コンサルティングからデリバリまで一貫したアプローチで提供価値を拡大する「コアDX」など成長事業で業績を伸ばす日本電気株式会社(NEC)。2018年度に699億円だった調整後営業利益は、2023年度には2,236億円に伸長。企業価値も右肩上がりに向上しています。
新卒生え抜き主義を貫いてきたNECも、キャリア採用に本格注力。並行して組織風土改革に取り組み、2024年4月からジョブ型人材マネジメントを全社導入しています。社内にはどんな変化が起こっているのか。NEC人材組織開発統括部の大橋康子さんにお話を聞きました。(聞き手・文:水野香央里)
優秀な人材に「NECを選んでいただく」時代に
――NECでは近年、キャリア採用を積極的に行っているそうですね。
本格的に注力し始めたのは2019年からです。2020年に策定した「2025中期経営計画」では文化面での目標に「選ばれる会社 – Employer of Choice」を掲げ、新卒採用とキャリア採用の比率を1対1にすることを目指してキャリア採用専門の部署を設けました。
その結果、それまでごく少数だったキャリア採用の人数を、2021年からの3年間で毎年約600人ずつまで増やすことができました。これにあわせて、既存社員を含めた「適時適所適材」を実現するジョブ型人材マネジメントにも取り組んでいます。
――方針転換にはどのようなきっかけがあったのでしょうか。
出発点となったのは、経営陣の危機感です。NECは2000年ころから事業環境の変化などで業績が低迷し、さまざまな改革を打ち出しましたが、グループとしての成長戦略も定まらず思うような成果が出ませんでした。
そのころのNECの採用は新卒採用が中心で、キャリア採用はごく少数でした。既存人材で仕事をすることが前提になっていたため社員の同質性が非常に高く、経営ボードは社内で30年、40年と仕事をしてきた人ばかりが占めていました。
しかし、変化の速い時代には自前主義では間に合わないということで、社外から経験者を迎えて変革を手助けしてもらう方向に大きく転換しました。2018年には「カルチャー変革本部」を設置しています。
キャリア採用は、まずは事業をリードできる執行役員や事業部長などトップマネジメント層から着手し、これからのNECの戦略やあるべき組織像、人員配置策の方向性が決まったところで、爆発的なキャリア採用の増加につながったというわけです。
――方針転換にあたって苦労したことはありますか。
事業部の意識変革です。従来のNECは新卒採用中心であったため「会社が人を選べる」という意識が非常に強く、キャリア採用の面接や選考、ジョブディスクリプションの作成などにもそれが強く表れていました。
しかし、人材の争奪戦が激化するキャリア採用では、優秀な候補者に「NECを選んでいただく」時代になっています。候補者を「お客様」と考え、エクスペリエンスを上げていくことが必要であると、社内の研修やミーティングを通して繰り返し伝えています。
人事部門と事業部門が協力して「定着と育成」をサポート
――新卒生え抜き型の組織では、キャリア入社の急増に戸惑いもあったでしょうね。
そもそも受け入れ側の社員に転職経験がないので、キャリア入社の人たちに何をしてあげる必要があるのか、何をしてあげれば喜ばれるのかが分からないという問題があります。
一方、いまどきのキャリア入社組はNECに入社して「一生これで安泰」だなんて思っている人は、ほとんどいないと思います。一社会人として、この会社が自分のステージに合っていて、ここで学び取れる、ここでやれることがあるから入社するのだと。
そういうふうにキャリアを自発的に作っていきたい人たちに対し、NECがいかにフィットするのかを伝えて納得してもらうか。会社としても、事業の拡大や新しい技術への取り組みに力を貸してもらう形で、双方が一緒に成長していくことが大切だと考えています。
――人事部門として事業部門へのサポートは行っているのでしょうか。
キャリア入社組は、以前はすぐに事業部門へ配属となり「即戦力のお手並み拝見」といった扱いでした。しかしそれでは、会社が進む方向性を説明したり、個人の意向を汲んだりする機会がなく、成果を上げにくい人がいたり、定着率が悪かったりしたのも事実です。
現在はキャリア入社組の人には、入社後4日間をオリエンテーションの期間としています。事務的な手続きのほか、NECが「カルチャー変革」でこれまでに行ってきたことや目指していること、会社が何を大事にしているのかを徹底的に理解してもらい、そこから事業部への配属という流れになっています。
入社3ヶ月後のタイミングでは人事部門からアンケートを行い、仕事に慣れたか、上司との1on1はどのぐらいの頻度であるかなど、その人がNECに定着できるかどうかを聞き取ります。そこで困っている声があれば、ビジネスサイドのHRに情報をつないで、適切なサポートを行えるようにしています。
同じように入社9ヶ月後にも、このまま仕事を続けていけそうかどうか確認しています。この段階で新たな問題が出る人もいれば、反対に問題や不安が解決して仕事にも慣れ、「すごく楽しいです」という声に変わる人もあります。
そのような情報をビジネスサイドにフィードバックし、どうすれば人材がうまく立ち上がっていくのか、育成できるのか、中長期的なキャリアに向かって長くNECで働いてもらうにはどういう支援が必要なのかを可視化し、サポートできる仕組みを作っています。
既存社員の「キャリア意識」が大きく変わった
――キャリア入社組が増えたことで、社内の変化はありますか。
これまでのNEC社員にとって「キャリア」とは、会社から与えられた仕事を着実にこなしていくうちに、結果的に「キャリア」といえるようなものが見えてくる、といった形であって、自分の意思を強く打ち出すものではありませんでした。
そこへ多くのキャリア入社組が来て、一緒に働くようになると「彼らはこれまでどんな経歴を歩んで来たのか、これから何をしたくてここに来たのか」と知りたくなります。そして、彼らの話を聞いて考えに触れるうちに、そういう道もあるのか、自分はどうなんだろうなどと考えるようになります。
会社としても同時期に、自主的なキャリア形成の必要性を強く押し出すようになったので、いまは会社任せではなく、現在の仕事が楽しいから続けたいのか、もう少し違う仕事をしたいのか、あるいは転職も視野に入れるのかなどを含め、上司と話をしながら自分のキャリアを自分の手で作っていく感覚が、既存社員の中にも芽生えてきたように思います。
2020年には、社員のキャリア支援を専門的に行う子会社「NECライフキャリア」を設立しました。今後のキャリアについてキャリアアドバイザーに悩みを相談し、職務履歴書の書き方やスキルの棚卸しなどについてサポートを受けることができます。必要であれば社外への転職について相談することも可能です。
――既存社員のキャリア意識を刺激することにもなったのですね。
最近は「社内公募制度」の利用も活発になってきました。制度自体は以前からあったのですが、既存社員の意識に変化が生まれたことで、より多くの人が利用するようになり、実際に異動した社員の数は累計で1,000を超えています。
この制度を活用してもらうために、AIによるマッチングの仕組みも導入していて、社員が登録した職務履歴書の内容に基づき、募集が行われているポジションについてAIからレコメンドが届くようになっています。応募者だけでなく採用する側にとっても、必要な人材の候補を探す手段として活用されています。
また、新たなスキルを身につける「リスキリング」についても、年次ごとの研修だけでなく、必要な時にスキル別に受けられる制度へと切り替えを進めており、ジョブを通してだけでなくOff-JTとして学習するための環境も整いつつあります。
「ジョブ型の報酬制度」はキャリア採用にもメリットが大きい
――人事評価制度も大きく変わったそうですね。
事業戦略に基づき、必要な組織やポジションに合わせた人材の配置や育成をタイムリーに行うために「ジョブ型人材マネジメント」への移行を行い、2024年度からは全対象に広げています。
ジョブ型とは、従来のいわゆるメンバーシップ型のように「人に仕事をつける」のではなく「仕事に人をつける」やり方です。新卒・キャリア採用ともに、あらかじめどのような職務内容でどういう給与体系で仕事をするのかを明示し、その条件に了承したうえで入社することになります。
配置転換も、会社による定期異動ではなく、本人のキャリア志向に基づいて行われるようになります。職務の内容やレベルが役割として定義されているので、昇格に必要なことを自発的に考え、リスキリングが必要なタイミングでトレーニングも受けられます。
NECのジョブ型人材マネジメントの特徴は「エコシステム」の考え方を重視していることです。人材獲得から入社、育成、評価、活用の人材フローを念頭に置き、サイクル全体をしっかりと作り上げていくことを大切にしています。上司にも部下一人ひとりの成長を支援するマネジメントが求められます。
最終的にNECを退職することを選んだとしても、元NEC社員として、これからのNECの成長を見てもらいたいと伝えていますし、再び復帰することについても非常にウェルカムに考えています。実際、我々のキャリア採用の場においても、リハイヤー、いわゆる出戻り社員から多くの応募があります。
このようなサイクルを、どれか1つだけを良くしようということではなく、どう続けていくことが必要なのか、常に考えながらシステム全体として動かしていく、アップデートしていくことを強く意識しています。
――ジョブ型はキャリア採用においてもメリットがあると言われます。
報酬制度は、職務の「市場価値」と「成果」に基づいて処遇を行うものに変わっています。そうすると、これまでの「この人はNECの新卒入社何年目に当たる」といった年次的な考えではなく、「この人の役割はこのジョブでこのグレードだからこの金額」という定義に基づいて報酬を決めることができます。
また、これまでは年収における賞与比率が非常に高かったため、キャリア入社の候補者にとっては、最終的な総年収は変わらないものの、結果として前職より月収が下がってしまうことがありました。この問題を基本給と賞与額の比率調整により解消しています。
「私はこうしたい」にもっとわがままになって欲しい
――現在はどのようなジョブのキャリア採用に注力していますか。
NECグループの事業は海底から宇宙まで幅広く、常時およそ500ポジションがオープンになっている状況です。その中でも最近特に採用人数が増えているのは、いわゆるDX領域のコンサルティングやエンタープライズ向けのシステム開発などです。
最近では、宇宙開発系や防衛といったナショナルセキュリティを担当する部署の採用数も増加しています。どちらも「2025中期経営計画」の戦略として注力しているITサービスと社会インフラに関わる事業や部署です。
――転職先の選択肢を探している人たちにどんなことを伝えたいですか。
私自身もNECのキャリア入社組ですが、転職先にどの会社を選ぶのか、どのような職業を選ぶのか、といったキャリア選択を考えることは、自分の人生をよりよいものにしていくために大事なことだと思います。
ですから、自分はこれをやりたい、もっとこうしてみたいという気持ちを大事にして欲しいです。私も過去の経験を踏まえ、今後こういう仕事がしてみたいと考えてNECを選びました。お互いに我慢したり、諦めたりするのではなく、会社を使って何ができるのか、もっとわがままに考えてもらいたいです。
一方、NECは会社として、どこへ向かっていきたいのか、そのためにどんな人に力を貸して欲しいのかを、明確にしていかなければならないと考えています。そのようにお互いがエッジを効かせた方が、合致したときのパワーも大きくなると思うんですよね。
会社を選ぶ前に、ジョブを軸に「私はこうしたい、こうじゃないなら嫌だ」と言えるように、しっかりと考え、口にできるようにしてもらいたいです。