MS&ADグループのDX:リスクとテクノロジーを掛け合わせた「RisTech」で新規ビジネスの創造と収益化図る | NEXT DX LEADER

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MS&ADグループのDX:リスクとテクノロジーを掛け合わせた「RisTech」で新規ビジネスの創造と収益化図る

企業CM「さあ、いい方の未来へ グリーンレジリエンス篇」(15秒) より

MS&ADインシュアランスグループホールディングスは2010年に誕生し、三井住友海上火災保険、あいおいニッセイ同和損害保険などを傘下に置く保険持株会社です。MSは「三井住友」、ADは「あいおい同和」に由来します。

正味収入保険料は3兆6090億円(2022年3月末時点)。国内損害保険事業は国内首位、国内生命保険事業は国内9位、海外事業はASEAN域内1位。2021年収入金額は、世界の損害保険会社・グループの8位にランクされています。(NEXT DX LEADER編集部)

MS&ADインシュランスグループの経営戦略(2022年4月14日)より

MS&ADインシュランスグループの経営戦略(2022年4月14日)より

「気候変動」と「人口減少」が大きな事業リスクに

MS&ADグループの2023年3月期は、連結経常収益は前期比2.3%増の5兆2512億円とかろうじて増収となったものの、経常利益は同40.8%減と落ち込む2311億円でした。

グループ修正利益は、中核事業の「国内損害保険事業」が前期比48.8%減の1180億円(政策株式売却等損益を除くと284億円)、「国内生命保険事業」は同54.2減の347億円、「海外事業」が48.4%減の179億円、「金融サービス事業/デジタル・リスク関連サービス事業」は同68.3%減の20億円となっています。

現在、損保業界は大きな課題に直面しています。ひとつは「気候変動リスク」です。近年自然災害は全世界ベースで巨大化、頻発化しており、支払保険金は大幅に増加。現状では再保険カバーの活用などにより業績への影響を抑制しています。

MS&ADインシュランスグループの経営戦略(2022年4月14日)より

MS&ADインシュランスグループの経営戦略(2022年4月14日)より

もうひとつの課題が「国内の人口減少」で、国内の少子高齢化や自動運転社会の到来の影響により、自動車保険の将来の鈍化が懸念されています。

一方で、新しい技術の発展や生活スタイルの変化に伴って生じるリスクをとらえ、新しい保険を提供し、成長を持続していくことが求められています。

MS&ADグループでは、国内損保事業からの利益は維持しつつ、海外事業投資により損保・生保とも着実に拡大し、世界経済の拡大とともに成長し続けるとしています。これを実現する方針として前面に押し出されているのが「デジタル技術の活用」です。

「最適なソリューション提供」にデジタルを活用

MS&ADグループでは2022年4月、中期経営計画(2022年度-2025年度)を発表しました。目指す姿(定性目標)である「レジリエントでサステナブルな社会を支える企業グループ」を具現化するため、重点課題のひとつに、

「デジタルを活用したマーケティング、アンダーライティング、損害サービス、リスクコンサルティングにより、最適なソリューションを提供する」

をあげています。

MS&ADグループ「中期経営計画(2022-2025)」より

MS&ADグループ「中期経営計画(2022-2025)」より

DXをグループ経営上、優先度・重要度ともにかなり上位に位置づけているといえます。なお、「アンダーライティング」とは引受業務のことで、保険契約の引受けの可否やどのような引受条件とするかなどを判断する一連の業務を指します。

戦略レベルでも、デジタルは重要な位置を占めています。「デジタルを活用した最適なソリューションの追求」「事業・リスクポートフォリオの変革」とともに、3つの基本戦略のひとつである「Transformation(事業の変革)」におけるテーマとなっています。

MS&ADグループ「中期経営計画(2022-2025)」より

MS&ADグループ「中期経営計画(2022-2025)」より

さらに「MS&AD Value戦略」でも「CSV(社会との共通価値の創造)」「DX」との掛け合わせをグローバルに展開することで、ビジネススタイルを変革し、国内、アジア、そして世界へ事業を展開し、持続的成長を実現するとしています。

MS&ADインシュランスグループの経営戦略(2022年4月14日)より

MS&ADインシュランスグループの経営戦略(2022年4月14日)より

2020年2月には、AIを搭載した損保業界初の代理店システム「MS1 Brain(エムエスワンブレイン)」を導入済です。このシステムは、代理店が保有する顧客情報と保険会社が保有する契約・事故データ、企業情報などの外部データを組み合わせ、代理店の活動を支援します。

  • お客様ニーズ予測分析:AIが補償内容の見直しや新たな保険商品等を最適なタイミングで提案
  • 代理店(募集人)NBA:お客様への提案活動における最適なアクション(ネクストベストアクション)をAIが提示して、募集人をナビゲート
  • パーソナライズド動画:AIが佐道武器出した最適な保険プランを分かりやすく説明した動画を作成
  • 代理店経営者サポート:AIが代理店の保有マーケットや販売実績を分析し、経営計画の策定を助言ほか、代理店の活動指標や募集人の活動状況を一覧で管理
MS&ADインシュランスグループの経営戦略(2022年4月14日)より

MS&ADインシュランスグループの経営戦略(2022年4月14日)より

データ分析から「事故発生予測モデル」を構築し対策につなげる

「MS&AD Value戦略」「新規ビジネスの創造と収益化」では、リスクとテクノロジーを掛け合わせたデータサービス事業に取り組むとしており、ここでもデジタル技術の活用における変革が期待されています。

MS&ADインシュランスグループの経営戦略(2022年4月14日)より

MS&ADインシュランスグループの経営戦略(2022年4月14日)より

MS&ADグループでは、2019年5月からアクセンチュアとともにデータサービス事業「RisTech」に取り組んできましたが、2020年5月の改正保険業法の施行に伴い、顧客から同意を得ることで顧客のデータを第三者へ提供し利用することが可能となりました。

これを受けて、車のデジタルタコグラフメーカーが蓄積するデータと、三井住友海上火災保険が持つ事故発生のデータを組み合わせることで、事故発生予測モデルを構築して対策につなげる「スマートモビリティの取組み」などを行います。

MS&ADグループでは、最新デジタル技術の獲得にむけて、シリコンバレーのコーポレートベンチャーキャピタル「MS&AD Ventures」によるスタートアップ投資を行い、さまざまな最新デジタル技術を獲得しています。

MS&ADインシュランスグループの経営戦略(2022年4月14日)より

MS&ADインシュランスグループの経営戦略(2022年4月14日)より

MS&AD Venturesは、創業3年で世界8か国60社を超えるスタートアップに投資し、代表者2名(Jon Soberg氏、佐藤貴史氏)が「GCVパワーリスト賞」を2年連続受賞し、投資家トップ100にも選出されています。

投資先のひとつ、インシュアテック企業の米Hippo社は、データとテクノロジーを活用した新たなビジネスモデルを持つ会社で、三井住友海上火災保険が2020年11月に戦略提携を締結していますが、2021年8月にニューヨーク証券取引所へのIPOを果たしています。

新システムで「保険金支払業務」をペーパーレス化

MS&ADグループでは、事業費削減の取り組みにおいても、オンライン刷新による業務効率化やペーパーレス、オペレーション効率化の手段として、デジタル技術の活用を行うとしています。

MS&ADインシュランスグループの経営戦略(2022年4月14日)より

MS&ADインシュランスグループの経営戦略(2022年4月14日)より

グループ中核企業である三井住友海上火災保険とあいおいニッセイ同和損害保険は、グループで共同開発した新損害サービスシステム「BRIDGE」の稼働を2021年7月から開始しています。

新損害サービスシステムの稼働開始について(2021年7月6日)

新損害サービスシステムの稼働開始について(2021年7月6日)

「BRIDGE」の主な機能の1つめは「ウェブコミュニケーションの強化」。顧客は担当者とメッセージによる双方向のコミュニケーションを取れるようになり、スマートフォンなどを使って、損害箇所の写真や動画の送信だけでなく、必要書類もデータで提出できるようになりました。

2つめは「保険金支払業務プロセスのペーパーレス化」。大手損保初となる社内の保険金支払業務プロセスのペーパーレス化を実現し、グループ会社に保険金支払事務を集約するため、担当者は顧客対応に専念できます。また、大規模災害時にも全国の拠点で電子書類を閲覧でき、リモートでも災害対応が可能になります。

3つめは「不正請求の検知」。新システムでは、AIを活用した不正請求を検知する仕組みとも連携し、ビックデータによる不正請求の予測分析やネットワーク分析を行います。これにより不正請求検知が高度化し、迅速かつ適切な保険金支払いにつながります。

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考察記事執筆:NDX編集部

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