双日のDX:「Digital in All」で全事業にデジタル実装 中古車をスキャンしデジタルツインで取引 | NEXT DX LEADER

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双日のDX:「Digital in All」で全事業にデジタル実装 中古車をスキャンしデジタルツインで取引

【双日】DX の取組み~クロマグロ養殖での活用 より

双日(そうじつ)は2003年、ニチメンと日商岩井の合併によって発足した総合商社です。源流となる日本綿花、鈴木商店(のちの日商)、岩井商店の創業はいずれも明治時代で、150年以上の歴史があります。

双日の業績はリーマンショック後に悪化し、2012年3月期には36億円の当期純損失を計上。その後は右肩上がりに回復したものの、コロナ禍の打撃で再び大きく落ち込みます。しかし2022年3月期以降は双日発足以来過去最高益を2期連続で更新し、2023年3月期は収益2兆4,798億円、当期純利益1,112億円をあげています。(NEXT DX LEADER編集部)

4つの成長戦略に「デジタル・新技術」を掛け合わせて展開

双日のセグメントは「自動車」「航空産業・交通プロジェクト」「インフラ・ヘルスケア」「金属・資源・リサイクル」「化学」「生活産業・アグリビジネス」「リテール・コンシューマーサービス」「その他」の8つ。その他を除く7つの本部体制で事業を推進しています。

2023年3月期の当期純利益は、その他事業(37億円の赤字)を除いてすべて黒字に。黒字部分の構成比は「金属・資源・リサイクル」が54.6%と過半数を占め、「化学」の16.1%を加えると7割を超えています。

「2023年3月期決算」(2023年5月2日)より

「2023年3月期決算」(2023年5月2日)より

双日は2021年4月、「中期経営計画2023 ~Start of the Next Decade~」を策定し、2023年3月期までの3ヶ年の道筋を示しています。

2030年の双日の目指す姿として「事業や人材を創造し続ける総合商社」というビジョンを掲げ、成長の実現に向けて「新規投資の継続」「既存ビジネスの収益構造の抜本的な変革」を行うとしています。

成長戦略として「社会課題としてのEssentialインフラ開発とサービス提供」「3R(リデュース・リユース・リサイクル)事業の深化」「東南アジア・インド市場のリテール領域取組強化」「国内産業活性化・地方創生の取組を通じた価値創造」の4つを掲げるとともに、これらを「デジタル・新技術」「社内外での共創」と掛け合わせることで、成長を果たしていくとしています。

「中期経営計画2023~Start of the Next Decade~」(2021年4月30日)より

「中期経営計画2023~Start of the Next Decade~」(2021年4月30日)より

2023年3月期決算と同時に行われた中期経営計画の進捗報告では、事業を「収益性」「成長性」で4象限に分け、低収益トレーディング事業から撤退をしつつ、「Digital in All」を合言葉に全事業にデジタルの実装を進め、企業価値の向上に努めるとしています。

「2023年3月期決算」(2023年5月2日)より

「2023年3月期決算」(2023年5月2日)より

中期経営計画期間中の3ヶ年で総額3,000億円の投資を行い、このうち、足元の着実な成長に向けて「インフラ・ヘルスケア事業」へ1,200~1,500億円、成長マーケットと共に成長するために「成長市場×マーケットイン志向」へ1,000~1,200億円、従来ビジネスからの変革に向けて「素材・サーキュラーエコノミー事業」へ300~500億円を投資するとしています。

日本IBMの初代CDOを最高デジタル責任者に招聘

中期経営計画2023はDXを「変革と創造」の手段と位置づけています。DX戦略を全社的な経営戦略・事業戦略や事業モデル変革へより深く組み込み、事業モデル変革に向けた取り組みを加速。社長トップによるDX推進体制のもと、具体的な個別実装による事業変革・創出に取り組みつつ、エキスパート人材を育成し実践で活用、デジタル推進部の専門性を強化するとしています。

2021年4月からは、DXの最終責任者・実行者である社長を委員長とした「DX推進委員会」を月1回開催。全社DXの推進の進捗・効果検証結果を共有し、事業へのデジタル活用のための活発な議論を交わし、迅速な意思決定を行っているとのことです。

「2023年3月期決算」(2023年5月2日)より

「2023年3月期決算」(2023年5月2日)より

また、CIOとともに「DX実装」を進める責任者として、日本IBMで初代CDO(最高デジタル責任者)を務めた荒川朋美氏を、2021年12月から執行役員CDOに迎えています(現在はCDO 兼 CIO 兼 デジタル推進担当本部長)。

CDOとCIOはDXの推進主体である営業本部・コーポレート部門を支援し、ERPや全社ITインフラ、データ基盤の構築を進めるとともに、個別事業のDX実装支援や初期段階からの構想支援などを行います。

双日のDX戦略は2本柱で推進され、「事業モデル変革」では、既存事業におけるデータの活用やテクノロジーの実装加速を進めるとともに、デジタル実装を前提とした新事業の創出、事業価値の向上を進めるとしています。

「デジタル人材育成」では、基礎的な知識の習得から始まり、最終的には、データ分析による仮説検証を主導しビジネス課題への解決策を企画・立案できる「データ分析」や、デジタルを活用した新規ビジネスの創出や既存ビジネスのバリューアップ推進ができる「ビジネスデザイン」のスキルを身に着けた人材の育成を目指しています。

事業モデル変革の例としては、「システム環境/基幹システム」「AR/VR、デジタルツイン」「ブロックチェーン」「クラウド」「AI・高速処理」「IoT」といったデジタル技術を、7つの本部の事業領域において活用し、さまざまなテーマで取り組んでいくとのことです。

「Sojitz IR Day 2022」より

「Sojitz IR Day 2022」より

高速で泳ぐ養殖マグロの群れを95%の精度で把握

双日が現在取り組んでいるDXが、自動車本部における「中古車流通DX」です。現在の中古車流通には、「大量の一品一品をマニュアル対応」「多くのプレーヤー間の取引(で取引ごとに車両の移動を伴う)」「一つ一つの商圏が小さい」という課題があります。

これを、中古車をスキャンしたデジタルツインを介してバーチャルな取引を行うことで、業者に対して「査定の自動化」「車両の移動コストの低減」「リードタイムの低減・在庫回転率の向上」「販売・買取機会の増加」といったメリットをもたらし、ひいては消費者に対して「購入価格の低下・買取価格の増加」「品質査定の透明性の向上」「選択肢の増加」といったメリットをもたらすとしています。

「Sojitz IR Day 2022」より

「Sojitz IR Day 2022」より

執行役員自動車本部長の金武達彦氏は「統合報告書2022」の中で、中古車流通DXの取り組みについて以下のようにコメントしています。

「中古車は一点ものですので、その車の固有の状態や情報を得るために、お客様は実物を見て購入するのが一般的です。しかし、実車を見に行かなくとも、実車を見るのと同様か、それ以上の情報を得られるようにデジタル技術を活用しています。新しいビジネスモデルを作る取り組みです。対象の車をブースに入れて外装・内装全面をスキャンし、数分間で実物の「デジタル・ツイン」を作成することによって、全方位からの外観や、傷や凹み、肉眼では見えない修繕塗装の箇所を確認したりすることができます」

また、長崎県・玄界灘における本マグロ海上養殖事業において、生簀内のマグロの遊泳状況や尾数をデジタル技術で正確に把握し、養殖の効率化を目指す「双日ツナファーム鷹島のスマート養殖システム」の構築に取り組んでいます。

生簀をまるごとデジタル空間で再現する「デジタルツイン」の技術を使い、濁った海水の中を高速で泳ぐマグロの群れを95%の精度で把握。ムダのない効率的な餌の量を算出し、最適な出荷タイミングが把握できるようになったとのことです。

「2024年3月期第1四半期決算資料」(2023年8月1日)より

「2024年3月期第1四半期決算資料」(2023年8月1日)より

これらの取り組みが評価され、2023年5月31日には経産省が東証などと共同で選定する「DX銘柄2023」に初選定。DXを実践するための体制づくりと、経営戦略・事業戦略に基づく実践によりデジタルが業務に浸透している点が評価されています。


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考察記事執筆:NDX編集部

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