ワタミ「深夜手当3万円」は虚偽説明か? 裁判で明かされる「給与体系」と「労働実態」 | キャリコネニュース
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ワタミ「深夜手当3万円」は虚偽説明か? 裁判で明かされる「給与体系」と「労働実態」

和民

和民

現在係争中のワタミ過労死裁判では、過酷な労働を強いる「給与体系」も焦点のひとつになっている。20日に行われた第6回口頭弁論では、改めてその問題の是非が問われた。

原告側の準備書面によると、当時ワタミ外食部門の給与は「基本給16万円+深夜手当129時間分3万円」だった。しかし、過労自殺した森美菜さんは入社前の事前説明会で、それとは違う説明を受けていたという。

「14時出社・翌6時退社」の過酷勤務

美菜さんが受けた説明はこうだ。

「固定給19万円 ※固定給以外に別途、社員一人ひとりの状況に対して、手当やインセンティブがつきます」

つまり、負担のかかる深夜勤務「129時間分」が19万円という給与に含まれることは、入社前には知らされなかったということだ。遺族側はこれを「明らかに虚偽の記載」だと批判している。

しかしワタミ側は、内定者には残業の可能性について「口頭で補足説明していた」と反論。さらに深夜手当についても、129時間分働いていない場合でも「満額の支払いをなしている」と裁判で主張している。

『検証・ワタミ過労自殺』(岩波書店刊)によると、実際に美菜さんは過労死する前、いちばん長い時で14時に出社し、翌6時までの16時間勤務を行っている。このうち、22時から翌5時までの7時間は、労働基準法上の深夜勤務となる。

かなりの長時間労働だが、美菜さんが勤務していた久里浜店では、

「年間6か月を限度として月間120時間、年間950時間まで(労働時間を)延長することができる」

という36協定が結ばれていたそうだ。

労働条件から給与体系まで、労働者に長時間の深夜労働を促す仕組みであることが窺える。確かに居酒屋の営業は深夜まで及ぶことが多いが、こうした給与体系や労働条件は、適法なのだろうか。労働問題に詳しい、アディーレ法律事務所岩沙好幸弁護士に聞いてみた。

36協定については、長時間労働を防ぐため「1か月45時間」「1年に360時間」などといった形で、厚生労働大臣によって時間外労働の「限度時間」が定められている。

だが、これに違反しても罰則はなく、「労基署等の行政官庁が必要な指導を行うことができる」だけなのだという。

「そのため、本件では限度時間を超えていることは明白ですが、36協定の効力が直ちに否定されるわけではなく、使用者は36協定に基づいて月120時間の時間外労働を行わせても、刑に処せられることはありません」

ただし今回の過労死裁判のように、長時間労働により労働者が死亡してしまった場合は、「使用者側の安全配慮義務違反が認められやすくなるというのは確かです」と話している。今回、遺族側が主張している争点のひとつだ。

入社前の説明と違えば「違法」の場合も

では、深夜手当の「129時間分3万円」という給与はどうだろうか。

深夜手当は「基礎時給の1.25倍」でなければならない。仮に1か月22日勤務とすると、所定労働時間は176時間(=1日8時間*22日)。この時間でワタミの基本給16万円を割ると、909円という「基礎時給」が出てくる。

深夜手当はこの時給の「1.25倍以上」でなければならないので、基礎時給にプラスして1時間あたり227円(=909円*0.25)が支払われなければならない。ワタミの場合、深夜手当の3万円を129時間分で割ると232円となり、227円を上回っている。

したがって「129時間分の深夜手当3万円」という数字自体には問題はないようだ。ただし原告の主張どおり、「入社前の説明」と「入社後」の給与の内容が違った場合は、違法となる。

「求人広告などで労働者に誤解を与えるような説明をした場合に、慰謝料の支払いを命じた裁判例もあります」(岩沙弁護士)

ただし、ここに「サービス残業」が含まれていた場合には、問題が残る。この点について、森さんと同時期にワタミで働いていたAさんに、勤務実態を聞いてみた。

Aさんの給与明細によると、ワタミの給与は「役職手当」という名目で「19万円」が固定で支払われたうえ、時間外手当も出ていた形跡があるという。

元社員「タイムカードを切って働くことが当然だった」

さらに、月々の勤務時間によって「普通残業手当」「月残超過金額」「所定勤務重複等調整」といった項目の金額が変動しており、打刻された労働時間に応じて支払われていたと見られる。

ただし、当時のワタミには「ノーコン(ノー・コントロール)」という慣習があり、人件費が予算コストを超えてしまった場合に、社員たちはタイムカードを切った状態で働くことが当然のようにあったというのだ。

「店での売上に対して時間数がオーバーすると、社員の時間数を削らなければならない。店が『ノーコン』するとエリアマネージャーに叱られるので、サービス残業をすることがあった」

この証言どおり「ノーコン」を恐れたサービス残業が横行しているとすれば、残業代の未払いで労基法に違反することになる。こうした深夜勤務の実態が、入社前に説明されていたかどうかも聞いてみたが、Aさんは「そこまでは覚えていません…」と話していた。

ワタミ裁判の次回の口頭弁論は、2015年1月19日が予定されている。その後、証人尋問が行われ、さらなる事実が明らかになる見通しだ。

※次回(第7回)の口頭弁論は、2015年1月19日から、2015年2月2日に変更されました。※

あわせてよみたい:ワタミ「シフト管理」の仕組み 長時間労働の実態を社員語る

 
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