最近の新入社員が電話を敬遠する理由としてよく言われてきたのが、携帯電話やスマホの普及だ。普段はLINEがメインの連絡ツールになっており、通話でのコミュニケーションに慣れていない。さらに最近は家の固定電話にかけてくる人も減っており、「知らない人」から来た電話を取り次ぐ機会も減っている、というのだ。
しかし、ITジャーナリストの井上トシユキ氏は、こうした若者の”電話離れ”について「街中で歩きながらLINEで通話している人は多いですよね」と話す。無料通話アプリやウェブ会議サービスなどが普及し、若者の間でも電話の価値が見直されているという。
「スマホが普及してSNSが流行すると電話離れが進んだのは事実です。でも、最近は『結局、電話の方が感情は伝わりやすいよね』と見直されてきています」
井上氏によると、若者の”電話離れ”はポケベルの登場と当時に言われ始めたという。「1990年半ばにPHS、携帯電話が登場し、固定電話が使われなくなりました。その後は、メールが普及し、テキストによるコミュニケーションが主流になります」
こうした流れから、20年近くにわたり電話離れが進んでいたものの、昨今は原点回帰が進んでいる。では、それでもなぜ新入社員は電話対応に抵抗を抱くのだろうか。
「30年前でも電話を頑なに嫌がっていた同期がいました」
井上氏が自身の新人時代を振り返っても、やはり電話に苦手意識を持つ同僚がいたという。
「30年前でも、電話を頑なに嫌がっていた同期の女の子がいました。知らない人との電話は、心理障壁が高いので喋りにくいですよね。特に、会社の電話は『失礼のないように』『失敗のないように』と考えてしまうので、コミュニケーションの障壁が高いです」
新入社員というと、社内の先輩はおろか、同期とすら打ち解けていないタイミングだろう。まだ社会人としてのコミュニケーションに慣れていない段階で「ちゃんと応対しなさい」と言われても”無理がある”とする。
「今までは学生の友達と一緒だったのに、急に大人の世界に放り込まれても、コミュニケーションを取ることは難しいです。私自身は比較的、初対面の方とのコミュニケーションが得意な方ですが、それでも得体の知れないハードルを感じていましたからね」
一方、いわゆる”最近の若者”は「TikTok」などに平気で動画をアップする世代でもある。井上氏は「知らない人がどう見ようと関係ないんです。最初は知っている人に向けて発信していて、『いいね』とかネット上の付き合いはどちらかと言うと副産物でしかないんです」と解説した。
こうした背景もあり、見知った仲間内での通話ならむしろ積極的に好んでする人が多いという。このことから、電話嫌いについても「世代特有の特徴とは言い切れない」ときっぱり否定する。
「就職前の学生がOB訪問に行くと、先輩から『学生気分でいると置いていかれる』などと脅されることがあるようです。こうした経験から『ミスができない』と変に構えてしまい、働くことに緊張感や恐怖感も持つ人もいます」
入社後3年以内に3人に1人が離職する昨今。「電話対応は業務の初めの一歩。人見知り、学生気分を変えていくトレーニングのうちなので『頑張っていこう』とソフトランディングを助けてあげることが大切です」と話す。最初は、先輩が見本を根気強く見せながら、徐々に克服させることが必要なのかもしれない。