みなさんの職場に口癖のように「もう辞める」と言うものの、一向に辞める気配のない人はいるだろうか。
関東に住む40代女性は新卒入社したときの先輩が「辞める辞める詐欺」状態だった。先輩の「辞めようと思う」という言葉を真に受けて、
「具体的にはいつ頃辞めるんですか?」
「辞める前に、○○(業務)の仕方を教えて貰いたいので、課長にもお願いして来週からお時間頂いていいですか?」
と矢継ぎ早に質問した女性。今でこそ「そのときの先輩の焦りの顔は最高でしたね」と振り返るが、変な空気になりそうだ。その後もたびたび先輩の「辞める辞める詐欺」を目の当たりにしたという女性に、編集部は話を聞いた。
夕方になると「もうこんな仕事、ヤダ…」と愚痴りだす
女性が資材関連の卸会社に新卒で入社したのは2000年代の初頭のこと。先輩は入社して10年ほどが経っていた。
「先輩はそれなりにいろいろ知っているベテランではありました。しかし、取引先によって態度を変えたり大物社員にはゴマをすったり、後輩に仕事を押し付けたり、ワガママな部分があり自分優先のことが多かったです」
そんな先輩だとしても、いきなり「辞める」と言われたら新人は戸惑うものだ。
「仕事が片付いてくる夕方になると、先輩は『もうこんな仕事、ヤダ…』など愚痴が増えます。ただ、『辞める』という言葉が出たのは帰りが一緒になったときでした。といっても車通勤なので駐車場までですが、『私もう……秋を目処に辞めようと思う』といった感じでした」
その言葉に動揺し、冒頭に紹介したように「具体的にはいつ頃辞めるんですか?」などと先輩を問い詰めた。
「かなり驚いているような顔でした。返答もキョドっていましたから。『そ、それは…えっと……』のような話し方でした。ただ、当時の私はそんな先輩を見ても“詐欺”だと気づかず、『先輩は私の熱心さに驚いている』と勘違いしていました。後日、他の同僚に『いつものことだ』と言われるまで、私は先輩がいなくなったら……と不安を感じて悩んでいました」
この出来事のあと、先輩との関係はどうなったのだろう。
「引き留められるのが快感だったんでしょう」
2人の関係は気まずいものになりそうだが、
「先輩は忘れっぽいのか、また何事もなかったようになって、そしてまた『辞める』と騒ぐという繰り返しでした。会社のイベントの際には『私もう辞める!ほんとに辞める!』と怒鳴っていたこともありました」
と呆れる女性。しかも先輩は職場に求人誌を持ち込み、良さそうな求人があると女性に見せてきたそう。
「先輩が応募したかは知りませんが、内定していない求人を私に何度も得意げに見せてきて不快でした。というのも当時は就職氷河期真っ只なか、条件が良いとは言えない小さい会社に新卒の私はやっと入社できたんです。当時は求人だって少なく、いくら先輩でも簡単に転職ができる時代ではなかったので呆れました」
確かに、苦労して入社したばかりの女性に、繰り返し「辞める」と言ったり求人を見せたりという行為は、先輩としていかがなものかと疑問に思う。また先輩の評判も「辞める辞める詐欺」で悪くなる一方ではないか。一体、何の得があるのだろう。
「先輩は『辞める』と言ったあとに、引き留められるのが快感だったんでしょう。自己顕示欲というか、自分が会社でいかに必要とされているかを示したかったのだと思います」
そう思う背景にはこんな出来事も……。
「先輩は気に入らないことがあった翌日、拗ねて会社を欠勤することが何回かありました。数日欠勤して事業所長が迎えに行ったという逸話も、本人が自慢げに話しておりドン引きしました」
これには女性が「自己顕示欲」と言うのも頷ける。それで結局、先輩は今どうしているのか。
「最初の『辞める』から20年経過しましたが、先輩は今でも退職せずに働いてますから、本当に笑っちゃいます」
本気で辞めようと考えているなら、引き留めにあわないよう、周囲には言わずに隠れて転職活動をするだろう。職場の人たちも、辞める辞めると言って一向に辞めない先輩を、生温かい目で見ていそうだ。
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