米シアトル「最低賃金引き上げ」の光と影 時給アップが「収入増」にならない労働者も
アメリカでは各地で賃上げ要求のデモが多発しており、法律で最低賃金を引き上げる自治体も出てきた。9月24日放送の「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)は、一気に時給アップする飲食店がある一方、収入アップにつながらない厳しい状況もリポートした。
シアトルの教会前には、生活に困っている人たちが長い列を作っている。寄付された食料や紙おむつなどを受け取るためだ。米連邦政府が定める最低時給は7ドル25セント(約900円)。これでは生活が成り立たない人が大勢いるため、「フードバンク」という団体が市内32か所で活動しているのだ。
料理を値上げし「原資」を捻出した人気店
フードバンクには幼い子どものいる家族およそ150組も通っており、夫が失業中のある家族は、妻が歯科助手として週5日、1日8~9時間働いて家計を支えている。毎日働いていても、息子ために列に並ばなくてはならない。
格差を解消しようと賃上げデモが頻発する中、シアトルでは2021年までに7年かけて段階的に時給15ドル(約1800円)に引き上げる法律を定めた。
法律成立をきっかけに、先行して時給アップした飲食店がある。西海岸で人気のレストランで、全スタッフの時給を最低賃金の2倍にあたる15ドルに引き上げたのだ。
ただし時給引き上げの原資を作るため、ウェイターへのチップを廃止し、料理の値段を平均21%値上げ。あわせてレストランの大改装も行った。ポブ・ドネガン社長は決断の理由をこう語る。
「料理を値上げしてもライバル店と同じか、それより安かったのです。市場の変化に合わせて革新的であり続けられないなら退出するしかない」
値上げ後も4割の客はチップを置いていくし、ウェイターに比べて収入が少なかった厨房スタッフも大幅に収入アップ。夏の観光シーズンに向けた臨時募集では、170人の枠に500人もの応募があったという。
売り上げに応じて労働時間を調整するスーパー
一方、こうした動きはあくまで「勝ち組企業のレアケースでは」と感じる状況もある。シアトル市内の大手スーパーでパートとして働く男性(55歳)は、賃上げは収入増加につながらなかったと嘆く。
4月から時給が11ドルにアップしたものの、店側が売り上げに応じてパートの労働時間を調整するようになったのだ。働く時間が減れば、時給が上がっても収入は変わらない。
男性は、市街地の清掃など他に2つの仕事を掛け持ちしながら、暮らしをやりくりする日々を続けている。ワシントン・ポリシーセンターのポール・グラッピー氏は、賃上げが引き金となって単純労働が自動化され、将来多くの雇用が失われる可能性を指摘した。
「一度機械に取って代わられた雇用は、永遠に失われるのです」
格差や貧困の解消を目指して行われた賃上げ要求が、かえって労働者の仕事を奪う可能性があるとは、世知辛いにもほどがある。企業の社会的責任、という言葉の意味を改めて考え込んでしまった。
とはいえ環境の変化に対応しなければ、企業や店舗は潰れて雇用も消失してしまう。「市場の変化」にあわせて自らの働き方やスキルを変える労働者しか、雇用にありつけなくなるのかもしれない。
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