当時、「10万円入ってた財布が忘れ物としてフロントに届けられたそうです」と女性は振り返る。
「“そうです”というのは、その財布が届けられたのは遅番のときで、私は早番で出勤した時にはもうすでにその財布はなく、え?一体どこに?って話になり、探しましたが結局出てきませんでした」
つまり夜間のフロントに届いた財布は、翌日女性が出勤したときにはすでに無かったということだ。ホテルは様々な人が出入りする場所ではあるが、従業員の中にはすぐに疑いの目を向けられる人物がいたようだ。
「手癖が悪い人間が遅番にいて、同僚の財布から千円だけ抜くとかっていうのは日常茶飯事で主任もそれは知ってたみたいなんです」
そんな従業員を放置していた理由は謎だが、当時の人員配置はフロント3人体制で、1人フロントにつくと裏のバックヤード事務所は2人になったという。女性は当時をこう回想している。
「何か電話がきて届物を部屋(客室)に届けに行くと(バックヤードは)一人になる」
「だからそのときにやったのではないかと噂がたった」
そもそも、「その財布の存在は遅番しか知らない」し、日頃から手癖が悪いとされる人物が遅番だったため、余計に噂になったようだ。ホテルの主任は犯人捜しを始めたが……。
「本人に主任が問いただしたところ『自分じゃない、あの人だ』となり、名指しされた人も主任に呼ばれ『自分じゃない』と主張、しかも裸にまでされたそうです」
これは性別問わず今なら酷いハラスメント行為だが、「それでも結局財布は出てこず」と成果はなかった。
窃盗事件はこれだけではなく、「金庫からも500円の延べ棒?みたいなのが三本」なくなるという事態も起きた。硬貨数十枚をセロファンで包んだ棒状の「棒金」と呼ばれるものだろう。500円硬貨の場合、棒金1本50枚で2万5000円なので、3本で7万5000円にもなる。
それも、例の「手癖が悪い」人物が一人で事務所にいたとき起きたようだが、証拠がなく女性が疑われてしまった。女性が金庫のお金を数えていて「1~2分目を離した隙に起きた」ことだったからだ。
「違う」と主張したが疑われた女性。警察を呼んでくれるよう求めたが、なぜかホテル側が警察を入れることはなく、
「結局疑い晴らせないまま辞めました」
と後味の悪いまま職場を去ることに。「きっと何か良くないことをしているので警察入れられなかったんですね」とかつての職場に再び不信感を募らせていた。