東京電力グループのDX:「カーボンニュートラル」と「防災」でビジネスモデル転換 電力データ活用の新規事業にも取り組む | NEXT DX LEADER

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東京電力グループのDX:「カーボンニュートラル」と「防災」でビジネスモデル転換 電力データ活用の新規事業にも取り組む

私たちが創るエネルギーの未来 Meets TEPCO(東京電力グループ) より

東京電力は1883年設立の東京電燈を前身とし、1951年に設立された会社です。2011年3月に発生した福島第一原子力発電所事故の復旧および損害賠償のために公的資金が注入され、国の機関が議決権の過半数超を有する筆頭株主となっています。

2016年4月、電力自由化に際して持株会社体制に移行。火力発電・燃料事業を東京電力フュエル&パワー、送電・配電事業を東京電力パワーグリッド、小売電気事業を東京電力エナジーパートナーがそれぞれ承継。2020年に再生可能エネルギー発電事業を東京電力リニューアブルパワーが引き継いでいます。(NEXT DX LEADER編集部)

「連結当期純利益4,500億円規模」の目標掲げる

政府は2021年8月、東京電力グループの新たな経営再建計画にあたる「第四次総合特別事業計画」を認定しました。「東電の最大の使命は福島への責任の貫徹」としつつ、「新たな事業環境に対応し必要資金を安定的に捻出すべく、グループ一丸となって非連続の経営改革を断行」するとしています。

長期の連結利益目標は、2019年3月期に2,600億円程度だった「廃炉等積立金」を2030年度以降は3,000億円程度に、1,178億円だった「特別負担金」「一般負担金」を2,000億円程度に増額しつつ、1,898億円だった連結当期純利益を4,500億円規模に増やす高い目標を掲げています。

第四次総合特別事業計画の概要(2021年7月21日)より

第四次総合特別事業計画の概要(2021年7月21日)より

一方、事業の現状としては、電力自由化以降の競争激化による小売事業の苦戦やコロナ禍の影響の中、自然災害の激甚化・広域化や電力需給ひっ迫など「電力の安定供給」に課題があり、さらに「カーボンニュートラル」の世界的潮流や日本国内の機運の高まりにもさらされているとしています。

このような状況下、東京電力グループは「社会の皆さまからの信頼回復」を最優先事項に位置づけ、「低廉かつ安定的な電気の供給」に向けて「カーボンニュートラル」「防災」を軸とした新たな価値提供のビジネスモデルへ転換し、「顧客価値創造企業」に生まれ変わるとしています。

第四次総合特別事業計画の概要(2021年7月21日)より

第四次総合特別事業計画の概要(2021年7月21日)より

そして4つの事業課題として「カーボンニュートラルへの挑戦」「防災・安定供給」とともに「地域経営・DXの推進」「事業ポートフォリオ再構築」を掲げています。

「地図情報共有システム」で災害情報をリアルタイムで共有

第四次総合特別事業計画では「DX・システム」についても言及し、「激甚化・広域化する自然災害に対応するサービス継続能力を高めることを狙いに、防災の観点からDXを進めていく」として、以下のような取り組みを行うとしています。

  1. 東京電力パワーグリッドにおいて検討を進めている設備被害状況のリアルタイム把握
  2. お客さまの停電状況把握のため、スマートメーターデータの活用や電力設備の復旧状況について、ホームページ、スマートフォンでの見える化
  3. 自然災害・疫病等のいかなる環境下においても、電力安定供給を可能とする多様な働き方“Work from Everywhere”を実現

1つ目の「設備被害状況のリアルタイム把握」の取り組みについては、東京電力ホールディングスのウェブサイトに掲載されている「TEPCO DX コンセプトムービー」の中で「防災×DX」の例として説明されています。

東京電力グループは、送電線、変電所、電柱、各家庭への引き込み線など広く領域を管理し、部門ごとに電力設備の保守メンテナンスを行っています。大規模災害時には、部門間や本支社間の情報連携を個別に行っていたため、情報共有のタイムロスが発生していました。

これを受けて、東京電力パワーグリッドが2020年に「PG地図情報共有システム」を導入。災害対応に必要な情報をリアルタイムに重ねて見ることができるようになり、情報の一元管理が可能になり、情報共有のタイムロスがなくなったとのことです。

NECネッツエスアイ「地理情報プラットフォーム」パンフレット(東京電力パワーグリッド様の事例)より

NECネッツエスアイ「地理情報プラットフォーム」パンフレット(東京電力パワーグリッド様の事例)より

具体的な使い方は、台風などによる停電の発生時、支社に入った停電情報をシステムに連携。本支社と現場はこの情報を基に復旧体制を組み、現場では計画を基に復旧作業を実施します。そして作業終了後に完了情報を入力すると、復旧状況がマップ上に順次更新されます。

このシステム導入により、早期復旧に資する判断が可能となり、あわせて2番目の取り組みである「電力設備の復旧状況について、ホームページ、スマートフォンでの見える化」によって、いち早くお客様に安心をお届けできるようになりました。

発電所等のインフラ情報を3Dデータ化し遠隔管理

2つ目の「スマートメーターデータの活用」の取り組みについては、東京電力エナジーパートナーの企業サイトで説明されています。

東京電力エナジーパートナーのウェブサイトより

東京電力エナジーパートナーのウェブサイトより

スマートメーターデータとは、通信機能を搭載した電力量計(スマートメーター)から取れるデータのこと。毎月の検針業務の自動化はもちろん、HEMS(住宅用エネルギー管理システム)を通じた電気使用状況の見える化を実現することなどが可能になります。

また、このデータを活用することで、電気料金メニューの多様化や、社会全体の省エネ化への寄与、電力供給における将来的な設備投資の抑制などが期待されています。

「TEPCO DX コンセプトムービー」でも「家庭の電力データ分析×DX」の例を紹介しています。スマートメーターデータをクラウドに蓄積し、それぞれの家電で使われた電力をAIで推定。電気代の内訳がわかることで、電気使用の無駄を抑えられるというものです。

3つ目の「Work from Everywhere」については、そのものの取り組み情報はありませんでしたが、「TEPCO DX コンセプトムービー」には「電力設備×DX」の例が紹介されています。

日本で最も多くの電力設備を保有する東京電力グループでは、膨大なインフラ情報を3Dデータ化してクラウド「TEP cube」で共有し、遠隔地の発電所や変電所などの設備を管理できるようにする取り組みが行われています。

東電設計「BIM/CIM対応3次元ビューアの開発と2D/3D/GIS情報管理ソフトウェア「NaviPortal®2022」の販売開始」(2021年10月26日)より

東電設計「BIM/CIM対応3次元ビューアの開発と2D/3D/GIS情報管理ソフトウェア「NaviPortal®2022」の販売開始」(2021年10月26日)より

このデータは保守点検や修理、新たな設計時に効果を発揮し、データ活用によってトラブル発生時の早期原因把握が可能になり、安定供給の質の向上につながるとのことです。

このほか、DXによる業務改善の例としては、送電線点検作業へのドローンの活用が見込まれており、対象物検知センサーや振動制御技術、専用アプリケーションなどを開発し、実用レベルにまで向上しています。

「データ・通信事業」などで新たな収益生み出す

第四次総合特別事業計画では、連結当期純利益を4,500億円規模に増やす目標達成のために、「新規事業領域」の取り組みが必要としています。

そして、市場伸長性や競争優位性を踏まえて「再生可能エネルギー事業領域」に加え、「モビリティ等電化事業領域」「データ・通信事業領域」など、デジタル技術の活用が不可欠でDXに関係の強い取り組みに重点的に取り組むとしています。

第四次総合特別事業計画の概要(2021年7月21日)より

第四次総合特別事業計画の概要(2021年7月21日)より

「モビリティ等電化事業」では、充電ステーションの好立地点の確保と業務車両の電動化により、ゼロエミッションビーグルを拡大。EV用蓄電池等を活用した「蓄電池ビジネス」を事業化するとしています。

さらには、モビリティや蓄電池などの電化事業を基点に、「電化社会の実現」に向けて、まちづくりや生活・住宅分野への事業範囲を拡大し、収益機会を拡大、強化するとしています。

なお、東京電力エナジーパートナーでは、2020年3月に脱炭素と防災をコンセプトとした「つぎは電化でeみらい」というメッセージを発信。再生可能エネルギーの活用や防災へのニーズに応え、“電気を溜めて使える”エコキュートや太陽光パネル、蓄電池等の展開を強化しています。

東京電力エナジーパートナー「つぎは電化でeみらい」について(2020年3月17日)より

東京電力エナジーパートナー「つぎは電化でeみらい」について(2020年3月17日)より

「データ・通信事業」については、電力データをはじめとするデータ活用サービス事業およびデータプラットフォーム事業を展開するGDBL(旧グリッドデータバンク・ラボ。東京電力パワーグリッドなどが出資し2022年6月設立)等を活用しながら、平時・非常時にお客さまに有益なサービスを開発するとしています。

2026年度には、データセンター事業で約70億円、通信基地局シェアリング事業で約40億円の収益を目指します。

このようなDXを推進するため、東京電力グループでは2020年4月より、東京電力ホールディングス内にグループ各社社長、CFO、CIOらからなる「DXビジネス変革委員会」とグループ全体のDXを管掌する「DXプロジェクト推進室」を設置し、各グループ会社のDX推進部門との連携を図る体制をとっています。あわせて、全社員を対象にデータサイエンスやAI・デジタルテクノロジーを題材とした自由参加型の研修を実施しています。


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考察記事執筆:NDX編集部

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