身元不明の自殺「縁切り死」、クロ現の特集に反響 「いなくなっても誰も困らないから、せめて消える時はひっそり消えたい」
番組は、遺体の身元を特定する警視庁の専門チームに密着。身元不明遺体は増え続け、全国でおよそ2万体に上るという。9月に設けられた臨時の身元不明相談所では、遺体の似顔絵や着衣・所持品の写真などをパネル展示し、身元の特定につなげようとしている。
こうした取り組みは60年続けられているが、最近特に増えているのが、身元につながるものを一切持たずに自殺する人たちだ。今年2月には、住宅街を流れる川で自殺とみられる中年女性の遺体が見つかったが、所持品はハンカチだけ。都内のある団地では、高齢の女性が飛び降り自殺。遺書はなくどこの誰とも分からなかった。
北関東で行方不明届が出されていた70歳の女性は、いなくなったその日に都内で電車に飛び込んだ。30年連れ添った男性と買い物にでかけた際、「トイレに行く」と財布を預けてそのまま戻らなかった。亡くなる1週間前には紅葉を見にドライブに出かけ、変わった様子はなかったという。
自宅には、「さがさなくていい お金がかかるから」という書き出しのメモが残されていた。自殺の理由は一切書かれていない。「何も言わないで、ぽっといなくなって、さみしかったですよ。もっと何か言ってくれればね」としんみり語る男性。なぜ打ち明けてくれなかったのか、答えのない問いに苦しみ続けている。
縁切り死を選ぶ人は、親しい人や家族に何も告げず突然姿を消すケースが多い。自殺に関する調査を続けてきたNPOの代表・清水康之さんは、周囲の負担を考えるからこそ迷惑をかけたくない思いで「縁切り死」を選ぶのではないかと推測している。自殺と知られれば過度な負担をかけかねないため、「知られずにそっと姿を消す」ことを考えた可能性があるという。
「気持ちが分かってしまう」という書き込みもあったが……
一方で、2年半も身元が不明のままという若い男性の事例も紹介されていた。家族や周囲との関係が薄かったと推測される。
精神科医の香山リカさんは番組で、縁切り死は「自分の存在価値を見出しにくい社会」の断面が映しだされているのではないかと指摘した。
「自分は無価値な人間だとか、迷惑をかけているだとか、いなくなっても誰も困らないから、せめて消える時はひっそり消えたい」
「自分はそんなに大したことない、死んでみんなに惜しまれるような人間じゃないと思った場合は、じゃあ別に消えたところで、今日だってたくさんの人が消えたって世の中普通に動いているじゃないって(思って)、だとしたらそれで良いんじゃないかなと思ってしまうことがある」
と、縁切り死を選ぶ人の心の内を推測している。
ツイッターには、「気持ちが分かってしまう」「とても良くわかる」など、共感を寄せる人が相次いだ。自らそれを選びたくはないが、自分も先々そうするのではという不安がつぶやかれており、危うさが垣間見える。
しかし、人がひとり姿を消すということは、誰にも手間や迷惑をかけずに済むわけではない。警視庁の身元不明捜索チームは、損傷の激しい遺体の写真から細密な似顔絵を作成している。長い時間をかけて全国の行方不明者と照合し、似ている人を探し出すと、確認のため遠く九州までも出向いていた。
仕事とはいえ地道で気が遠くなる作業だ。しかも、帰りを待っていた遺族に非常に残念な知らせをしなくてはいけない。自分が考える以上に、自分の存在はこの世にとって大切なものだと気づいてほしい。