんなことで、「行く相手を選ぶ」店。そもそもガチ中華の集まる池袋北口なんて、その典型例。再開発の進む池袋にあって昭和的なヤバさが残るエリアである。サイゼとは全く別の意味で、初めてのデートに行く店ではない……はずだった。
ジャニオタでいっぱいの店も
急に過去形にしたのは、そんなマニアックだった場所が急に、日本人にも身近な場所になってきたからだ。
筆者がいちばん「変わった」と感じたのは2019年11月、池袋駅北口前の雑居ビル4階にフードコート「友誼食府(ゆうぎしょくふ)」が登場したタイミングだ。もともと、このフロアには中国の物産を扱うスーパー「友誼商店」と火鍋屋が入っていたのだが、火鍋が閉店した後にフードコートになった。
当初は、中国人客ばかりだったのだが、SNSを通じて情報が拡散。フードコートだという気軽さもあってか、気がつけば訪れる日本人の姿も増え、しかもカップルで来ている日本人も目立つようになった。
これがあたったのか、2021年6月には、書店が入っていた同じビルの2階では書店のスペースを圧縮して第二のフードコート「食府書苑(しょくふしょえん)」が開店。さらに9月には「沸騰小吃城(ふっとうシャオチーチェン)」ができた。池袋北口の狭いエリアにフードコートだけで3店舗もあるというガチ中華エリアが生まれたのである。
「沸騰小吃城」に至っては開店当初から、日本人の姿も当たり前に。ガチ中華は池袋周辺だけでなく、高田馬場などあちこちに増殖し、都内や埼玉県の西川口まで含めるとかなりの地域の料理が楽しめるようになっている。
それでもまだ日本には「未上陸」の料理もある。さすが中国、奥が深すぎる。
ちかごろは「ガチ中華」なのに「日本人女子だらけ」の店もある。
たとえば、池袋ロサ会館の近くにある「熊猫火鍋」。筆者の初訪問は2020年の初頭。中国版食べログ「大衆点評」で見つけて訪れたのだが、高得点も納得、店員は親切で料理も最高。着ぐるみのパンダが座席に来てくれる謎なサービスもあった。
ただ、味はほんとに「ガチ中華」そこに女子ばかり集まる理由は……。
きっかけは、昨年11月にアイドルグループ「なにわ男子」のメンバー・西畑大吾がテレビ番組の取材で訪問したこと。以来、女子が集まる「ジャニオタの聖地」として、店がますます繁盛するようになっている。
店の場所は、キャバクラなども入っている雑居ビルの7階。知らなければなかなか近寄りがたいイメージなのだが、推しと同じ空気を味わいたいというファンの愛は、緊張感のある街の雰囲気も凌駕するというのか……。
ここまで読んで、ガチ中華に行きたくなったあなたに、ひとつだけアドバイスを。辛い料理を注文する時は控えめに。「現地と同じ味」を楽しめる人でも「現地と同じ辛さ」はマジで死ぬから。