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「都会風を吹かすな」とも言いたくなるトンデモ移住者の話

画像はイメージ

「都会風を吹かさないように心がけて」

福井県池田町の広報誌に掲載された、こんなフレーズが注目を集めた。これは「池田暮らしの七か条」の一つで、「都会からの移住者向け」のメッセージだという。田舎と都会のギャップというと、「田舎ならではの古くさい慣習が問題」みたいなイメージもあるが、中には移住者のほうがビミョーなケースもある。中国地方の小さな自治体の役所に勤める男性が遭遇したのは、そんな身勝手極まりない、トンデモ移住者のひとりだった。(取材・文:昼間たかし)

口は出すが、カネは出さない

のどかな町でも、トラブルが起きることはある。これは役場職員の男性が3年ほど前、住民トラブルの仲裁に駆り出されたときの話。

「うちは田舎ですが、鉄道駅もあり近くに高速道路も走っています。県庁所在地までも1時間程度。それなりに開けている地域なので、これまでも都会から移住してくる人はいましたが、大問題は起きていませんでした」(職員男性)

そんな田舎町で、トラブルを引き起こしたのは、東京から妻を連れて「移住」してきた、50代男性だった。

「もともとは町の出身でしたが、大学進学で上京。その後、大手企業を早期退職して、Uターンしてきたそうです」

すでに実家はなかった。しかし、親戚もいる故郷に家を建て、移住者男性は第二の人生をスタートした。ところが、この男性、とにかく周囲とトラブルになるのだという。

「田舎ですから、毎月の清掃ですとか祭り関連など、地域行事がとても多い。しかし、移住者男性はそうした行事にいっさい参加しようとしなかったんです」

行事には非協力的。しかし、かつては「集落をあげて」だった行事も、今は「有志」でやるもの。「参加しないだけ」だと、みんなそこまで怒らない。

問題は、移住者男性が、地域で決めたルールに従わないだけではなく、「ルールのほうがおかしいのだ」と強く主張してきたことのようだ。

「道路や用水路の清掃を住民が行うのは『強制労働』だと、役所だとか自治会の役員のところに何度も怒鳴り込んできたんです。そして最後には必ず『現代ではこんなことは許されない』と。一度も参加を強制したことはないんですけど」

自分も使う道路のメンテナンスを「強制労働」と呼ぶセンスだと、予算不足にあえぐ地方自治体では暮らしていけないだろう。

さらに移住者男性は、公民館の費用負担にもクレームを入れてきたという。

「地域の公民館は地域の施設で、町の管理ではありません。ですので、建設や維持費は集落の各戸で分担するようになっています。老朽化しているところでは、将来の建て替えのための積み立てが必要なので、町内会費のような形で年に数万円ずつ負担することになっているんです。しかし、それが許せなかったようで『絶対に払わない』と宣言していました」

自治会では「払いたくないなら仕方ない」と諦めていたが、この移住者男性は、ほかの住人たちにも「払うな」と呼びかけたとか。地域独自のルールの中には時代に合わないものもあるかもしれないが、コミュニティ活動に使う公民館の費用負担はそんなに常識外とも思えない。

さて、そんなこんなで、本件は無事に「ご近所トラブル」として役場にも認識され、職員である男性の出番となったそうだ。しかし、移住者男性に話を聞いてみると、移住者男性は「自分が被害者」と主張してやまないという。

「たとえば、近くの神社が集落ごとに係を決めて神事をやっているのですが、これにも『迷信だ』とか『お金を取られる』といっていました。出身者であれば子供の頃は自分も参加していたはずなんですけど」

もしかしたら信仰が違うのかもしれないが、それならそれで、キチンと説明すればわかってくれそうなもの。かといって、単純に参加したくないし、カネも払いたくないというわけでもないらしい。

「そもそもUターンした理由を、本人は<早期退職した>と話しているのですが、肩たたきにあったんじゃないかという話をする人もいます。とにかくなんでもいいから理由をつけて文句をいいたいんじゃないのでしょうか」

そういう態度だと、周囲の空気感も冷淡になるのはしかたない。それは、本人にも伝わっていたようで、移住者男性は「ネットで村八分の記事を見つけては、自分も村八分にされるのではと不信感を募らせていた」そうだ。

ただ、道路や用水路、公民館などのメンテナンスにも非協力的で、「カネ」は出さないが口は出すとなると、敬遠されるのは当然だろう。実際、集落でこの移住者の男性に近づく人はまったくいなくなり、現在に至っているという。

「今では、回覧板さえ受けとろうとせず、もはやセルフ村八分状態です。近所の人もなにかしたら怒鳴り込まれるのではないかとビクビクしていますよ」

ちなみに、もともと東京生まれ、東京育ちの「移住者妻」は、「いつも、暗い顔で『すみません』と集落の人に謝って、回覧板なんかもこっそり受けとっているそうです」とのこと。せっかく移住してきたのに、こんなことに付き合わされて、家族もかわいそうだ。

この移住者男性は、長年の都会暮らしや大手企業への所属経験で、変なプライドをこじらせてしまったのだろうか。

ただ、東京で大成功していれば、50代で地方に帰ってきて、公民館の修繕費積立に文句を言うようなことにはならないだろう。結局は、早期退職という名のリストラで職を失い、田舎でなら安く暮らせるかもと期待して移住してきたが、意外とカネがかかるので必死に資産を守っている、余裕のない人というのが正解なのかもしれない。

カネがなくても、身体が動くなら作業をするとか、地域ぐらしを豊かにするアイデアを出すとか、周囲とうまくやっていく方法は、他に色々あるけどね。

まあ、田舎ぐらしは、天国じゃないってことで。

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