褒めまくってやる気引き出す「ビリギャル」坪田先生 「なんで怒って萎縮させてんの? バカじゃないの?」
勉強も仕事も、要は「やる気」である。そんな根本的なことを改めて思い起こさせてくれたのは、3月14日の「人生が変わる1分間の深イイ話」(日本テレビ系)に出演した坪田塾の塾長・坪田信貴先生だ。
坪田先生といえば、映画化され話題となった「ビリギャル」の生みの親。学年ビリの女子生徒を並々ならぬ熱意で育て上げ、慶應大学に現役合格させたことで一躍有名になった通称「ビリギャル先生」である。(文:みゆくらけん)
映画の影響で塾生の15%を「学年ビリ経験者」が占める
坪田塾には「第二のビリギャル」を目指す生徒がいまも多く通い、坪田先生を筆頭に熱意ある講師が日々生徒たちと受験に向けて戦っている。
映画の影響からか、「学年ビリ経験者」が全体の15%を占めるという坪田塾。そのような生徒たちでも、坪田先生の手にかかれば着実に学力が伸びてゆく。そこには坪田先生独自の、あるテクニックがあった。
そのテクニックとは「ひたすら褒めまくる」というものだ。坪田先生はどんな生徒をも、とにかく「褒める」。褒めて褒めて、もう褒めまくりなのである。たとえば質問に対し、答えが出てこない生徒に対しては、
「でもね、ちゃんとじっくり考えようとするよね。反射的に適当なことを言わないっていうのが、すごい素晴らしい」
と褒める。また、取りかかる教科の順番について、苦手な英語から始めることを選んだ生徒に対してもこう褒め上げた。
「大変な方からやるのは素晴らしいね。その選択をしている時点で、人生に成功したみたいなもの」
さらにさらに、どうひいき目に見たって明らかに「やる気のない」、親から無理矢理連れて来られた感モロ出しの生徒にも、坪田先生は「褒め」の姿勢を崩さない。
見るからにやる気のない子にも「素晴らしいですよ」
それは、新しく入塾を希望する生徒とその親との面談での一幕だった――。「僕をテレビで見たことはありますか?」と聞く坪田先生に、生徒のK君(12歳)は「ない」と即答。その後に続く「本を読んだりは?」「映画を見たことは?」の質問も、先生が最後まで言い終わらぬうちに即座に「ない」。
何を聞いても「ない、ない、ない!」と子どもに斬り落とされ、これが常人なら思わず目眩がして心が折れそうになってしまうところであるが、坪田先生は違った。
「あぁいいですねー! フラットな感じが、とてもいいです」
マジか先生……。こうして「やる気のなさ」確認をされた後、入塾したK君。「書けなかった漢字を数える」という作業中にも集中力は感じられず、「面倒くさいなァ。帰ってゲームがしたいなァ」感が全面に出ている。もう、臭ってきそうな心の声だ。なのに坪田先生は、そこでも褒める。
「(数を数えるという)単純作業って、辛いんですよね人間って。その中でちょっと違うところを見てみたり、俺を見てみたり、無意識のうちに何かしら工夫しているのがすごい面白い。素晴らしいですよ」
「相手の力を発揮させる環境を作るのが、上司の仕事」
こんなこと言われちゃうと、不機嫌だったK君は、もうなんだか困ったようにデレっと照れてしまう。坪田先生は言う。
「基本、怒らないです。怒ったって意味ないですもん。相手がパフォーマンスを最大限発揮させる環境を作るのが、上司だったりの仕事に決まっているじゃないですか。なんで(怒って)萎縮させてんの? バカじゃないの? って話」
そう、どんな些細なことでも見落とさずに、たとえ無理矢理にでも褒める。そうすることで生徒をやる気にさせ、パフォーマンスを向上させるのが坪田流の教育メソッドなのだ。
坪田先生にすっかりやる気を引き出されたK君は、このあと頑張り、学力を大幅にアップさせた。K君いわく「坪田塾は、時間があっという間に過ぎる」。
時間があっという間に過ぎるというのは、間違いなく最高の環境だ。好きなことや夢中になっている時、人は時間を忘れる。時間の感覚がなくなるぐらいに集中できていなければ、この表現はでない。
褒めることでやる気を引き出させた結果、集中力が高まって学力が向上する。心理学を取り入れた坪田先生独自の教育法だ。
「やればできる」という言葉を使わない理由
ちなみに、坪田塾では、生徒に接するときに決して使わない言葉があるという。それは「やればできる」という言葉だ。
「『やればできる』という言葉は、子どもを無気力にしてしまう。『やればできる』っていうのは、できるんだったらやりましょうってこと。正しくは『やれば伸びる』。 できるかどうかではなく、成長するかどうか!」
実は、「ビリギャル」の話には賛否両論の意見がある。否定派の意見の主な声は、「ビリギャルは実はお嬢様学校に通っている生徒で、一時的に偏差値が落ちていたのをとり戻しただけのハナシ」といったもので、ビリギャル自体が坪田塾のプロモーションだったのではないかとする見方だ。
しかし、事実はどうあれ、坪田先生が引き出した「やる気」によってしか、あのドラマは生まれなかっただろう。人は、やる気になることが大事だ。「やる気になれば、不可能はないのかもしれない、自分も頑張れるかもしれない」。多くの人にそう感じさせ、夢を与えたのは事実といえるのではないだろうか。
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