味の素のDX:DX1.0からDX4.0の具体的内容を詳細に解説。「ASV指標」の達成に向けて業務やビジネスを変革 | NEXT DX LEADER

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味の素のDX:DX1.0からDX4.0の具体的内容を詳細に解説。「ASV指標」の達成に向けて業務やビジネスを変革

【味の素グループ2023年度 経営方針説明会】  藤江社長メッセージ より

味の素の歩みは1908年、東京帝国大学の池田菊苗博士が昆布からうま味を取り出した調味料「グルタミン酸ナトリウム」の製造法特許を取得したことから始まりました。この特許をもとに事業経営を任された鈴木製薬所が、翌1909年に「味の素」の一般販売を開始。これが味の素の「創業の日」となっています。

戦後は事業領域を、マヨネーズやスープ、和風・中華風調味料、冷凍食品などに拡張。現在は「調味料・食品」「冷凍食品」のほか、「ヘルスケア等」(医薬用・食品用アミノ酸、医薬品受託製造、電子材料等)、「その他」(油脂、物流など)の4セグメントで事業を展開しています。(NEXT DX LEADER編集部)

中期経営計画を期中で廃止。「ASV指標」に差し替え

2023年3月期の売上高は1兆3,591億円、事業利益は1,353億円、親会社の所有者に帰属する当期利益は940億円と、いずれも過去最高を更新しました。

「中期ASV経営 2030ロードマップ」(2023年2月28日)より

「中期ASV経営 2030ロードマップ」(2023年2月28日)より

セグメント別では、調味料・食品が7,750億円、ヘルスケア等が2,996億円、冷凍食品が2,672億円、その他が171億円。同事業利益は、調味料・食品が848億円、ヘルスケア等が486億円、冷凍食品が20億円、その他が1億円の赤字でした。

味の素は2020年2月に策定した「中期経営計画(2020-2025年)」に取り組んできましたが、2022年4月1日付けで代表執行役社長兼CEOの西井孝明氏と代表執行役副社長兼CDO(最高デジタル責任者)の福士博司氏が退任。さらに2023年2月、新しい取締役 代表執行役社長 最高経営責任者の藤江太郎氏のもと、中期経営計画の廃止を発表しました。

「中期ASV経営 2030ロードマップ」(2023年2月28日)より

「中期ASV経営 2030ロードマップ」(2023年2月28日)より

2025年度目標に向けて構造改革が順調に進展し、実現の目途がついたものの、数値目標達成に向けて既存事業の積み上げにこだわるあまり、市場の変化に素早く対応できず、新たな製品やサービスが生まれない、というのがその理由です。

新たに掲げられたのが「ASV(味の素グループシェアードバリュー)指標」で、コミットメントとしての業績予想を追いつつ、新たな価値や事業モデルを追求し、実行力を磨き向上させる「中期ASV経営」を推進するとしています。

「中期ASV経営 2030ロードマップ」(2023年2月28日)より

「中期ASV経営 2030ロードマップ」(2023年2月28日)より

AVS指標には経済価値指標と社会価値指標があり、前者は「ROE(自己資本利益率)」「ROIC(投下資本利益率)」「オーガニック成長率(前期比)」「EBITDAマージン(売上高に占めるEBITDAの割合)」、後者は「環境負荷削減の取り組み(環境負荷50%削減)」「栄養コミットメント(10億人の健康寿命延伸)」となっています。

また、これらの指標を達成するための無形資産強化のKPIを設定。「従業員エンゲージメントスコア」はエンゲージサーベイの結果(「ASV自分ごと化」およびASV実現プロセスの9設問の平均値)で85%以上。「コーポレートブランド価値」はインターブランド社の調査結果で、2019年比でCAGR(年平均成長率)7%以上を目指しています。

DX1.0が求める「オペレーショナル・エクセレンス(OE)」

社長およびCDOの交代により戦略・計画変更の過渡期にある味の素ですが、2023年6月改訂の「味の素グループのデジタル変革(DX)―食と健康の課題解決企業へ―」では、DXを「ASV経営のスピードアップ×スケールアップを図る手段」として位置づけています。

そこでは「DXのゴールは、全社と同一」とも明記しており、DXによる経済価値と社会価値および無形資産強化への直接的な貢献が求められています。

加えて、無形資産強化に向けたDX推進上のKPIとして「DX人財増強計画」を策定。「ビジネスDX人財」を2022年度までに100人体制、2025年度までに200人体制に増やし、2026年度以降は「全員ビジネス人財」にしていくという計画が示されています。

さらにシステム開発者を現在50人から、2022年度までに200人体制に増やし、データサイエンティストも現在の10人から、2022年度までに20人体制とし、その後も30人、50人と増やしていくとしています。

「味の素グループのDX」(2021年)より

「味の素グループのDX」(2021年)より

DXの推進にあたっては、フェーズを4つに分け、DX1.0を「全社オペレーション変革」、DX2.0を「エコシステム変革」、DX3.0を「事業モデル変革」、DX4.0を「社会変革」とし、2023年度から2025年度のフェーズ2では、DX3.0に取り組むとしています。

「味の素グループのデジタル変革(DX) 」(2023年6月2日改訂)より

「味の素グループのデジタル変革(DX) 」(2023年6月2日改訂)より

「味の素グループのデジタル変革(DX)」には、DX1.0からDX4.0の具体的内容が詳細に解説されていますが、必ずしもデジタルありきではなく、業務やビジネスの革新自体が目的になっているところが特徴です。

まずDX1.0で必要とされているのは「オペレーショナル・エクセレンス(OE)」で、自社グループ内でのオペレーション改革の実現と継続的な磨き込みができている段階です。

OEでは、「合理性」「論理性」「継承性」「優位性」「統合性」という5つの要件を満たしながら、徹底的なデータに基づくマネジメントを行うことを求め、以下の5つの姿を目指すとしています。デジタルツールありきではなく、業務の目指す状態を整理しているところがポイントといえるでしょう。

  1. 無駄のない業務の流れになっている
  2. 属人的ではなく、チーム(組織)として業務ができている
  3. 競合に勝ち続けられる業務になっている
  4. 組織を超えて業務目標が連動している
  5. 顧客に高い価値を提供できる業務になっている
「味の素グループのデジタル変革(DX) 」(2023年6月2日改訂)より

「味の素グループのデジタル変革(DX) 」(2023年6月2日改訂)より

「データ解析」と「パーソナル化」で食品事業の成長目指す

DX2.0の「エコシステム変革」は、社内外を問わず、ネットワークの中で相互に価値を発揮できるオペレーションが実現している段階です。例えば、組織や企業横断的な業務プロセス設計や、役割と責任の透明化、DMP(Data Management Platform)などを通じたデータ共有などができている状態を目指します。

エコシステム変革には「経営のエコシステム変革(経営のスマートネットワーク化)」「事業のエコシステム変革(顧客体験を軸にした事業のエコシステム変革)」があります。

「味の素グループのDX」(2021年)より

「味の素グループのDX」(2021年)より

前者には「IoT/AI/ロボット導入(2016年開始)」「基幹システムをSAP HANAに更新(2020年4月)」「情報企画部をDX推進部に改編強化(2020年7月)」「DMPの構築(2021年4月より順次実装)」「SCMデジタル化(2021年6月より順次導入)」「人事基幹システム統合(2021年7月)」などのIT領域の取り組み実績があります。

このほか、「働き方改革事務局設置(2016年度)」「副業申請許可制度導入(2019年度)」「委員会等設置会社への移行(2021年6月)」といったIT以外の取り組み実績もあります。

後者には「CX(顧客体験)パーソナライズマーケティング(スマートマーケティング)」「スマートR&B」「スマートファクトリー」「スマートサプライチェーンマネジメント」といった要素がありますが、経営と事業のエコシステム改革は相互に補完しあい、相乗効果を発揮しながら進化していくとしています。

「味の素グループのDX」(2021年)より

「味の素グループのDX」(2021年)より

DX3.0の事業モデル変革(BMX)の推進にあたり、グループの強みを活かせる4領域を設定。「ヘルスケア」「ICTソリューション」のほか、特に食品事業では、データ解析やパーソナル化といったDX等により「フード&ウェルネス」「グリーン」の2領域で成長を実現するとしています。

「中期ASV経営 2030ロードマップ」(2023年2月28日)より

「中期ASV経営 2030ロードマップ」(2023年2月28日)より

スタートアップとの連携強化でイノベーションを加速

現在取り組み中の「DX3.0からDX4.0へ」の変革については、味の素グループの無形資産であるテクノロジーと研究開発力を最大限活用し、スマートR&Dによりデジタル技術をフル活用・進化させ、様々な事業における製品・サービスの開発を加速・高度化するとしています。

このような取り組みは、すでに「血液中アミノ酸分析による健康サポートサービス(アミノインデックス)」「デジタルツインによる工場保全に関する新サービス(PLANTAXIS)」といった事例として形になっています。

「事業モデル変革」に向けたDX3.0の取り組みとしては、2020年12月にコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)を立ち上げ、「Well-being」「地域・地球との共生」「食の伝承と新たな発見」「調理の進化」の4つの領域で、将来性のあるパートナー企業への投資等を行っています。

「味の素㈱、コーポレートベンチャーキャピタルを新設」(2020年12月16日)より

「味の素㈱、コーポレートベンチャーキャピタルを新設」(2020年12月16日)より

2020年12月には、スタートアップとの連携強化によりイノベーションを加速する「Ajinomoto Group Acceleratorの採択企業6社を決定。対象はデジタル企業ばかりではありませんが、調理ロボット事業など先進的なDX企業も含まれています。

最近では、ITを活用したヘルスケア事業・生活メディア事業を行うおいしい健康へ、2022年1月に出資。味の素グループの資産の相互活用を通じ、食と健康、栄養を軸としてパーソナライズされた「食体験ジャーニー」の生活者への提供を進めていくとのことです。

さらに、社内起業家を発掘・教育してビジネスアイデアを事業化する「A-STARTERS」を実施。500名近い参加者からエントリーされた47テーマのうち2テーマが選考され、事業化に向けて現在進行しています。

YouTube:【味の素グループ2023年度 経営方針説明会】  藤江社長メッセージ

考察記事執筆:NDX編集部

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