橋本さんは、自身の過激ダイエットをこう振り返る。
「当時、お昼はコンビニのおにぎり1個くらい、夜はゼロカロリーのゼリーのみで、それも18時以降は食べませんでした。お腹がペコペコな状態でライブして、足の甲を疲労骨折し、生理も来なくなりました。周りからガリガリと心配されるようになって、ダイエットが続いて1年後くらいに、不安障害とうつ病を発症しました。そのときはあんまり動けなくなり、お薬を飲むようになりました。すると今度は太りだして、10キロ増えて50キロくらいになりました。太っていく自分がすごく嫌で、メンタル的にも不安定な状態が続いていましたね」
心身ともにボロボロの状態でもアイドル活動は怠らなかった。「365日ライブでした。平日は夜2公演、休日は朝、昼、夜と3公演で、たまに休みの日があっても撮影会や収録がありました」と明かす。しかも橋本さんは当時、東京大学に在学中でアイドル活動と学業を両立していた。
「平日の昼間は大学に通っていました。5限はライブと重なるので、4限までに履修を詰め込み、4限が終わったら大学を飛び出して会場に向かわないと間に合わないような生活でした。ライブの合間に課題や試験勉強をし、レポートを書いていました。休みと言える日が本当に1日もなく、お正月もお盆もゴールデンウィークもない。当時はそういう人生でした」
休みはなく、「睡眠時間は4時間あったらいいほうだった」とし、徹夜することもあったと橋本さんは続けた。
「深夜1時くらいに帰宅してからブログを書いたり、大学の課題もあったりで、2、3時過ぎに寝て朝6、7時に起きないと1限に間に合わない状態でした。昼間は大学があるので、ダンスの新曲の振り入れや新曲のレコーディングは、私だけ深夜のスタジオで行っていました。ライブ後に練習していたこともあり、始発で家に帰ってお風呂に入り、一睡もしないで大学に行くこともありました」
「私、生理来ないんだけど」→メンバー達も「えー私も」「私も…」と
前回の記事で、橋本さんは、過激なダイエットが原因で「生理が2年、止まっていた」と話していたが、こんなハードスケジュールでは病院にも行けなかったそうだ。
「病院に行く時間があるなら、ちょっとでも眠りたいというような環境でした。メンバー間で『私、生理来ないんだけど』という話題が出たことがありますが、『えー私も』『私も…』という声が上がるだけで、病院に行ったほうがいいとは誰も言いませんでした。そもそも、 生理が止まっていることが問題だという認識がありませんでした」
また、周りの大人に相談しようにも、男性スタッフがほとんどという環境ではできなかった。 ツギステが現役アイドルとアイドル経験者に行った調査結果でも、59.8%が「男性が多い」、22.5%が「男性しかいない」と回答しており、8割以上のアイドルが男性の多い環境で活動していることがわかった。
そんな橋本さんが、アイドルの健康問題に目を向けるようになったのは26歳のときだった。渋谷区議会議員に当選し、議員検診の一環で初めて受けた子宮頸がん検診で病変が見つかり再検査になったのだ。そこでアイドル時代を振り返り、「知識がないまま、自分の体を追い詰めていた」と初めて気づいた。しかし、そうした経験もすべて、現在の活動に繋がっている。
将来売れなかったら…「お金の問題と将来への不安」も深刻
一連の調査を通して、メンタル、ダイエット、生理といったデリケートな悩みを抱えながらアイドル活動をしている女性が多いことが明らかになったが、それらに加え、「お金の問題」も深刻だと橋本さんは語る。
「『アイドル活動中にどんなことでストレスを感じていましたか』という質問で、ダントツで多かった回答が『お金の問題と将来への不安』でした。アイドル活動はキャリアとみなされず、履歴書に書けない。そのため書類選考で落とされてしまいます。
でも実際は、アイドル活動では、ファン対応や握手会で『営業力やお客様対応力』、グループ活動で『チームで協力する力』、SNSで『発信力・広報力』、ほかにもいろんなスキルが身につきますから、立派な社会経験になるはずです」
そのためツギステでは、アイドル経験を評価してくれる企業とアイドル経験者をマッチングする事業を行っている。さらに現役アイドルには、卒業後にスムーズにセカンドキャリアへシフトできるように副業を紹介している。副業の内容は、事務作業、上場企業でのSNS運用、動画撮影業務、デザイン会社でのサポート業務など多岐にわたる。
「一番アイドルが不安に思うのは『将来売れなかったらどうしよう』ということ。でもアイドルとして売れなかったら、人生まで終わり、ではありません。アイドル経験が社会で評価され、セカンドキャリアにつながるというロールモデルを増やしていきたいと思います。また、アイドル業界と関係のない一般企業に勤める方たちにも、今回の調査をシェアすることで、まずご自身の就労環境について考えるきっかけにしてもらい、アイドルのセカンドキャリア問題についても一緒に考えていただけたらと思います」
アイドルを目指す人の多くは10代。アイドルを辞めた後の人生の方が長い。それなのに心身を壊すほど過酷な環境に置かれていることを、アイドルが好きな人はもちろん、そうでない人も、この調査をきっかけに自分ごととして考えてみてほしい。