目上の人へのメールに「取り急ぎお礼まで」と書くのは失礼か――。ある人材会社社長のツイートがきっかけとなり、議論が巻き起こった。
発端となったツイートによると、学生からのメールの末尾に「取り急ぎお礼まで」と入っていた。これは失礼な言い方であり、「略儀ではございますが、まずはメールにてお礼申し上げます」にするべき、というのだ。
これに対し、ツイッターでは「その表現が正解な理由はなんですか?」「知りませんでした」などといった否定的な意見が上がった。
渋沢栄一への手紙でも使われていた言い回し
たしかに「”取り急ぎお礼まで”は失礼だ」と言われると、何故か失礼な気もしてくる。「忙しいけど、とりあえずお礼だけさせていだきます」といったニュアンスも含んでいるのではないか、という感じもする。しかし、現状多くの人が当たり前のように使っている言葉でもあるし、明確に失礼としてしまっていいのかは不明だ。
議論の盛り上がりを受け、国語辞典編纂者の飯間浩明さんも4月27日、次のようにツイートした。
「私も、失礼というのは可哀相だな、と思います。『略儀ながらメールにてお礼申し上げます』がよりよいとする意見の理由は、『~ます』と言い切る形だからでしょうか。でも、丁寧な礼状でも『取り急ぎお礼まで』は常用されます」
飯間さんは続けて「取り急ぎお礼まで」は昔から手紙で使われている決まり文句だとし、大河ドラマの主人公にもなった有名実業家・渋沢栄一宛ての手紙でも用いられていると説明したうえで、「現在に話を戻すと、普通の社交上のメールでは『取り急ぎお礼まで』で十分でしょう」と意見を述べた。
人材業界では否定派が多数だが……
一方で、「取り急ぎお礼まで」は避け、他の表現に言い換えたほうがよいとする意見もネットには存在する。その多くが、大手人材会社が運営する求人サイトの記事だ。
なぜ「取り急ぎお礼まで」は失礼な表現にあたるのか。多くの記事は「取り急ぎ」がまず問題だと指摘する。この表現は「とりあえず」の意味であり、緊急の要件であれば許容できるが、取引先や目上の人にお礼を伝えるには適切ではないというのだ。加えて、急いでお礼を伝えるのは、丁寧な事後報告が前提となっていると説明する記事もある。
特に問題視されているのが「お礼まで」という部分だ。文法的には意味が通るが、文末を省略した表現だと捉えられ、失礼だと考える人もいる以上、使うべきではないとする。
では、どう言い換えるのが正解なのか。推奨されているのが「まずはお礼までに申し上げます」という表現だ。不躾な印象を与える「取り急ぎ」を「まずは」に置き換え、省略表現である「お礼まで」を「お礼までに申し上げます」と略さず記すことにより、かしこまった印象が与えられるという。
日本語表現に詳しい飯間さんが指摘するとおり、「取り急ぎお礼まで」は本来、失礼な表現ではなかった。長い時間の中で、人材業界では避けるべき表現として扱われるようになってしまったようだ。そういう意味では現在のビジネスシーンでは避けたほうが無難、ということになる。
しかし、言葉は時代によって使われ方や意味が変わってくるということを差し引いても、それまで普通に使われていた言葉を「失礼」とすることで誰が得をするのだろうか。記事を最後まで読んでいただきありがとうございます。取り急ぎお礼まで。