JR西日本のDX:グループ事業の「共通会員化」でレコメンド精度向上 移動に連動しない事業機会も探索 | NEXT DX LEADER

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JR西日本のDX:グループ事業の「共通会員化」でレコメンド精度向上 移動に連動しない事業機会も探索

【<公式>JR西日本】「私たちの志」コンセプトムービー より

JR西日本は1949年に国鉄として設立され、1987年の民営化で西日本旅客鉄道となった会社です。近畿圏をはじめ北陸・中国地方、九州北部など2府16県に路線網を持ち、山陽新幹線の全線(新大阪駅~博多駅)と北陸新幹線の上越妙高駅~金沢駅間を管轄しています。

2023年3月期時点でのセグメントは4つで、鉄道やバス・フェリーの「運輸業」を中心に、百貨店や物販・飲食等の「流通業」、不動産販売・賃貸、ショッピングセンター運営の「不動産業」、ホテル業や広告業などの「その他」を展開。2024年3月期からは後述するようにセグメントの再編を行っています。(NEXT DX LEADER編集部)

コロナ禍で中計見直し、グループデジタル戦略を策定

コロナ禍はJR西日本の業績に大打撃を与えました。2020年3月期には1兆5082億円あった営業収益は、2021年3月期には9200億円まで激減。当期赤字は2331億円まで膨らみました。赤字は翌期も続き、2023年3月期になってようやく営業収益1兆3955億円、当期黒字885億円まで回復しています。

特に影響を大きく受けたのが運輸業で、2020年3月期には全体の6割を超えていた営業収益に占める運輸業の割合が、2021年3月期には51.0%にまで縮小。業績回復した2023年3月期も53.8%にとどまっています。

JR西日本は2020年10月に「中期経営計画2022見直し」を発表。当初掲げた収支面の目標達成は困難な状況にあるとしたうえで、社会の変化を変革の契機と捉え、地域と共に成長し続け、持続可能な社会づくりに貢献するとしています。

「JR西日本グループ中期経営計画2022」見直し(2020年10月30日)より

「JR西日本グループ中期経営計画2022」見直し(2020年10月30日)より

「見直し」では、コロナ前からの環境変化として「日本国内の人口減少」による消費市場縮小、労働力確保の難化等のトレンドをあげつつ、コロナ禍で加速した変化のひとつとして「ICTツール活用によるデジタル空間の広がり、働き方を含めた暮らしの多様化、価値観の変化」をあげています。

そして、コロナ禍からの経営再建と事業構造改革に向けて4つの戦略を掲げ、「変革・復興期(第Ⅰ期)」に着手すべき戦略を「変化対応力を高める企業改革」とし、施策のひとつに「JR西日本グループデジタル戦略の推進」をあげています。

「WESTERポイント」で西日本エリアの活性化を図る

「JR西日本グループデジタル戦略の推進」の軸とされているのが、「顧客体験の再構築」(お客様ニーズに応じたサービスのあり方の追求)、「鉄道システムの再構築」(技術ビジョンの実現)、「従業員体験の再構築」(働き方改革)の“3つの「再構築」”。グループが持つデータの利活用を促進し、駅や店舗、地域のリアルな体験へとつなげ、新しい価値を生むとしています。

「JR西日本グループ中期経営計画2022」見直し(2020年10月30日)より

「JR西日本グループ中期経営計画2022」見直し(2020年10月30日)より

この方針を受け、2020年11月の組織改正では、デジタル技術やデータの利活用促進、グループマ-ケティングなどの組織横断的な取り組み推進を目的として、長谷川一明社長を本部長とする「デジタルソリューション本部」を新設。さらに2021年6月の組織改正では、デジタルソリューション本部内に「ビジネスデザイン部」を設置。また、デジタル戦略をより統合的に推進するために、同本部内に「IT部」を設置し、従来のIT本部を移管、統合しています。

2023年3月17日には「JR西日本グループのDXを通じた企業変革・価値向上 For IR small MT」と題するテーマ別スモールミーティングを開催。グループデジタル戦略の基本方針について説明しています。

「JR西日本グループのDXを通じた企業変革・価値向上」(2023年3月17日)より

「JR西日本グループのDXを通じた企業変革・価値向上」(2023年3月17日)より

既存事業はターゲットのほとんどが鉄道利用者であり、鉄道需要急減の影響が直撃していることを踏まえ、企業グループ本業の価値向上を図りつつ、新たな外部収益創出を行っていくとしています。

方針の1つ目は「顧客体験の再構築」で、JR西日本が展開している共通ポイントサービス「WESTERポイント」を活用し、移動生活ナビアプリ「WESTER」「モバイルICOCA」「J-WESTカード」と組み合わせて利用してもらうことにより、オンライン・オフライン問わず移動機会増や地域消費拡大により、西日本エリアの活性化を図るとしています。

「JR西日本グループのDXを通じた企業変革・価値向上」(2023年3月17日)より

「JR西日本グループのDXを通じた企業変革・価値向上」(2023年3月17日)より

スモールミーティングの質疑応答の中で、取締役兼執行役員デジタルソリューション本部長の奥田英雄氏は、取り組みのねらいについて以下のように説明しています。

これまでは、例えばSC(ショッピングセンター)の会員、ホテルの会員、鉄道の会員といったようにセグメント単位での発想であり、実は同じお客様であってもグループとして把握できない状態であった。(略)共通会員化することにより、お客様がどこで、どんなお買い物をされ、どのように鉄道をご利用になるのか、といった連続した動きがわかるようになる。それを踏まえ、グループを挙げてより精度の高いレコメンドを行い、次のご利用につなげていくことができる。

長期ビジョンで「ライフデザイン分野」へのシフト掲げる

方針の2つ目は「鉄道システムの再構築」で、データソリューション展開による自動改札機の故障予測を、社内活用にとどまらず、同業他社の大手・中小鉄道会社に展開したり、生産工場の機械故障予測やATMの故障予測など異業種に展開したりするとしています。

3つ目は「新たな価値創出」で、移動に連動しない第3の柱の構築に向けて、ビジネスデザイン部を中心にアセットの整理や事業機会の探索、実証・育成・スケールといった取り組みを始めています。

4つ目は「変化対応力のある企業グループに向けて」というタイトルで、DXに必要な高度人財を数百人レベルまで採用・育成するとしています。

2023年4月28日には、10年後を見据えた「長期ビジョン2032」を公表。従来の運輸業にその他事業の貸自動車業などを統合して「モビリティ業」とし、旅行業を「旅行・地域ソリューション業」に変更、ホテル業を不動産業に移管するなどのセグメント見直しを行っています。

「2023年3月期決算・中期経営計画2025に関する説明会資料」(2023年5月1日)より

「2023年3月期決算・中期経営計画2025に関する説明会資料」(2023年5月1日)より

そして、コロナ前には20%弱だったライフデザイン分野(モビリティサービス分野以外)の連結営業利益を、2025年には25%程度、2032年には40%にまで引き上げることを目指すとしています。

  • モビリティサービス分野:鉄道・交通、流通(物販飲食等)、ホテル、旅行
  • ライフデザイン分野:不動産、SC、地域・まちづくり、デジタル戦略、新たな領域
「JR西日本グループ長期ビジョン2032/中期経営計画2025」(2023年4月28日)より

「JR西日本グループ長期ビジョン2032/中期経営計画2025」(2023年4月28日)より

あわせて、長期ビジョンの第一ステップとして、2025年までの「中期経営計画-ポストコロナへの挑戦-」を公表。鉄道の安全性向上、鉄道をはじめとする各事業の活性化と構造改革、不動産・まちづくりのさらなる展開に加え、スモールミーティングでも取り上げた“WESTER体験”による「デジタル戦略による多様なサービスの展開」を掲げています。

「JR西日本グループ長期ビジョン2032/中期経営計画2025」(2023年4月28日)より

「JR西日本グループ長期ビジョン2032/中期経営計画2025」(2023年4月28日)より

また「新たな事業の創出」では“WESTER体験”を発展させ、新決済とポイント、データがつなぐ「未来型のまちづくり」に挑戦するほか、駅をメタバースに構築し、現実世界と仮想世界を融合する「XR(クロスリアリティ)ビジネス」の模索なども行っていくとしています。


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考察記事執筆:NDX編集部

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