「政府の方針が分からない」専門家も困惑の「放送法4条撤廃」問題 「電波法や免許制度も合わせて検討すべき」
岩崎さんがこう言うのには理由がある。政府が海外向けと国内向けで、放送法4条に対して異なった方針を示しているためだ。
放送法4条1項では、放送局が番組を編集する際、政治的公平性や中立性に留意するよう求めている。放送局がこれに違反したと総務大臣が判断した場合、電波法76条によって放送免許を停止出来る。
つまり、放送法4条は、国が放送局に行政処分を下す場合の根拠になる法律と言える。このため国連人権理事会は昨年11月、「報道の自由が損なわれる恐れがある」として4条の撤廃を求めていた。これに対して日本は今年3月上旬、国連に、撤廃勧告を受け入れないと意思表明している。
しかし15日の改革推進会議では一転、撤廃の方針が持ち上がり、現在はその方向で話し合いが進んでいるという。
「国外向けと国内向けで言っていることが全然違ったり、これまで総務省で議論してきた放送の話が、内閣府の規制改革推進会議で議論されたり、国が今までやってきた政策と違う文脈で放送法撤廃の話が出ていると感じます」
安倍首相と野田聖子総務大臣で撤廃に対するスタンスも異なっている。このため、「まず、政府が4条の扱いをどう考えているか、明らかにするところから必要だ」というのが岩崎さんの見解だ。
政府が放送免許の停止権限を持つ限り、4条撤廃しても自由な放送は行われない可能性
実際に撤廃されれば、「放送法始まって以来の大改革」になるにも関わらず、「現状では議論が尽くされているとは思えない。放送法4条に付随して、電波法や免許制度についても検討する必要がある」とも指摘する。
「例えば米国では、放送通信の規制監督は連邦通信委員会(FCC)という独立した機関で行います。5人の委員のうち2人は民主党、2人は共和党、1人は大統領の推薦で選出されるため、政府の意向が多少影響しますが、それでも、大統領が直接関わる権限はありません」
一方、日本は政府が免許停止の権限を持っている。このため、仮に放送法4条が撤廃されても、自由闊達な放送環境にはなりにくいのではないのではないかという懸念が残る。
「内閣が『こいつの免許を止めろ』と言ったら止められる仕組みです。ここを改める、または、少なくともワンクッション置くことが必要なのに、その議論がされないまま4条を撤廃しても、ガラパゴス状態になると思います」
一般の視聴者にとっても、
「放送には、自身や津波、大雪のような災害時には、CMを飛ばして儲け度外視の情報提供をする一面もある。新規参入してきた人たちが、こういった覚悟を持って入ってくるとは考えにくい。政治的なことについても、公平性の規制をなくして本当に安心して見られる番組になるのかどうか疑問です」
と、デメリットの大きさを懸念していた。規制改革推進会議は今後も放送法4条の扱いを議論し、6月にも答申を決定する予定だ。