東レのDX:「デジタルイノベーション(DI)事業」に注力 「経営データの見える化」や「デジタルものづくり」も強化 | NEXT DX LEADER

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東レのDX:「デジタルイノベーション(DI)事業」に注力 「経営データの見える化」や「デジタルものづくり」も強化

【TORAY】 より

東レは1926年、植物原料由来のレーヨン糸を生産する東洋レーヨンとして設立されました。戦後はナイロンやポリエステルなどの合成繊維の生産を開始。1970年に現在の社名に変更し、さまざまな化学製品を開発しました。

現在の事業セグメントは、「繊維」「機能化成品」「炭素繊維複合材料」のほか、水処理事業・エンジニアリング事業の「環境・エンジニアリング」、医薬事業・医療機器事業の「ライフサイエンス」の計5つ。2023年3月期の売上収益構成比は「繊維」が最も大きく40.4%、「機能化成品」が36.8%、「炭素繊維」が11.4%、「環境」が9.3%、「ライフ」が2.2%でした。(NEXT DX LEADER編集部)

長期経営ビジョンで「持続的かつ健全な成長」掲げる

東レは2018年に「東レグループ サステナビリティ・ビジョン」を発表し、2050年に目指す世界として「GHG(温室効果ガス)排出実質ゼロの世界」など4つをあげました。

中期経営課題“プロジェクト AP-G 2025”(2023年3月27日)より

中期経営課題“プロジェクト AP-G 2025”(2023年3月27日)より

2020年5月策定の長期経営ビジョン「TORAY VISION 2030」では「持続的かつ健全な成長と社会的価値の創造」を目指し、「成長分野でのグローバルな拡大」「競争力強化」「経営基盤強化」に取り組むとしています。

中期経営課題“プロジェクト AP-G 2022”(2020年5月13日)より

中期経営課題“プロジェクト AP-G 2022”(2020年5月13日)より

同時に、中期経営課題「プロジェクト AP-G 2022(2020~2022年度)」「強靭化と攻めの経営」を掲げ、地球環境問題や資源・エネルギー問題の解決に貢献する「グリーンイノベーション(GR)」事業や、医療の充実と健康長寿、公衆衛生の普及促進、人の安全に貢献する「ライフイノベーション(LI)」事業の強化を図るとしています。

この結果、成長分野のGR事業(風力発電翼用炭素繊維、水処理膜などが好調)とLI事業(衛材用不織布やスポーツ関連素材が出荷増)の売上収益、およびGHG排出量・用水使用量は、いずれも2022年度の目標を達成。一方、連結売上収益や同事業利益の目標値は、コロナ禍や資源高などの理由で未達に終わっています。

サステナビリティに加え「デジタル」に経営資源投入

AP-G 2022の反省を踏まえ、2023年3月に新しい社長のもとで中期経営課題「プロジェクト AP-G 2025(2023~2025年度)」を開始。「革新と強靭化の経営 -価値創造による新たな飛躍-」を掲げ、「持続的な成長の実現」など5つの基本戦略を打ち出しています。

中期経営課題“プロジェクト AP-G 2025”(2023年3月27日)より

中期経営課題“プロジェクト AP-G 2025”(2023年3月27日)より

DXへの関わりが強いのは1つ目の基本戦略「持続的な成長の実現」で、「サステナビリティイノベーション(SI)事業」に加えて新たに「デジタルイノベーション(DI)事業」に経営資源を重点化するとしています。

SI事業とは、従来のGR事業とLI事業を再編したもので、2025年度の売上収益を1.3兆円から年率7%で拡大し、2025年度には1.6兆円を目指します。具体的な製品例は、水素社会の実現に貢献する「水電解用途の基幹素材」、圧縮天然ガス(CNG)や水素タンク用の「圧力容器用炭素繊維」、海水淡水化や下排水再利用に使われる「逆浸透(RO)膜」などです。

中期経営課題“プロジェクト AP-G 2025”(2023年3月27日)より

中期経営課題“プロジェクト AP-G 2025”(2023年3月27日)より

これに加えて新たに強化するDI事業は、デジタル技術の浸透により利便性の向上に貢献する材料や装置、技術、サービスなどを指し、1,600億円の売上収益を、SI事業よりも高い年率16%で拡大し、2025年度には2,500億円とする目標が掲げられています。

DI事業で強化する製品例は、半導体・電子部品やディスプレイの製造に使われる「エレクトロコーティング剤」、デジタルウォッチなどに使われる「マイクロLEDディスプレイ用材料」、クルマのパワーモジュールに使われる「パワー半導体」のほか、「半導体製造・検査装置」「超純水製造用RO膜」などです。

中期経営課題“プロジェクト AP-G 2025”(2023年3月27日)より

中期経営課題“プロジェクト AP-G 2025”(2023年3月27日)より

そして、連結売上収益に占める成長領域(SI事業とDI事業)が占める割合を、2022年度(見通し)の54%から6割程度にまで拡大することを目指します。

この目標達成に向けて価値創出力と競争力を高めるために、「新材料・サービスの創出」「製造コスト削減・品質向上」を実現する「現場密着型」のデジタル活用を進めるとしています。

「新材料・サービスの創出」としては、限られた材料知識で最適な材料選定が可能な「材料コンシェルジュ・サービス」によるお客さまの課題解決や、マルチスケールシミュレーションと自己組織化マップを統合した「統合的MIの活用」による研究開発の効率化などが想定されています。

「製造コスト削減・品質向上」としては、工程監視高度化やデータ解析などによる生産効率化、生産計画シミュレーションによるサプライチェーンマネジメント高度化などがあげられています。

「デジタルものづくり」などに200億円の投資

このようなデジタル活用を進めるために、データ基盤や技術融合、デジタル人材育成に200億円の投資を行うとのことです。

中期経営課題“プロジェクト AP-G 2025”(2023年3月27日)より

中期経営課題“プロジェクト AP-G 2025”(2023年3月27日)より

具体的には、グローバルデータの「蓄積・共有・見える化」の推進や、AI・MI(マテリアルズ・インフォマティクス=材料開発のための機械学習)による「デジタルものづくり」の強化、バリューチェーンのリアルタイム連携・管理、グループで2,000人以上のデジタル人材基盤を確立するための育成などを推進します。

5つ目の基本戦略「リスクマネジメントとグループガバナンスの強化」の中でも「業務フローのデジタル化推進による内部統制強化」が課題としてあげられ、東レグループのマネジメント力向上の取り組みとして「DX推進」があげられています。

YouTube:【TORAY】

考察記事執筆:NDX編集部

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