日立製作所は5月26日、新型コロナウイルスがもたらした新常態(ニューノーマル)を見据え、在宅勤務を標準とした働き方を推進することを発表した。富士通や大手インターネット広告代理店、オプトホールディングも同日までに在宅勤務の継続を決定。同様の動きは今後ますます広がっていく可能性がある。
ITジャーナリストの井上トシユキ氏は、在宅勤務を前提とした新たな働き方を「今までは”毎朝8時に一斉に出社しなきゃいけない”という価値観が大きかったが、その必要はないことが分かった。在宅化は良い動きだと思う」と好意的に捉える。一方、在宅勤務が国内企業に広く普及するにはまだ多くの課題が残る、とも指摘している。
PC、ネット回線代は「誰が負担?」 企業担当者からは迷いの声
井上氏の周囲では各企業担当者から「どの職種だと在宅勤務が上手くいくのか」「出社の頻度は週一か月一か」といった声が出ているという。さらには、
「『仕事に使うPCやネット回線は会社がどの程度負担するのか』といった声もあります」
と話す。IT企業などでは、会社がPCを貸与しているケースもあるが、セキュリティーの観点から持ち出しを禁止する企業も多い。さらに、デザインなどの担当者には高スペックのPCが必要になることも見込まれ、その負担額は大きくなる。
今回の外出自粛中も、在宅でPCの故障やネット回線の不具合が生じたケースが多くあった。「個人契約のネット回線代を会社が一部補助するのか」「個人、会社で2つのネット回線を持たせるのか」といった細かい点に頭を抱える担当者が多いという。
さらに、実際の業務でもアイデア出しなどのブレインストーミングに課題が残る。ZOOMなどのビデオ会議では、どうしてもクロストークが難しく、順番に指名して発言させる形式になりがちだ。このことから
「会議室に集まってみんなでやった方がストレスはなかった」
といった声も出てきているという。
テレワークがかえって非効率になるケースもある?
また、取引先とのやり取りにおいても、情報格差を意味するデジタル・デバイドならぬ”在宅デバイド”が発生する可能性がある、と懸念する。井上氏は、営業職のプレゼンテーションを例に出して、
「こちら側はテレワークできても、受け手はどこでプレゼンを見るのかという問題が発生する。結局、こちら側もテレワークができなくなり、職場による格差が生まれてしまう」
と説明する。さらに、機械や布地を売り込む営業職ならば、受け手は「実物を触ってみないと分からない」と思うはずだ。こうした課題から、営業側も受け手側も、現実的にはどこかに集まる方が早くなってしまい、「テレワークがかえって非効率になるケースもある」とした。
また、複数社間の契約に伴う印鑑もやはり問題になる。シャチハタの電子印鑑や、電子契約大手のクラウドサインなどが段階的に普及しているものの、導入済の企業とそうでない企業は必ず生じる。
こうした格差をなくすためには、国内企業での導入を一斉に進めるほかない。井上氏は「まずはトライアンドエラーの精神で、試しにやってみて精査することが必要」とする一方、
「新型コロナで売り上げが下がった影響で、新システムの導入は難しい企業が多いのも現状でしょう」
と眉をひそめる。何より重要なのは「電子化の方向性を持ち、各企業が共通認識を持つこと」だという。
今後については「在宅勤務は働き方の選択肢の一つとして、ある程度は根付いていくでしょう」と見通しを語る。一方、極端な”完全在宅勤務”にはやや否定的だ。
「仕事量は毎日同じではありません。仕事の波に合わせて、時差出勤やフレックスタイム制度などとテレワークを組み合わせることで、より普及すると思います」
仕事内容や働く側の都合といったシチューションに合わせて、多様な働き方をより一層使い分けられるようになることを願うばかりだ。