大日本印刷のDX:「XRコミュニケーション」と「メディカル・ヘルスケア」の成長事業に集中投資 事業構造を変革 | NEXT DX LEADER

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大日本印刷のDX:「XRコミュニケーション」と「メディカル・ヘルスケア」の成長事業に集中投資 事業構造を変革

【未来のあたりまえをつくる挑戦者たち】 VOL.2「リアルとバーチャルを行き来する新世界」 より

大日本印刷(DNP)は1876年に創業した秀英舎が前身で、1935年に日本初の原色グラビア印刷を開始した日清印刷と合併して誕生しました。戦後は日本精版、弘益印刷、北日本印刷などと合併し、全国規模の印刷会社になりました。

2024年3月期からセグメントを変更し、印刷・加工、マーケティング、ICカード、フォトイメージングなどの「スマートコミュニケーション部門」、食品・生活用品向け梱包材、産業用高機能材、北海道コカ・コーラボトリングの飲料事業などの「ライフ&ヘルスケア部門」、ディスプレイ、電子デバイスなどの「エレクトロニクス部門」の3つの部門で事業を展開しています。(NEXT DX LEADER編集部)

注力事業領域に5年で2,600億円以上を投入

2023年4月のセグメント別売上高構成比は、祖業の印刷事業を含むスマートコミュニケーション部門(旧情報コミュニケーション部門)が52.3%と過半数を占めていますが、同営業利益では32.8%にとどまっています。一方、売上高の14.8%を占めるエレクトロニクス部門は、営業利益の57.5%を生み出しています。

DNPは2023年5月、2024~2026年度の「中期経営計画」を発表。「未来のあたりまえをつくる。」をブランドステートメントに掲げ、ROE(自己資本利益率)10%(2023年3月期は7.9%)、株価純資産倍率(PBR)1倍超(2023年8月16日現在で0.91倍)の早期実現を目指すとしています。

2023~2025年度 中期経営計画説明資料(2023年5月17日)より

2023~2025年度 中期経営計画説明資料(2023年5月17日)より

計画達成に向けて、中長期の事業ポートフォリオを「市場成長性・魅力度」「事業収益性」で4象限に分類。収益性・成長性がともに大きい第一象限の「成長牽引事業」と、市場成長性・魅力度が大きな第二象限の「新規事業」「注力事業」と位置づけ、経営資源の集中投入と利益創出の拡大・加速を目指しています。

成長牽引事業:デジタルインターフェース関連〔光学フィルム・メタルマスク等〕、半導体関連〔フォトマスク・リードフレーム等〕、モビリティ・産業用高機能材関連〔バッテリーパウチ等〕(いずれもエレクトロニクス部門)
新規事業:コンテンツ・XRコミュニケーション関連(スマートコミュニケーション部門)、メディカル・ヘルスケア関連(ライフ&ヘルスケア部門)

2023~2025年度 中期経営計画説明資料(2023年5月17日)より

2023~2025年度 中期経営計画説明資料(2023年5月17日)より

一方、市場成長性・魅力度の伸び率は低水準ながら収益性の高い第三象限の「基盤事業」には、イメージングコミュニケーション関連〔写真メディア等〕と情報セキュア関連〔BPO、認証・決済関連等〕)を選定し、事業効率を高め安定的にキャッシュを創出します。

市場成長率が低く収益性の厳しい第四象限の「再構築事業」である既存印刷関連と飲料事業は、生産能力や拠点の縮小・撤退を含めた最適化を進めるとともに、注力事業領域へのリソース再配分や強みを持つ製品・サービスの強化による構造改革を推進するとのことです。

具体的な投資計画は、成長牽引事業と新規事業の「注力事業領域」へは、2023年度から5年間で2,600億円以上の集中投資を実施。設備更新等を含む基盤構築投資には1,300億円以上の投資を行い、「事業ポートフォリオ改革」を推進します。

XR空間を「まちづくり」や「マーケティング」に活用

注力事業のうち「成長牽引事業」のエレクトロニクス事業は、主に生産能力向上を目指した投資を実施。一方で、コンテンツ・XRコミュニケーション関連とメディカル・ヘルスケア関連という2つの「新規事業」は、DXとの関わりが強くなっています。

DNPは「高精細な表現技術」「大量の情報処理能力」の強みを活かし、リアルとバーチャルの双方を行き来できる新しい体験と経済圏を創出する「XRコミュニケーション事業」を2021年3月から事業展開しています。

2023~2025年度 中期経営計画説明資料(2023年5月17日)より

2023~2025年度 中期経営計画説明資料(2023年5月17日)より

XR(eXtended Reality)とは「現実世界と仮想世界を融合する技術」を総称した言葉で、拡張現実(AR)や仮想現実(VR)、複合現実(MR)といった、いわゆる没入型インタラクティブ技術を含みます。

DNPには、世界中の多様なIPホルダーやクリエイターとのネットワーク、アーカイブ事業や情報セキュア関連事業で培った高精細画像処理技術版権処理の実績と信頼、個人や情報を安全に認証しながらリアルとデジタルの双方で大量のデータを流通させ、ビジネスプロセスを統合・最適化させることができる強みがあります。

XRコミュニケーション事業では、これら自社の強みとパートナー企業の強みとを掛け合わせて新しい体験価値を創出し、「安心・安全な地域共創型のXR/メタバース空間の提供」「表現の拡張や良質なコンテンツ発信による文化価値の創造」「新しいコミュニケーションや経済活動の創出」を担うとしています。

想定される事業領域は「XRまちづくり事業」「生活者とのコミュニケーション接点強化のXR事業」「企業のマーケティング領域におけるXR事業」。XRまちづくり事業の具体的な取り組みとしては、2022年4月にAKIBA観光協議会と連携してオープンした「バーチャル秋葉原」があげられます。

DNPはXRコミュニケーション事業によって、2025年度には2022年度の2倍超の売上高をあげると計画しています。

医薬品支援会社との提携で「DX&サポート事業」を推進

もうひとつの新規事業であるメディカル・ヘルスケア関連について、DNPは、原薬製造、製剤、剤形変更、医療パッケージ製造等の「製薬サポート事業」と、画像診断やオンラインヘルスケアサービス等の「スマートヘルスケア事業」を拡大するとしています。

この事業領域においては、DNPがこれまで出版・包装・半導体等の事業で培った「画像処理・カラーマネジメント技術」「無菌・無酸素重点技術」「ミクロ・ナノ造形技術」「精密有機合成技術」などが強みになるとしています。

2023年4月には、CRO(医薬品開発支援)やCDMO(医薬品製剤開発・製造支援)、CSO(医薬品営業支援)など医薬品の各種支援を行う会社を傘下に擁するシミックホールディングス社と戦略的事業提携を締結し、シミック傘下の医薬品製造受託会社シミックCMOを買収・子会社化しています。

XRコミュニケーション事業

XRコミュニケーション事業

DNPは、食品パッケージ技術を発展させた「医薬品パッケージ事業」や、精密有機合成技術を駆使した「原薬事業」を営み、セキュアな情報処理技術を有しています。これら自社の強みと、「強固な顧客基盤と高い製剤技術」「製薬企業のバリューチェーン支援事業」を有するシミックグループが相互補完し、シナジーを生み出していくとのことです。

具体的には、治験のDX推進や原薬事業、既存薬の価値向上事業などヘルスケア事業の協業によって、臨床開発・治験施設支援から、医薬品の保存流通、健康の維持増進・未病対策等までをカバーする「医療・健診系DX&サポート事業」を強化していきます。

DNPはメディカル・ヘルスケア関連事業によって、2025年度には2022年度の7倍超の売上高に拡大するという計画を立てています。

「ハイブリッドな強み」を融合する独自の価値創造目指す

DNPは2022年の統合報告書の中で「DX関連の基本方針」を示し、「デジタルとアナログ、リアルとバーチャル、モノづくりとサービスなど、ハイブリッドな強みを融合するDNP独自のDXによる価値創造」に取り組むとしています。

そして、「デジタルを活用した新製品・新サービスを創出」と「デジタルを活用し、既存の製品・サービスに新たな価値を付加」による事業推進、および「社内システムの革新とICT人材・DX人材の育成・拡充」「工場のスマート化による生産性の飛躍的な向上」による基盤の強化を、オールDNPで進めるとしています。

DNPグループ統合報告書2022(2022年8月)より

DNPグループ統合報告書2022(2022年8月)より

DXの推進体制は、社長が任命する最高デジタル責任者(CDO:Chief Digital Officer)が、全社のDX関連の取り組みを統括。本社に専任の「DX推進統括組織」を設置し、各事業部門の新規事業開発担当、研究開発部門、情報システム部門ほか関係部門が連携して、全社でDXのメガトレンドを追い風とした施策を推進しています。

DXを推進する基盤の強化として、クラウドサービスを活用した社内システム基盤の革新、テレワークや事業継続計画(BCP)対策の強化、ゼロトラストネットワークへの注力、海外拠点も含めたICTガバナンスの強化に向けたインフラ整備にも取り組んでいます。

また、DX推進を支える人材の強化として、ITC/DX人材の定義や把握とともに、全社員を対象とした教育実施や資格取得の奨励などの「育成の強化」、人材の確保と適切な処遇が可能になる「制度の整備」などを行っています。


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考察記事執筆:NDX編集部

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