日本企業はこれから「システム開発の内製化」を進めていくべきなのか? | NEXT DX LEADER

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日本企業はこれから「システム開発の内製化」を進めていくべきなのか?

最新のIT人材動向に関する説明会~IT人材白書2020より~ より

ガートナージャパンは2023年1月18日、日本国内のユーザー企業でソフトウェア開発に従事する個人を対象とした調査結果を発表した。

今後のソフトウェア開発について、所属する企業の方針が「内製化の方向」とした回答者の割合は54.4%と過半数を占め、「外製化の方向」と答えた回答者の35.4%を大きく上回った。

回答者自身の見解でも「内製化推進」の割合は56.4%とさらに高く、「外製化推進」は40.7%にとどまった。(以下はNEXT DX LEADER編集部による考察です。)

現状の人材配置と「調査結果」とのギャップは大きい

ソフトウェアやシステムの開発をもっぱら社外のSIerに発注するため、日本のユーザー企業はIT活用に必要な知見が社内に蓄積されず、外注コストばかり嵩んでいる――そう問題視する指摘は、これまでも少なからずあった。

やや古い調査だが、日本のIT人材の所属先割合は「IT企業」が72.0%と大きく偏っており、米国では逆にユーザー企業側に65.4%が属しているという結果がある。DXの取り組みの高まりでIT企業の積極採用が進み、日本ではIT企業の割合が更に高まっているという見方もある。

IPA「IT人材白書2017」より

IPA「IT人材白書2017」より

このような状況を基に、日本でもユーザー企業におけるIT人材の確保・育成が課題とされてきた経緯がある。セブン&アイ・ホールディングスやファーストリテイリング、星野リゾートや良品計画など、成長企業で内製化が始まっていると報じられているが、それがニュースになる程度にはまだ珍しい段階である。

それだけに、今回の調査結果を意外と感じた人も多いのではないか。少なくとも、現状の人材配置と「今後の方向性」に関する回答とのギャップは、あまりに大きい。

「内製したくてもできる人がいない」状態は変わっていない

とはいえ、「方向性」に対する意向と、実際の取り組みが一致するとは限らない。

ガートナージャパンの調査に戻ると、回答者に「企業の方向性が内製化である理由」について尋ねたところ、「開発コストの削減(SIに支払うコストが高額なため等)」と答えた回答者が55.2%と最も多かった。

次いで「開発、実装、保守対応の迅速化(SI企業とのやりとりの時間が長い等)」が49.7%、「自社ビジネス・ノウハウの活用」が46.6%、「自社における開発スキル、ノウハウ、ナレッジ、経験の改善・蓄積」が42.9%と続いている。

つまり、外製化による「コスト」「スピード・柔軟性」「自社ノウハウ活用・蓄積」という問題意識・課題感は、従来と変わっていないということである。

(出典:「Gartner、日本におけるソフトウェア開発の内製化に関する調査結果を発表」2023.1.18)

(出典:「Gartner、日本におけるソフトウェア開発の内製化に関する調査結果を発表」2023.1.18)

また、「内製化推進の妨げ、および外部委託推進の理由」は「IT部門の人手不足」が64.7%と圧倒的多数を占めている。

これは、「開発要員の育成の仕組みがない」(27.3%)や「IT部門に開発スキル、専門性がない(要件定義、アーキテクチャなど)」(26.0%)といった理由を大きく引き離しているが、要するに「内製したくてもできる人がいない」ということである。

(出典:「Gartner、日本におけるソフトウェア開発の内製化に関する調査結果を発表」2023.1.18)

(出典:「Gartner、日本におけるソフトウェア開発の内製化に関する調査結果を発表」2023.1.18)

システム開発を「コスト」としか考えない経営者にも問題?

ガートナージャパンの調査結果をあらためてまとめると、「コストやスピードに関する問題があるので、ユーザー企業に内製化を進めたい意向はあるが、現実にはIT人材が社内に不足、あるいはいないので困難」ということになる。

人材不足を解決しない限り、今後も引き続き外注化するしかない、という結論になってしまう。あるいは、コスト抑制を最優先し、社員だけで使えるシステムを内製して運用していくことになるのだろうか。

なお、冒頭の調査結果を報じたヤフーニュースのコメント欄には「某SaaSベンダーの営業」を名乗る人が、中小企業の「システム内製化」の例を挙げ、そのようなやり方で内製化にこだわっても「淘汰されていくだけだと思う」と厳しい批判を残している。

「中小なんて、20年前に自分らで作った化石みたいなAccess使ってる。今も各部門からの要件を1人が全部取りまとめて、Accessで1から作ってる会社なんて山ほど有るけどマジで生産性低い。そんな会社に限って、ベンダーの提案に対してはランニングコストの懸念や反対意見しか出てこないし、自分らの生産性なんて何も考えてない」

おそらく社内情報システム部門の担当者が1名だけで(いわゆる「ひとり情シス」状態で)、現場のニーズに応えている中小企業の状況を指しているのだろう。デジタル型ビジネスモデルへの転換に二の足を踏み、システム開発にかかる費用を必要な投資ではなく「コスト」としか考えない経営者の感覚にも、問題の一端がありそうだ。

出典:経産省「我が国におけるIT人材の動向」

出典:経産省「我が国におけるIT人材の動向」

また、経産省の調査によると、日本のIT人材の年収分布は、平均値で見るとどの年代でも日本が大きく下回っている。従来の年功序列型・マネジメント重視型のユーザー企業において、中途採用のデジタル専門人材を適切に処遇することは簡単ではなく、その点も「IT人材のユーザー企業への移行」や「ソフトウェア・システム内製化」を阻んでいるのではないか。

YouTube:最新のIT人材動向に関する説明会~IT人材白書2020より~

考察記事執筆:NDX編集部

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