カシオ計算機のDX:事業の成長を牽引するG-SHOCKブランドで「顧客が見える」One to Oneマーケティングを強化 | NEXT DX LEADER

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カシオ計算機のDX:事業の成長を牽引するG-SHOCKブランドで「顧客が見える」One to Oneマーケティングを強化

G-SHOCK× ITZY Metal Covered より

カシオ計算機は1946年に東京・三鷹で創業、1957年に世界初の小型純電気式計算機を商品化した会社です。1974年に電子腕時計「カシオトロン」、1980年に電子楽器「カシオトーン」を発売。1990年代以降に世界初の液晶モニター付き民生用デジタルカメラ「QV-10」携帯電話端末など多角化を進めましたが、2010年以降は事業の統廃合を行っています。

社名に計算機がついていますが、現在の主要事業はG-SHOCKを中心とした「時計」で、売上高の約6割とセグメント利益の大半を生み出しています。電卓や電子辞書、電子楽器などの「コンシューマ」は売上高の約3割、ハンディターミナルや電子レジスターなどの「システム」は赤字です。(NEXT DX LEADER編集部)

中国市場でG-SHOCKが急伸するもコロナ禍で大打撃

カシオ計算機の業績は2008年に売上高6230億円に達しましたが、iPhone日本上陸などの影響で国内売上が急落し業績が悪化。その後、中国を中心にG-SHOCKの海外売上が伸長しますが、2016年ころから再び右肩下がりになりました。

2019年5月には、2020年3月期から3年間の「中期経営計画」を発表しました。中長期で企業価値を向上させるための「新しい経営」に変革することを目指し、「4つの成長戦略」に向けて「2つの価値追究」「2つの経営基盤」の変革を行っていくとしていました。

しかし、2020年からのコロナ禍で中国市場が大打撃を受け、2021年3月期には前期比19.0%減の2274億円にまで落ち込み、2022年3月期までの中期経営計画の財務目標は未達に終わっています。

統合報告書2022(2022年3月末現在)より

統合報告書2022(2022年3月末現在)より

その一方で、経費の効率化や無駄の排除、流通基盤の再構築や営業拠点の統廃合など、収益改善に向けた取り組みには一定の成果があったとのことです。また、G-SHOCKを中心とした「時計事業の成長拡大」「カシオの強みを活かした価値の追究」「組織と人財の活性化」などは引き続き取り組んでいく課題とされています。

2021年3月期第2四半期決算概要および2021年3月期業績見通し(2020年11月10日)より

2021年3月期第2四半期決算概要および2021年3月期業績見通し(2020年11月10日)より

例えば、時計事業については「商品中心の集客型マーケティング」から「ユーザー中心のデジタルマーケティング」へ転換した結果、2023年3月期の第2四半期時点で時計全体のEC販売比率は約30%、中国市場では約50%に。日本市場の自社EC販売は前年同期比で1.5倍に高まり、収益力の改善につながっています。

また、コロナ禍による流通やユーザーの生活様式の変化に対応し、ユーザーと直接つながる場所や機会を強化。既存の売り場を縮小し、オフラインではG-SHOCK STOREを全世界で約1400店舗展開。オンラインではFacebook(フォロワー1,100万人。2023年5月現在)などSNSを通じてG-SHOCKファンを集めています。

生産サイクルの短縮などで「DX注目企業2020」に選定

デジタルマーケティングを活用したユーザーの囲い込み策としては、ユーザーを統合管理するデータベースを構築し、自社ECとG-SHOCK STOREを連携させたサービス提供や、ウェブ接客の個別最適化、ファン限定サービスの提供、製品やサービスのカスタマイズに活かしています。

2021年3月期第2四半期決算概要および2021年3月期業績見通し(2020年11月10日)より

2021年3月期第2四半期決算概要および2021年3月期業績見通し(2020年11月10日)より

これらの施策により、G-SHOCKを3個以上所有し、かつ高い好感度を有する世界500万人のG-SHOCHのコアファンを「ロイヤルファン」として囲い込むことが可能になり、深く長くつながり続けることを目指しています。

このほか、ワークアウトに最適なG-SHOCKとして、初めてハートレート(心拍数)モニターやGPS機能、二次電池を同時搭載したG-SQUADを発売。ランニング総合サービスをアシックスと共同開発し、ウォーキングや披露・睡眠リカバリーなど健康領域に拡大するとのことで、これも一種のDXの取り組みといえます。

あわせて、営業本部ではCRMを活用してロイヤルファンを育成できる営業戦略立案体制を強化し、生産本部ではサプライチェーンプロセスのDXを行い生産サイクルを3ヶ月から2ヶ月に短縮し、製品在庫適正化を図るなどの取り組みも行っています。

2021年3月期第2四半期決算概要および2021年3月期業績見通し(2020年11月10日)より

2021年3月期第2四半期決算概要および2021年3月期業績見通し(2020年11月10日)より

このような取り組みが評価され、2020年8月には経産省・東証の「DX注目企業2020」に選定されました。G-SHOCKのスマート化など「既存事業の変革」とともに、スポーツ・健康領域への進出など「新規事業の創出」や、「革新的な生産性向上」の全社横断的な取り組みが評価されています。

中長期視点での「New Casio C30プロジェクト」開始

2021年3月には、デジタルマーケティング部と情報開発部を統合し、DXの全社戦略の策定や推進を組織横断的に担う「デジタル統括部」を新設。開発‐生産‐営業‐CSなどのバリューチェーンをユーザー中心に変革するDXを推進する体制を整えています。

2021年3月期決算概要および2022年3月期業績見通し(2021年5月13日)より

2021年3月期決算概要および2022年3月期業績見通し(2021年5月13日)より

2023年3月期に入り、中長期の成長に向けた取り組みとして2030年度に企業価値最大化を目指す「New Casio C30プロジェクト」を開始。中期的な打ち手ではなく10年程度のスパンで会社の方向性を定め、ダイナミックな投資やリソース配分を実現するとしています。

時計事業では「One to Oneマーケティング強化」を掲げ、自社EC・直営店の強化によるロイヤルカスタマーとのつながり強化を目指しています。CASIO ID登録者とE-mail subscriberを2021年度の414万人から2023年度には1,000万人に増やし、リアル店舗の連携で接客クオリティを高め、顧客満足度の向上を目指すとしています。

2023年3月期の第2四半期決算時には、「New Casio C30プロジェクト」の次期本格スタートに向けた重点課題として「事業運営マネジメントの抜本的改革」を掲げ、DXを活用して一人ひとりに最適な商品・サービスを提供するとしています。

2023年3月期第2四半期決算概要および2023年3月期業績見通し(2022年11月9日)より

2023年3月期第2四半期決算概要および2023年3月期業績見通し(2022年11月9日)より

デジタル技術の活用により「顧客が見えている」「顧客の好みや購買履歴が分かる」「次に何を提案したら良いかが分かる」といった効果が期待され、One to Oneマーケティングの仕組みは、これを実現するものとして構築されることになります。

中長期経営方針で「D2C・OMOに向けたインフラ投資」打ち出す

2023年5月11日には「中長期経営方針」を発表。自社の課題を「価値観を育てるのが苦手」と分析し、2030年を見据えて「市場に新たな価値軸を作り出し、唯一無二のブランドに育て上げる」という経営方針を打ち出しています。

中長期経営方針(2023年5月11日)より

中長期経営方針(2023年5月11日)より

そして重点戦略を「2030年度までに各事業品目に新たな価値軸となるコアブランドを確立し、企業価値を最大化する」とし、3つのコア戦略と3つの基盤戦略を整理。そのひとつとして「『DX』によるバリューチェーン改革」が打ち出されています。

中長期経営方針(2023年5月11日)より

中長期経営方針(2023年5月11日)より

DXによるバリューチェーン改革の具体的な中身として、「D2C・OMOに向けたインフラ投資」「製品ライフサイクルのプロセス改革」が挙げられています。

D2Cは「Direct to Consumer」の略で、自社製品をメーカーが小売店などを介さず、顧客と直接取引する販売方法です。OMOは「Online Merges with Offline」の略。統合データベースによってオンラインとオフラインを滑らかに統合することで、顧客の購買体験をサポートする体制を作り、顧客最大価値(LTV)の最大化を図ります。

そして2024年3月期を、2026年3月期に向けた「成長軌道回帰」を急務とした「戦略的な事業投資」を行う期とし、デジタルマーケティング等のバリューチェーン改革を加速するためのDXに積極投資を行うとしています。

中長期経営方針(2023年5月11日)より

中長期経営方針(2023年5月11日)より

一方で、収益構造改善のためのリストラを続けており、2023年5月には直近5年で3度目となる早期退職者の募集を実施しています。

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考察記事執筆:NDX編集部

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